ひと月ほど前から,九条山の上り口に,鮮やかな赤い色をした実が,ぽつりぽつりと落ちています。[写真1]
赤い粒々のある,プラタナスのような丸い実です。
時々,サルが拾って食べているのを見かけます。

頭上を見上げると,たくさんの葉をつけた枝に,まだところどころに実が付いています。
赤い部分がまばらなものや,赤い部分がないものもあります。
老熟して,赤い部分が剥がれおちたのだろうと思っていたのですが,違うようです。

[写真2]は,枝についていた実。
赤みがないものは老熟しているのではなく,まだ若い実なのでした。
熟すにつれ,赤い部分が中から突き出してくるようです。

[写真3]は,熟した実と若い実を縦半分に切ったもの。
若い実も,中には赤い部分があります。

図鑑で調べてみると,これはカジノキの実でした。
『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,カジノキの実について次のように書いてあります。

子房は有柄で花柱は糸状,果球は短かい柄があり,球形で多くの鱗片と多数の小果とからなり,径2cmほどである。果実は核果で,秋に熟すと多数が果球の表面にとび出す。果実は赤色のへら形で,多汁,1核が上部に入っており,先端には花柱が残存している。

[写真4]は,飛び出している赤い部分を拡大したもの。
上書では,細長く伸びているヘラ状の一粒一粒を果実とし,核果だとしています。
核果とは,モモやウメなどのように,液果のなかに堅い核があり,その中に種子が入っているものをいいます。
へら状の一粒一粒が果実で,秋になると果球の表面にとび出してくる,という説明はなるほどと思うのですが,平凡社『日本の野生植物 木本Ⅰ』(1999年)では,カジノキ属は痩果だとしていました。

果実は痩果。子房柄と花被が肥大して液質となって果実を包み,多数が集まって集合果を作る。

痩果とは,種子のまわりを果皮が直接くるんでいるもので,一見種子に見えるものが果実の全体です。
核果ではなく痩果だとすると,へら状に伸びている部分,いかにもおいしそうに見える(実際に甘くておいしい)部分は果実ではないということになります。
果実は先端の種のように見える部分だけのようです。

ややこしいですね。
前書はかなり前の刊行なので,新しい知見では,痩果だということになっているのでしょうか。

[写真5]は,カジノキの葉。
同じ木についている葉でも,広卵形のもの,3裂しているもの,5裂しているものなど変化に富んでいます。
『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,カジノキの葉について次のように書いてありました。

葉は有柄,互生,時には対生あるいは3輪生し,広卵形で先端は鋭尖形基部は円形,切形,あるいはやや心臓形,老樹の葉は基部がたて形であるが,若木ではそうならずしばしば3裂あるいは5裂する。葉のふちにはきよ歯があり,上面はざらつき裏面には葉柄とともに短毛が密生する。托葉は卵形で紫色をおぴ,早落する。

[写真6]は,葉裏。
短毛が密生しています。