家の前の道に,地味なハチが死んでいました。
と思ったのですが,触るとまだ生きています。
スズメバチのように,積極的に刺してはこないだろうと思うものの,少しびびります。
調べたところ,ツチバチのなかまのようです。

ツチバチには,今まで知らなかったのですが,興味深い習性があります。
ツチバチの雌は,地上すれすれに低空飛行しながら,嗅覚で地中のコガネムシの幼虫を探し出し,地面を直角に掘り進んで,毒針で地中の幼虫を刺し,麻痺させた後,卵を産みつけるというのです。
孵化した幼虫は,寄主の体を10日ほどかけて食いつくし,繭をつくります。
幼虫は奇主の体を食べる際には,奇主が死なないように,腸や神経を傷つけずに食べるといいますから,進化の過程でプログラミングされた知恵には驚きます。

ツチバチの雌は,地中にいるコガネムシの幼虫をどうやって探知するのでしょうか。
どうやら,コガネムシの幼虫が排泄する糞の匂いをかぎ分けているようで,平凡社『日本動物大百科 第10巻 昆虫Ⅲ』(1998年)には,次のように書いてありました。

ツチバチ類のメスは地上低く飛びまわり,地面に降り立ってから触角(しょっかく)で地面をさわりながら歩きまわり,地面にもぐっていく。このような行動をくりかえしながら,土壌中の寄主を探しあてる。ツチパチ類のメスの触角に電極を差し込んで刺激を与える実験では,コガネムシの糞(ふん)のにおいを含んだ空気をあてた場合,もっとも大きな反応が得られた。このことから,コガネムシの糞が,寄主探索の手がかりになっていることは容易に推測できる。

この個体の体長は19mm,前翅長15mm,触角の長さ11mm。
ツチバチ科のオオハラナガツチバチでないかと思います。

北隆館『新訂 原色昆虫大図鑑 第3巻』(2008年)には,オオハラナガツチバチについて,次のように書いてありました。

体長♀ 25~32mm, ♂ 18~25mm。

♂ :胸部は黄褐色の長毛を密生する。腹部の淡黄色帯は第1~4背板ではやや細く波状,第5背板の帯紋は変化に富み,しばしば,著しく退化する。第2~4腹板後縁の帯紋は通常両側のみ残り,中央部は消失する。触角は細長く,前翅長の約2/3。

まず,体長が19mmで,触角が長く,大顎も小さいので,♂だと思います。

・胸部は黄褐色の長毛を密生する
[写真4]を見ると,中胸背板の中央部分は毛がありません。
すり切れたのでしょうか。

・腹部の淡黄色帯は第1~4背板ではやや細く波状,第5背板の帯紋は変化に富み,しばしば,著しく退化する
第1~4背板には,波状の黄色い帯紋があります。[写真5]
第5背板には帯紋がありません。

・第2~4腹板後縁の帯紋は通常両側のみ残り,中央部は消失する
[写真5]を見ると,そうなっています。

・触角は細長く,前翅長の約2/3
触角の長さ11mmは,前翅長15mmの,約2/3です。

オオハラナガツチバチに類似する,ハラナガツチバチとの違いについて,同書には次のように書いてありました。

前種(オオハラナガツチバチ)との区別は, ♀では腹部背板の白帯の有無により容易であるが, ♂における区別には大腮基部の黄白色斑の有無(本種(ハラナガツチバチ)ではまれにしか現れない),触角末端節の長さ(本種(ハラナガツチバチ)では長さが幅の2倍程度だが,前種(オオハラナガツチバチ)では3倍近い)が便利である。

[写真1]は,本個体を試験管に入れて,顔の正面から撮ったもの。
大腮(大顎)の基部が黄色くなっているのがわかります。

[写真6]は,本個体の触角先端です。
上が右の触角,下が左の触角。
末端節の長さは1mmほどしかなく,触角全体も黒っぽく,肉眼では幅と長さの比率など判別できません。
写真から計測したところ,右側の触角が約5倍,左側が約3.6倍になりました。

……と,ここまできて「オオハラナガツチバチ」ではなく,「キンケハラナガツチバチ」ではないかという迷いが出てきました。

しかしこれ以上深入りせずに,このへんで,疑問符付きながら「オオハラナガツチバチ」ということにしておきます。