ツクシが出ていました。
タンポポやレンゲの花と同じように子どもの頃の記憶と結びつき,郷愁を誘います。
たくさん生えているのを見ると,つい摘み取りたくなってしまいます。

ツクシは誰もが知っているなじみ深い植物ですが,生態については意外に知られていないように思います。
花が咲いて実がなる種子植物と違って,花を咲かせずに胞子で増えるシダ植物なので,なんとなくよくわからない感じがするのでしょうか。(私もですが……)

「つくしだれの子 すぎなの子 土手の土そっとあげ つくしの坊やが のぞいたら 外はそよ風 春の風」という詩にあるように,ツクシとスギナは同じ植物です。
ツクシは,トクサ科のシダ植物スギナが胞子を生産し放出させるために,春の一時期に成長させる茎(胞子茎)に過ぎません。
なので植物図鑑には「ツクシ」の項目はなく,「スギナ」で引かなければなりません。

ちなみに上記の詩の出典について,国会図書館のレファレンス回答に次のようにありました。

佐久間圭作編著『愛誦・小学校の詩歌』(新風書房)の32pに、「ツクシ」という題で、「ポカポカト/アッタカイ日ニ/ツクシノバウヤハ/目ガサメタ/ツクシダレノコ/…」で始まり、質問のテキストにつながる詩の全文がある。「昭和8年7月 第四期・小学国語読本 巻二(一学年)」および「昭和16年2月 第五期・ヨミカタ二(一学年)」に掲載されたことがわかる。

『牧野新日本植物図鑑』(1970年)には,スギナについて次のように書いてありました。

至る所の原野,道端等にはえる多年生草本。地下茎は長く地中を横走して暗褐色をなし,節から地上茎を出す。また節部に細かい毛のある小塊ができる。地上茎には栄養茎と胞子茎の2型がある。栄養茎は高さ約30~40cm。緑色中空の円柱状で,縦に隆起した線がとおり,節部から多くの枝を輪生状に密生し,節には退化縮小した舌状葉がさや状にゆ着してつく。輪生している小枝は四角柱状で節に先端が4裂するさや状の葉をもつ。春早く地下茎から,胞子茎(つくし)を出し,これは淡褐色の平滑で軟かい円柱茎で,高さ10~25cm。先が歯片状に裂けたさや状に退化した葉を節から生じ,小枝ははえない。茎頂に長楕円体の胞子穂をつけ,たて状六角形の胞子葉を密生し,胞子葉の下面に数個の胞子嚢をつけ,中に淡緑色の胞子を生ずる。胞子には4本の弾絲がついており,湿めれば,巻き,乾けばほどける運動をする。夏に栄養茎の頂部に胞子穂をつけることがあり,これをミモチスギナというが特定の品種ではない。小枝が三角柱状のものをオクエゾスギナ(var. boreale Rupr.)といい,北海道,本州北部の山地に多く知られる。昔からツクシを土筆と書くのは日本名であり,支那では筆頭菜という。ツクシを食用とするし,スギナの若葉も食べられる。スギナ(杉菜)とはその形状が杉に似ていることによる。

[写真2]は,スギナの地下茎を掘り出したところ。
胞子茎であるツクシと,栄養茎であるスギナは,地下茎でつながっているのがわかります。
先に胞子茎が成長して,その後から栄養茎が出てくるので,スギナはまだ小さいです。

[写真3]は,若い胞子茎を縦に切断したところ。
カメの甲羅のような六角形をした胞子嚢床(ほうしのうしょう)の内側には胞子が詰まった袋(胞子嚢)がついています。
中には抹茶のような緑色をした胞子が詰まっています。

[写真5]は,胞子茎を輪切りにしたところ。
胞子嚢から胞子がこぼれ落ちています。

[写真4]は,成熟した胞子茎を縦に切断したところ。
胞子嚢床の間にはすき間があり,胞子はほとんど放出しつくされています。

[写真6]は,胞子の顕微鏡写真。
左側が乾燥した状態。
右側は息を吹きかけ湿らせた状態。
球体の胞子には,4本の弾糸(だんし)と呼ばれるひも状のものがくっついています。
弾糸は乾燥している状態では伸びていますが,息を吹きかけ湿らせると胞子の周りにくるくると巻き付きます。
そのまましばらくすると,ゆっくりとほどけて元の状態に戻りました。