塀に小さなチョウがとまっていました。[写真1]
カメラをすぐそばまで近づけても逃げようとしません。
翅を指でつまめば簡単に捕まえられそうですが……。
そっと翅をつまむと捕まえることができました。

家に持って帰ってテーブルの上に放しても,じっとしています。[写真2]
今朝(4/21)はすこし寒かったからでしょうか。
写真を撮るには,願ってもない状況です。
カメラを近づけて色々な角度から撮りました。
[写真5][写真6]は尾状突起を横からと後ろから写したもの。

尾状突起があるのでツバメシジミかなと単純に思っていましたが,図鑑で調べるとトラフシジミでした。(→ツバメシジミ
「トラフ」は「虎斑」で,翅の裏面に縦縞模様があることからつけられた名です。

トラフシジミの体色には春型と夏型があります。
春型は虎斑がはっきりと表れますが,夏型は地色も褐色になり斑紋がはっきりしなくなります。
越冬した蛹が春に羽化したものが春型,春に羽化した個体が産んだ卵が夏に羽化すると夏型になります。
この個体は当然,春型ということになりますね。

トラフシジミの季節型について,北隆館『原色蝶類検索図鑑』(1990年)には次のように書いてありました。

地理的変異は知られていない。季節差は明瞭に現われ,第1化個体(春型)は裏面の白色斑と褐色斑が鮮やかなコントラストを形成するが,第2化個体(夏型)では両斑の色彩差が弱まり,一様な茶褐色となる。性差は斑紋には現われないが, ♂は後翅表基部付近に三角形の性標をもつことによって♀から容易に区別できる。

オスとメスの違いについて「性差は斑紋には現われないが, ♂は後翅表基部付近に三角形の性標をもつことによって♀から容易に区別できる。」とあります。
「容易に区別できる」と書いてあるからには性標は明瞭なものなのでしょうが,いくつかの図鑑の図版を見てもどうもはっきりしません。

オスとメスの違いについて,北隆館『新訂 原色昆虫大図鑑 第1巻』蝶・蛾篇(2007年)

♂♀の区別点として, ♂には後翅表面の前縁近くに小形で無光沢の円形性標があり, ♀はこれがない。

学研『日本産蝶類標準図鑑』(2006年)

色彩斑紋は♂♀ほとんど同じで, ♂は翅表が♀に比べてやや紫色をおび,後翅表面前縁近くに無光沢の円形泥色斑があり,♀はこれがない。

少なくともこの個体は,後翅表面の基部に斑紋らしきものは見当たらないので♀だと思います。[写真3]
翅の表面は構造色になっているらしく,光のあたる角度によって金属色に輝きます。[写真4]