木肌がまるでジグソーパズルのような木。[写真1][写真2]
根もとには,パズルピースのような樹皮の欠片が散らばっています。
欠片は不定形の曲線を描き,裏側はオレンジ色,等高線を積みあげた地図模型のように層が重なっています。[写真4]
樹幹の方のくぼみも縁が階段状になっていて[写真3],多分,落ちている欠片は幹のくぼみのどれかにぴたりとはまるはずです。

枝には,ところどころに丸くて薄い実がついています。[写真5]
種子のまわりを翼状の果皮が覆っている,いわゆる翼果です。
かさかさに乾いていて,風にのるとかなり遠くまで飛んでゆきそうです。

見上げると,主幹から張り出した細かい枝が球形の樹冠をつくっています。[写真6]
花も葉も,まだ出ていません。

名前を調べたところ,この木はアキニレのようです。
アキニレならば何度か観察日記でとりあげています。
・花 →2006/9/23 ,
・果実 →2005/11/11 , 2005/1/19 , 2003/10/9
・虫えい →2006/5/14 , 2005/5/3
こんなおもしろい木肌をしているとは。
今まで気がつかなかったのは,ある程度大きくならないとこのような木肌にならないからでしょう。

どうしてアキニレの樹皮はこのような鱗片状に剥がれ落ちるのでしょうか。
樹皮の一番外側は菌類や昆虫の侵入を防ぐためにコルク層で覆われています。
コルク層は死んだ細胞なので,樹幹が成長して周囲の長さが増すと,自然と剥がれ落ちるしかありません。
アキニレに限らず木は成長するにつれて樹皮が剥がれ落ちるもののようです。
でもなぜ鱗片状に剥がれるかについては,はっきりしないようです。
日本植物生理学会―みんなのひろば質問コーナー:樹皮の剥がれる仕組み』 に,アカガシの樹皮が鱗状に剥がれることについて,次のように書いてありました。

樹皮の脱離にはこのような生理的な過程は含まれておりません。幹の肥大と樹皮の乾燥による収縮により脱離が起きます。樹皮の剥がれ方ですが、コルク層の厚さ、広がり具合(面積)、皮目の配置などが関係するようです。樹木により、剥がれ方が異なるのは、このようなことが樹木により異なるからと思います。

平凡社『日本の野生植物 木本Ⅰ』(1999年)には,アキニレについて次のように書いてありました。

本州中部以西の荒れ地や川岸などにふつうな落葉高木。幹は高さ15m,径60cmに達する。若枝は淡褐紫色,短毛があるがまれにやや無毛。二,三年枝は褐色の円い皮目があり,表皮は生長とともに縦に裂ける。樹皮は灰緑色から灰褐色,褐色の小さい皮目があり,ふぞろいな鱗片状にはがれて斑紋が残る。

「灰緑色から灰褐色,褐色の小さい皮目があり」の「皮目(ひもく)」とは,樹皮にある空気の取り入れ口です。
樹皮を覆うコルク層は水や空気を通さないため,気孔のかわりに樹皮の内側への通気作用を営んでいるのです。
[写真1]~[写真3]を見ると,樹皮に小さな粒々があるのがわかります。
これが皮目で,木の種類によって特徴的な模様をつくります。

小学館『日本大百科全書』(1994年)には,「皮目(ひもく)」について次のように書いてありました。

木の幹・枝・根の表面にみられる多少突出した細長いレンズ状の裂け目をいう。表面が滑らかな樹皮ではとくに目だち,裂け目の方向は,根ではつねに横向きであるが,幹や枝では縦向き,横向きがある。

皮目は周皮の一部で,皮目の部分ではコルク形成層の活動が活発になり,丸くて大きい填充(添充)細胞とよばれる細胞がつくられる。この細胞はコルク化しておらず,また,組織は細胞間隙に富み,細胞の配列は粗雑である。

他の周皮のコルク組織では,細胞が繊密に配列して水分や空気を通しにくい構造をもち,すでにはげ落ちた一次組織の表皮にかわって植物体の保護作用を営んでいるのに対して,皮目の部分では,気孔のかわりに樹皮の内側への通気作用を営んでいる。

「皮目」は「かわめ」ではなく「ひもく」と読むのですね。
知りませんでした。