• ホウチャクソウ
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ホウチャクソウの花が咲いています。

ホウチャクソウの「宝鐸(ほうちゃく)」とは,寺院の五重塔や法堂の屋根の四隅に吊るされている風鐸のことです。[写真4]
花の形が宝鐸に似ていることからホウチャクソウの名がつけられています。

今の宝鐸は音を出しませんが,昔は風に揺られると音を出していたようです。
「宝鐸(ほうちゃく)」について,「日本国語大辞典」(1980年)に次の使用例が出ていました。

発心集-五・乞児物語事「宝鐸(ホウチャク)ゆりたるは有難き事ぞかし」
仮名草子・東海道名所記-1「五重の塔は,<略>宝鐸(ホウチャク)風にうごきてとをく聞こゆ」

また狂歌集「銀葉夷歌集」(1679年)にも次の歌が載っています。

宝鐸の風に揺らるる音迄も からんからんとなるそたうとき(愛宗)

京都には多くの寺院があり宝鐸もよく見かけますが,音が鳴っているのを聞いたことがありません。
南禅寺の宝鐸を下から見上げてみると,宝鐸の中は次のようになっていました。
宝鐸
これでは音は出ませんね。
実際,風に揺られるたびに音が出るとしたら,「尊き」というよりもかなりうるさいと思います。

ホウチャクソウには,2倍体と3倍体の2種類が存在します。
2倍体のものは花柱の先端が花冠から突き出ているのに対し,3倍体のものは花冠に隠れて見えません。
『フィールドウオッチング 3 早春の季節を歩く』(1991年))には次のように書いてありました。

 野外のホウチャクソウの集団を観察すると,小さな個体で花をつけている集団とかなり大きな個体にだけ花をつけている集団の2種類があることがわかる。 これら2種類の集団は染色体数が異なっており,小個体は2倍体(2n =16)であり,一方大個体は3倍体(2n=24)である。 2倍体の個体と3倍体の個体には様々な点で違いがみられる。外見の違いは花の構造を見るとはっきりする。 2倍体の花柱は花冠より長く,外に突き出している。 3倍体では花柱は花冠の外に突き出さない。また,気孔の大きさと密度も異なっており, 2倍体は3倍体に比べて気孔は小さく,密度は高くなっている。

[写真1]~[写真3]は3倍体の花です。
2倍体の花は見当たりませんでした。

ホウチャクソウの名は,3倍体の花ではなく,2倍体の花を見てつけられたのではないかという気がします。
下垂した花冠の形が似ているばかりでなく,花冠からのぞいている3裂した花柱の先端が,宝鐸に吊り下げられた風招(ふうしょう)を思わせるからです。