歩道にカラスが死んでいました。
まだ全体的に幼い感じがする,雛です。
周辺の木を見回しても,巣らしきものはありません。
巣から落ちたのではないようです。

嘴のかたちからすると,ハシボソガラスでしょうか。
ハシボソガラスの巣作りについて,松田道生著『カラス,なぜ襲う』(2000年)には次のように書いてありました。

ハシボソガラスに関しては,長野県下において1963~64年にかけて11巣を調べた論文があります。

この論文によると,700~800メートルの円形のなわぼりを持ち,この中で巣を作ること,巣作り期間は約23日,産卵数は3~5個,抱卵期間は20日,育雛期間は35日,孵化率は90パーセント,巣立ち率57.5パーセントだったと報告しています。

自宅の巣箱に巣作りをしたシジュウカラとヤマガラの例で言うと,1回の繁殖で産む卵の数はシジュウカラが7~10個,ヤマガラは5~8個。(→シジュウカラの巣作り, →ヤマガラの巣作り
どちらも毎日1個の卵を産み,全て産み終えてから抱卵に入ります。
こうすることにより,全ての卵は同じ時期に孵化することになります。
先に生まれた大きな雛が餌を独占することもなく,全ての雛が平等に餌をもらうことができ,同じように育つことができます。

ところがカラスは,1日に1個の卵を産むのは同じですが,卵を温め始めるのは1個目の卵を産んで,すぐに始めるそうです。
そうすると早く生まれた卵の方が先に孵化し,生まれた雛は早く大きくなります。
大きな雛の方が親から餌をもらうのに有利ですから,後から生まれた雛は餌がもらえず育たない可能性があります。
しかしそれがカラスの生存戦略だというのです。

同書には,次のように書いてありました。

 繁殖のしかたには,このカラス2種類に共通する子育ての巧みさがあります。たとえば,スズメは多いときで10個近い卵を生みます。毎日,一個ずつ生み,揃ったところで温め始めます。こうすることによって,すべての雛が同じ状態で育って,ほぼ同じ日に巣立たせることができます。
 ところが,カラスは一個目の卵を産み落としたところから温め始めるのです。こうすると5個の卵を生むとしますと,最初の卵と最後の卵では,貯るのに5日の差ができてしまいます。そして,最初の雛は早く食べ物をもらい始めるので大きく,遅く孵った雛は小さいという差ができます。このことにより早く孵った雛にとってはたいへん有利,しかし遅く孵った雛は小さいので食べ物をもらえないこともあるということになります。
 スズメの方法ですと,仮に食べ物が少なかった時は,雛の大きさが同じで競争が起きても力が同じために,すべての雛が育たないこともあります。しかし,カラスの方法ですと食べ物が少なかった時は,早く孵った大きな雛のみが食べ物を独占し一羽だけでも巣立たせることができるのです。
 それが前述の論文のように,孵化率は90パーセントもあるのに巣立ち率ははるかに少ない57.5パーセントという数字になるのです。カラスは,飢餓のことを考えてだめもとで多めに卵を生んでいることになります。では,今度は食べ物が豊富であったときは,どうなるでしょう。カラスの繁殖システムでは,余計だったはずの卵まですべて育ってしまい,巣立っていくことになります。ここに,カラスが爆発的に増えた謎のひとつがあります。

ひと月前にもカラスが死んでいるのを見つけたばかりです。(→2013年5月4日
先月のものは成鳥で,うずくまった死骸に不気味さを感じてしまったのですが,今回は雛ということもなり,不気味さよりも閉じられた目と小さな翼に哀れさを感じました。合掌。