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羽化殻の白い糸の正体

2013年6月26日
  • コオニヤンマ
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    [写真1]コオニヤンマ羽化殻
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    [写真2]コオニヤンマの羽化
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    [写真3]コオニヤンマ成虫♀
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    [写真4]コオニヤンマ羽化殻
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    [写真5]コオニヤンマ羽化殻
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    [写真6]コオニヤンマ羽化殻

トンボの羽化殻には,開口部に白い糸のようなものが,からみ合っています。[写真1]
この白いひも状のものは何なのでしょうか。

トンボが羽化する様子を見ていると,ヤゴから出てくる成虫に,白いひも状のものが付いています。[写真2]
成虫の体がせり出してくるにつれて,糸は引っぱられて伸び,やがて成虫の体からはずれて羽化殻に残ります。
最初は,この糸は羽化途中の成虫が落下しないようにするための,安全ベルトの役目をするものなのかなと思ったのですが,違うようです。

[写真2]をよく見ると,白い糸は,成虫の体にある穴の中につながっています。
この穴は気門と呼ばれ,気管に空気を取り入れるための呼吸孔です。
昆虫の血液には酸素を運ぶためのヘモグロビンがありません。
そのため昆虫は気管とよばれる,空気を運ぶ管を体中に張りめぐらせ,体の細胞は気管を流れる空気から直接酸素を取りこんでいます。
朝倉書店『昆虫学大事典』(2003年)によると,

昆虫の呼吸系の特徴は,内部形態の項で説明されたように,気門から取り入れた分子状の酸素を,そうした呼吸色素の仲介なしに,気管という管を通じて細胞まで直接,あるいはその近辺まで供給することである。気管系による呼吸は,いわば,それぞれの組織・器官が肺をもっているようなものである。このやり方は,昆虫が地上での生活をするのに好適と考えられる。

トンボの気門は,中胸と後胸に左右一対ずつあります。
羽化後の成虫では,[写真3]の位置にあります。

羽化前のヤゴに気門はあるのでしょうか。
水中で生活するヤゴには,空気を取り入れるための気門は必要ないように思えるのですが。
しかしヤゴにも気門はちゃんとあって,水中では閉じられています。
代わりに肛門から水を吸い込み,直腸のなかにある直腸鰓(ちょくちょうえら)から酸素を吸収しています。
水中生活に適応したヤゴも羽化まじかになると,地上での生活に向けて,気門が開き空気呼吸をするようになります。
羽化の近いヤゴは,茎につかまるなどして胸部を水上に出していることが多くなるそうです。

羽化殻にも気門を確認することができました。
[写真4]を見ると,成虫とほぼ同じ位置に,中胸気門と後胸気門があります。
羽化殻を切開して内部を見てみると,開口部に出ていた白いひも状のものは,それぞれ4つの気門に繋がっているのがわかります。[写真5][写真6]

気門を入り口とする気管は,外皮と同じようにクチクラで覆われています。
いわば,気管は体表が凹んで深い穴になっているようなものです。
そのため,脱皮の際には,気管を覆っているクチクラ層も一緒に脱皮します。
脱皮殻についている白い糸の正体は,気管の脱皮殻だったのです。

[写真2]を見ると,羽化殻についた白い糸を成虫が引っぱっているように見えますが,実は逆で,成虫の体のなかから気管の脱皮殻を引っぱり出しているところだったのです。
羽化が進むにつれ白い糸は,引っぱられてプツンと切れるのではなく,鞘から引き抜かれるようにスッと抜けます。
新しい呼吸器を覆っていた古い膜が取りのぞかれて,羽化した成虫もスッキリと気持ちよいことでしょう。

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