ルリタテハの幼虫にくっついていた繭から,小さなハチがたくさん出てきました。
10月9日に見つけた,寄生バチの繭です。[写真6]
11月4日から4,5日かけて,全部で48匹羽化しました。

見ていると,丸い蓋を押しあけて,頭からはい出てきます。[写真1]
ほとんどは同じ向きから脱出しているのですが,何匹かは反対側から出てきたようです。
繭を裏返すと,数個の脱出孔があります。[写真2]
蛹化するときに,みんなとは反対向きに収まってしまったようですね。

ルリタテハの幼虫に寄生するハチについて,保育社『原色日本蝶類生態図鑑(Ⅱ)』(1983年)には,次のように書いてありました。

タテハサムライコマユパチの寄生率も高く,同一地域から得た10頭前後の幼虫が全部寄生されていたことがある。この寄生蜂の幼虫はルリタテハの終齢幼虫の末期になって体外に出て繭を作る。1頭の幼虫から150~200頭の寄生蜂が羽化する。この寄生蜂の幼虫を宿したルリタテハの幼虫は終齢期が長くなり,非寄生のそれの2倍に達し,踊化できずに死亡する。

このハチもタテハサムライコマユバチだと思うのですが,図鑑を調べてもタテハサムライコマユバチについて解説しているものが見つかず,はっきりしません。
コマユバチ科はきわめて種類が多く,細かくとりあげている図鑑はないようです。

コマユバチ科のハチは,すべて他の昆虫類に寄生し,多くの場合白い繭をつくります。
モンシロチョウの幼虫に寄生するアオムシサムライコマユバチについて,平凡社『世界大百科事典』(2005年)には次のように書いてました。
タテハサムライコマユバチも同じような生態ではないかと思います。

雌は若い青虫の体内に産卵し,孵化した幼虫はそのまま寄主の体内で摂食しながら成長する。青虫が十分成長したころ,ハチの幼虫も成熟し,寄主の体壁や環節の継目などをかみ破って外に出て繭を紡ぎ,さなぎになり,やがて羽化する。1匹の青虫に数個から数十個の卵が産みつけられるが,幼虫はそろって成長し,互いの間で争うことはない。

[写真6]のように,ルリタテハの幼虫は,あたかも寄生主の繭を守るかのような体勢をとっています。
繭から離そうとすると,とても嫌がります。
わが身を食いつくされたはずなのに,寄生主を守ろうとしているのでしょうか。

どうやら本当に守ろうとしているようです。
サムライコマユバチのなかまは,ウイルスをつかって寄生主をコントロールしているというのです。
平凡社『日本動物大百科 第10巻 昆虫Ⅲ』(1998年)には,次のように書いてありました。

 体外寄生者が寄主を麻酔するために使っていた毒液を,体内寄生者は寄主の体内環境をコントロールするために利用する。また,多くの体内寄生性のコマユバチでは,卵の発生にともなってテラトサイトと呼ばれる特殊な細胞群が寄主体内に遊離してくることが知られているが,これも寄主の体内環境を整えるために役立っているらしい。
 さらに驚くべきことに,サムライコマユバチ亜科とそれに近縁な体内寄生者は,ポリドナウイルスと呼ばれるウイルス状の微粒子を産卵時に寄主体内に注入し,そのDNAのはたらきによって寄主の免疫系を抑制したり,寄主の発育をコントロールしている。このウイルス状微粒子は最近まで共生ウイルスと言われていたが,寄主体内では繁殖しないことなどから,寄生バチが寄主の体内で発現するよう自分の遺伝子の一部を包み込んだカプセルではないかと考える研究者が増えている。
 ポリドナウイルスをもつコマユパチは,鱗翅類に寄生する1系統群(サムライコマユバチ亜科群)だけなので,これがないと体内寄生できないというわけではない。しかし,その獲得は,体内寄生者が本来の寄主と考えられている甲虫類から鱗翅類へと寄生対象を進化させる過程に深くかかわっていた可能性がある。