• ゲンジボタル
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[写真1]は,南禅寺参道のサクラの葉にくっついていたゲンジボタルです。

付近を流れる琵琶湖疎水には幼虫の餌となるカワニナが生息していて,隣接する「哲学の道」のホタルは京都市登録天然記念物に指定されています。

大場信義著『ゲンジボタル』(1988年)には,「哲学の道」のゲンジボタルについて次のように書いてありました。

ただ例外的に毎年安定して発生する生息地もある。こうした生息地は,河川環境がきわめて安定で,カワニナの生産量も十分あり,産卵場所,休息場所,飛翔空間などゲンジボタルの生息環境条件もそろっている。京都市の銀閣寺の疏水は,毎年ゲンジボタルが安定して発生する(遊磨, 1986)。この疏水は琵琶湖を水源として,取水口の水門によって完全に人為的な管理下におかれて水量調整されているために年間を通し非常に安定した水量となっている。また樹木の管理の徹底によって,ゲンジボタルの捕食者であるクモなどが少ないことが発生数を安定化させている大きな要因となっている。

[写真1]は2010年6月9日に,[写真3]は2007年6月12日に,[写真4]は2009年6月17日にどちらも南禅寺境内で撮ったものです。
南禅寺界隈では6月上旬から中旬に,成虫が発生するようです。

[写真4]のホタルは死んでいるように見えますが,死んでいるのではなく擬死という反応です。
俗にいう死んだふりで,防御行動の一種と考えられています。
幼虫も擬死をするそうです。

写真はどれも雄でした。
たまたま雄ばかりだった訳ではなくて,雌は雄の1/3ほどしか発生しない上に,川沿いの茂みの中に隠れているので,なかなか見つけることができないそうです。

ネットのニュースに「ホタル異変 交雑?東日本で「2秒型」増加」という記事が出ていました(6月28日7時56分配信 産経新聞)。

 夏の風物詩、ホタルの光り方に変化が起きている。4秒間隔で発光するはずの東日本のゲンジボタルで、最近では2秒や3秒間隔で光る個体が増えているのだ。専門家らは「他地域のホタルの流入や交雑が理由として考えられる。地域固有の特性が失われる危機だ」と指摘する。
 「東京都内では、ゲンジボタルの8割が2秒間隔で光る西日本型といわれている。ホタル祭りや観賞のため、遠くから違う遺伝子型のホタルを連れてきたのが原因とみられる」と日本ホタルの会の古河義仁理事は解説する。
 古河理事によると、日本のゲンジボタルには6種の遺伝子型があり、東日本型と西日本型では発光パターンが異なる。東日本型は4秒間隔で光るのに対し、西日本型は2秒間隔。また、西日本のゲンジボタルは集団行動を取りやすく、ぽつぽつと飛ぶ東日本型に比べて光り方も派手だ。
 ところが近年、都内の幅広い地域で2秒間隔で光るゲンジボタルが相次いで見つかっている。都内ではホテルや企業などを中心に観賞イベントが行われており、ホタルの需要が大きい。そのため、養殖業者が遠い地域のホタルを販売したりしているようだ。

ゲンジボタルに西日本型と東日本型があり,発光パターンが異なることを発見したのは前書の著者である大場信義氏です。
『ホタルの不思議』(大場信義著・2009年)には,次のように書いてありました。

私はホタルの発光する様子を特殊な超高感度装置をつけたビデオカメラを使用して野外において録画し(発光パターン録画装置),その映像を室内でコンピュータにより波形解析してきた(発光パターン解析装置)。私は全国各地に出かけ,ゲンジボタルの雄が飛んで発光するときの波形を比較した結果,西日本の集団は約2秒間隔で明滅し,東日本の集団ではそれが約4秒であり,西日本のゲンジボタルの雄はせっかち,東日本ではのんびりしていることが明らかになった。しかも単に発光間隔が異なるだけでなく,光っている持続時間が異なり,波形が大きく異なっているのである。即ち西日本では発光持続時間が短く,東日本ではその時間が倍以上長い。
 私は西日本の集団を西日本型もしくは2秒型,東日本の集団は東日本型もしくは4秒型と呼ぶことにした。ただ2秒,4秒というと、これらの数値だけが注目されすぎるので,どちらかといえば東日本型,西日本型と呼ぶほうがよいと思う。
 この現象を最初に記したのは1983年に出版された私の学位論文「日本産ホタルのコミュニケーション・システムの研究」(横須賀市博物館研究報告30号)であり,そしてその詳細内容は1984年に京都府立大学で開催された第3回動物行動学会大会でも発表している。
 その後,研究の進展に伴い,随時,各種の出版物に紹介してきたが、そのひとつに『ゲンジボタル』 (文一総合出版)がある。