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ヤブカンゾウの花が咲いています。[写真1]
ノカンゾウの花[写真4]が一重咲きなのに対し,ヤブカンゾウの花は八重咲きで,見るからに複雑な花をしています。

花を縦に切断して,構造を見てみました。[写真3]
花のなかから花筒が伸びて,また花が咲いている感じで,二重になっています。
雄しべのなかには花びらに変化しているものもあり,雌しべもどこにあるのかわかりません。
これでは実は結べそうにありませんね。

ヤブカンゾウについて,「牧野新日本植物図鑑」(1970年)には次のように書いてありました。

雄しべ雌しべは不規則に花弁化し時々3~4重になっているから果実は出来ない。根茎から横につる枝を出して繁殖する。若葉は食用になる。

ヤブカンゾウの遺伝子は3倍体で種子をつくることができません。
通常,生物の遺伝子は親から半数ずつの染色体を受け継いだ,2倍体(2n)です。
子孫を残す時には,減数分裂して染色体の数が半分になった配偶子を作ります。
3倍体というのは,突然変異により4倍体ができ,その減数分裂した2nの配偶子と,正常なnの配偶子が受精して3nとなったものです。
3倍体は正常な減数分裂ができないため,種子をつくることができません。

ヤブカンゾウは,別名をワスレグサともいいます。
前書には次のように書いてありました。

〔漢名〕この植物の基本形が(ホンカンゾウH.hulva L.)で萓草の本体であるが,支那ではこの花を見て憂いを忘れるという故事があり,「忘れる」に萓の文字を宛てることから萓草と称する。
〔日本名〕漢名の意訳である。ヤブカンゾウは藪にはえるためで,ノカンゾウよりも人の集落に近く生ずることをうまく表現している。

深津正著「植物和名の語源」(1999年)には次のように書いてありました。

萓草(わすれぐさ)わが紐に付く香具山の
故(ふ)りし里を忘れむがため
大伴旅人が,大宰師として任地にあり,藤原宮時代に大伴邸のあった香具山の故地を懐古して詠んだ歌である。
カンゾウ(萓草)を古く「わすれ草」といい,『万葉集』には,右のほかこれを詠んだ歌が3首ある。

『詩経』に,「諼草,令人忘憂」とあるのによるもので,本来は諼草(けんそう)といい,諼は忘れるの意。萓(けん)はこれと同音のため,代わりに用いられたもので,萓草には忘憂草の別名がある。

萓草はユリ科の多年草で,本来は中国産のホンカンゾウの名であるが,わが国では,この語をヤブカンゾウに当て,ノカンゾウをはじめ,広くこの仲間の植物の総称として用いられる。
昔はこれを拗音でクヮンゾウと呼んだので,漢方ではお馴染みの甘草(カンゾウ)(マメ科)とは区別できたが,今では両者に発音上の区別がなくなり,萓草と甘草とが混同されることしばしばである。