天井裏で,スズメバチの巣を探してみました。
夏に,瓦の隙間から出入りするスズメバチの姿を見かけていたので,寒くなったら探してみようと思っていたのです。

懐中電灯のあかりに照らし出されたのは,コガタスズメバチの巣でした。[写真1]
垂木に大小ふたつの巣がぶら下がっています。
この場所は,20年ほど前にキイロスズメバチの巣があった場所と同じところです。
写真の壁の汚れている部分が,巣をはがした痕です。
ハチは切妻の換気口から出入りしたと思われたので,換気口にネットを張ったのですが,年数とともにとれてしまったようです。

[写真3]の右側の二つが,今回とったコガタスズメバチの巣。
大きい方の直径が約25cm,小さい方が約10cm。
左側は,2002年に近所の家の軒下から採取したキイロスズメバチの巣です。
こちらは直径50cmほどあります。

どちらの巣も,積み重ねられた巣盤のまわりを外被が覆う形をしていますが,大きさはコガタスズメバチの方が小さく,表面の模様も異なります。
[写真4]は,キイロスズメバチとコガタスズメバチの巣の模様を比べたもの。
コガタスズメバチの方が濃い色をしていて,模様がはっきりしません。

スズメバチの巣の模様は,働きバチが運んできた巣材の色の違いがあらわれたものです。
巣の外被も巣盤も,樹皮をかじりとったものに唾液を混ぜてつくられています。
たくさんの働きバチが,いろいろなところから樹皮をかじり取ってくるので,運んでくる巣材の種類の違いによって色の違いが出てくるのです。
中村雅雄著『スズメバチ』(2012年)には,次のように書いてありました。

幹の窪んだところに止まるとせわしく大アゴで朽ちた木質部分を食いちぎっては,口元で唾液と混ぜて丸めていきます。そうした動作を繰り返して数ミリのボール状にすると,ハチは,その朽ち木の場所を記憶するように旋回しながら巣を目指して飛んでいきます。巣に戻ると,いったん巣内に入って,巣材をもう1度よくこねまわしてから巣の外に出て,外被上を歩き回ります。そして,作業途中のところやへこんでいるところを選んで,大アゴをコテのように使って後戻りしながら,ボール状に丸めてあるパルプを引き伸ばしていきます。見ていると,その働きバチは,何回も同じ場所から巣材を採集していきます。実は,それぞれの働きバチが自分の巣材採集の場所を持っていて,それぞれ集めてきた巣材を外被の必要な場所に塗っていくので,働きバチたちが持ち寄ったさまざまな巣材が層をなし,その色がそのまま模様になっているのです。スギの皮などはこげ茶色,クヌギの朽ち木などは白っぽいというぐあいで,巣の外被には見事な模様ができあがります。

[写真2]は,取り外した巣の背面です。
背面は壁にくっついていて,取り外すときに外被がくずれてしまいました。
コガタスズメバチの巣は,上部や背面が建物に付着しているものが多いようです。
巣盤は4層に重なっています。
1層目,2層目は育房としての役目を終えていて,巣材でふさがれています。

巣盤の写真を撮っていて気づいたのですが,育房の壁面に卵がまだ残っています。[写真5]
育房には成虫が羽化した脱出痕があるのに,なぜまだ卵が残っているのだろうと不可解だったのですが,羽化後の育房には,また次の卵が産みつけられるそうです。
山内博美著『都市のスズメバチ』(2009年)には,次のように書いてありました。

育房の壁面には女王バチにより1個の卵が産み付けられる。卵からかえった幼虫は頭を下にしてぶら下がっている。幼虫は途中4回脱皮して5令幼虫となり,十分に成長すると,口から糸を吐いて育房に白いふたをして蛹こなる。コガタスズメバチでは,産卵から成虫になるまでの期間は約1ケ月(32日)である。内訳は卵が5日間,幼虫が12日前後,蛹が15日前後であるが,営巣初期には一般に長く,働きバチの数が増えると短くなる傾向がある。

糞はさなぎになる直前に1回だけまとめてするため,巣盤を割ると育房の奥に黒い糞の固まりが見られる。成虫が羽化した後の育房にはまた次の卵が産まれ,再び子育てに利用される。

[写真6]は,育房を縦に切ったところ。
底に糞塊があります。
一つ取り出してみたところ,石のように堅い塊になっていました。