• ヤブガラシ
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ヤブガラシの花が咲いています。[写真1]

ヤブガラシは「藪枯らし」で,藪を枯らすほど繁茂することからきています。
別名を「貧乏蔓(ビンボウカズラ)」といい,『牧野新日本植物図鑑』によると,「他の植物の上に繁って山林を枯らし,そのために家が貧乏となるという意味」とあります。

ヤブガラシの花には一見花びらがないように見えますが,よく見ると花びらをつけているものもあります。
開花直後の花には4枚の花弁と4本の雄しべがあるのです。[写真3]
[写真3]の花弁は反り返っていますが,開花直後の花弁は横に開いており,次第に内側に反り返ってゆきます。
雌しべは小さく,雌としての生理機能はありません。
花盤(かばん)はオレンジ色をしており,蜜を盛んに分泌しています。

開花から3~4時間すると花弁と雄しべは脱落します。
同時に雌しべが次第に長く伸びはじめ,雌としての機能をもつようになります。
花盤の色もピンクに変わります。[写真4]

雌しべだけの花になっても,蜜の分泌は盛んで,露出した花盤からあふれるように盛り上がっています。
蜜は常時分泌されているわけではなく,時間帯によって分泌量に変化があるそうです。
北隆館『フィールドウオッチング4』(1991年)には,次のように書いてありました。

 ヤブガラシの花に網をかけて昆虫が訪花できないようにしておくと,花当りの蜜量は11時と15時に明確なピークを示し,タ方や早朝や13時頃にはほとんど蜜がない。これは,蜜分泌が7~11時と13~15時に限られ,それ以外の時間帯には,花上の蜜を花自身が再吸収するためと考えられる。
 自然な訪花がある時にも同様に8~11時と15時頃に蜜が多く,タ方や早朝や13時頃には蜜が少ない。送粉者であるニホンミツバチは蜜が多い時間帯に多く訪花するが,送粉にはまったく寄与しないアリ類は蜜の少ない夕方や早朝に多い。

[写真5]は,受粉し子房が膨らんだ,ヤブガラシの果実です。
熟すると黒色になります。

関東のヤブガラシはほとんどが実をつけないそうです。
九条山のヤブガラシは実をつけている株が結構あります。
実をつけないのは3倍体だからで,実をつけるのは2倍体です。

ヤブガラシに2倍体と3倍体があるのがわかったのは2003年のことであり,これほどありふれた植物でありながら,倍数性の多型があることにそれまで誰も気づかなかったようです。
基礎生物学研究所のサイトに次のように書いてありました。

 私たちの調査によれば、2倍体は中部以西の、古くから環境の変化の少ないところに生き残っている傾向があり、岡崎構内やその周辺の他でも、市内では随所で、また近くでは瀬戸の海上の森、渥美半島、三河一宮などで見つかっています。一方3倍体は、都市部を中心に、植え込みと共に広がっているようです。東日本ではめったに見ることができません。ヤブガラシに実が付かない理由として、従来、夏の気温が低すぎるのだろうとか、他の花の花粉がつかないといけないのだ、などという説もありました。が、これらは間違いだったのです。3倍体のヤブガラシは、染色体が奇数セットなので、種なしスイカと同様、不稔となっているのでした。

[写真6]は結実している株(2倍体)の葉です。
5小葉の葉のほかに,3小葉,4小葉の葉が混じっています。
3倍体の葉は鳥足状の掌状複葉で,すべて5小葉です。

3倍体植物の話題が出るたびに不思議に思うことがあります。
種ができないはずの3倍体植物が,どうしてこんなに分布を拡げることができるのかということです。
ヒガンバナ,シャガ,オニユリ,ヤブカンゾウなどといった全国的によく見かける普通種も3倍体です。
ヤブガラシにしても,2倍体よりは3倍体の方が分布域が広く,2倍体は3倍体の勢いに追いやられているように見えます。
食用とするため人為的に栽培されたということもあるかもしれませんが,ヤブガラシはどうでしょうか。
若芽はゆでて和え物にするそうですが。