• キショウブ
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時期的に過ぎていますが,キショウブに花について。

美術館裏にある池のキショウブ[写真1]は5月中旬に,南禅寺近くの水路のキショウブ[写真6]は5月下旬に咲いていました。
花が咲いている期間はどちらも2週間ほどの短い間で,今は咲いていません。
一つひとつの花も一日花で短い寿命です。

キショウブは『外来生物事典』(2006年・東京書籍)によると,「日本の侵略的外来種ワースト100」に選ばれている外来生物だそうです。
明治30年ころに輸入されて以来,各地で野生化して繁殖しています。

美術館のキショウブも,南禅寺近くの水路のキショウブも植栽されたものです。
岡崎付近では野生のキショウブは見かけません。

京都では賀茂川や深泥池に野生化しているそうです。
特に深泥池での繁殖は問題になっています。
深泥池は氷河期からの生き残りとされる生物と温暖地に生息する生物が共存しているという学術的に貴重な池で,池の生物群集全体が国の天然記念物に指定されています。
キショウブの他にもナガバオモダカやブルーギル,オオクチバス,アカミミガメなどの外来種の流入が問題となっており,食物網の変化により在来種に影響が出ています。

前書には,キショウブについて次のように書いてありました。

原産地
 原産地はヨーロッパ。世界各地に分布している。
形態と生態
 黄菖蒲。抽水性の多年草。花茎の高さ60~100cm,根茎は強く,地下を横走する。1株に6~7葉がつく。葉は線形、無毛で濃緑色、100cm以上に伸びる。花茎は分岐して先端に数個の鮮やかな黄色の花をつける。花は一日花,径は約8cm,花期は5~6月。湖沼や河川などの水辺に繁茂する。乾燥に強く,畑地に群生することがある。

移入の歴史と現状
 植物学者・牧野富太郎によると,1897年(明治30)頃,観賞用花卉として導入きれ,逸出して野生化した。鮮やかな黄色の花が好まれ,強健であることから全国各地で栽培され,北海道から九州にかけての広い地域で野生化している。日本生態学会は「日本の侵略的外来種ワースト100」に選定している。
・人為的交雑種 1960年代以降,キシヨウブとハナショウブの人為的な交雑種(園芸種)がつくられている。「キハナショウブ」と呼ばれ,花色は淡黄白色。
・利用法 ビオトープをつくる際などに利用されているが,環境省は在来種に置き換えることが望ましいとしている。水質汚染の原因である窒素やリン酸を吸収するので,水質浄化に利用しようとする研究もある。種子はコーヒー豆の代用になる。

『牧野新日本植物図鑑』(1970年)には,キショウブについて次のように書いてありました。

欧州原産の多年生草本で,明治30年頃(1896)輸入されて以来,性質が丈夫なので各地の池畔,湿地で繁殖し,一見自生品のようでひろがっている。地下茎は短大でよく分枝し,葉は2列生,長い剣状で,脈条は隆起し,やや軟質,幅2~3cm,長さはときには1mにおよび, 5月頃花茎を出して葉間に黄花を開く。花下に大形の2包があり,下位子房は円筒状緑色,外花被片は3個,大きく広卵形で先端はたれ下がり,基部は長い爪部となり,内花被片は3個,小さな長楕円形で直立する。花柱は基部が細く糸状であるが,急に広がって3岐し広線形で開出し,各分枝は更に2裂して狭卵形,細鋭きょ歯のある裂片に終る。 3個の雄しべは花柱の分枝下に接している。さくは多少垂れ下がり,三角柱状楕円形で先端はやや尖り,後3裂して褐色の種子を多数出す。 〔日本名〕黄菖蒲で花色が黄のことからでた。

・葉は「脈条は隆起し」ています。[写真5]

・外花被は「3個,大きく広卵形で先端はたれ下がり,基部は長い爪部とな」る。[写真3][写真4]
花被とは花冠(個々を花弁といいます)と萼(個々を萼片といいます)を合わせた用語で,特に花冠と萼が同じような形をしている場合にひとまとめに花被といわれます。
萼片に相当するもが外花被,花弁に相当するものが内花被です。

・内花被は「3個,小さな長楕円形で直立する」。[写真3][写真4]
キショウブの花をみて,花びらに見えるのはどう見ても外花被ですよね。
本来の花ひらである内花被は,ハナショウブやカキツバタ,アヤメといった他のアヤメ科の花に比べてずいぶん小形です。

・雌しべの「花柱は基部が細く糸状であるが,急に広がって3岐し広線形で開出し,各分枝は更に2裂して狭卵形,細鋭きょ歯のある裂片に終る。」
この説明を読んだだけでは,何のことをいっているのかよくわかりません。
アヤメ科の雌しべは独特の形をしています。
シャガの雌しべ
これは同じアヤメ科のシャガの花被をはがして雌しべだけを露出させたものです。
子房から細い花柱が伸び,三つに分かれさらに先端が細かく分かれています。
キショウブも同じように細い花柱が三つに分かれて花びらのように見えます。

多くの花では花の中心に花柱がそそり立っていますが,アヤメ科の花では中心の花柱が三つに裂けて平べったく花びらのようになって,萼の上に覆いかぶさり,雄しべを挟み込んでいます。[写真3]

シャガの花(→2010年5月13日

カキツバタの花(→2010年5月26日