コメツキムシがひっくり返っていました。
肢をばたばたさせています。
どうして甲虫はこんなにひっくり返っていることが多いのでしょうか。

ドーム型をした頑丈な体と引きかえに,体のバランスがとても悪くなっているような気がします。
もっとも甲虫の種数は全動物の3分の1を占めるといわれるほど,繁栄している動物です。
多少のバランスの悪さよりも,より頑丈な体を優先させた,甲虫の生存戦略は成功しているといえますね。

手でつかむと,コキッコキッと,体を折り曲げる懐かしい感触が伝わってきました。
コメツキムシは固い台の上などにあお向けに置くと,一気に胸を打ちつけた反動ではね上がります。
この動作は敵を驚かせて身をまもるのに役立っているそうです。

跳躍のメカニズムについて,朝倉書店『知られざる動物の世界13 甲虫のなかま』(2013年)には次のように書いてありました。

コメツキムシが跳躍できるメカニズムは,胸部が関節によってつながれた2つの部分に分かれていることにその秘密がある。胸の前の部分(前胸という)に,尖ったペグのような明瞭な構造物がある。このペグは反対の後方側の穴にぴったりと直接はまりこむ。コメツキムシは,背中をアーチ状に曲げることによって,ペグを穴に強く突っ込む。張力が限界に達し,ペグが穴から外れるとコメツキムシは折れ曲がり,腹側とは反対方向に,頭と体を押すこととなる。この動作により,大きな発音とともにらコメツキムシは瞬間的に宙に飛ぶことになる。この行動は強い筋肉が収縮することにより引き起こされる。コメツキムシの体は,非常に強い力でもって跳躍する。たとえば,その加速するスピードは,ほかのいかなる動物たちよりも速い。この跳躍の高さは,30cmにも及ぶ。落下した後,コメツキムシは3回ほど跳躍し,元の地点に戻る。連続してすばやく何回でも跳躍できる種がいる一方跳躍力がわずかな種,または,まったくできないものもいる。大型種ほど跳躍が苦手なようで,ジャンプする高さは低めである。コメツキムシ科に似ているコメツキダマシ科も,同様の発音器官を持つ。

この解説を読んで混乱してしまいました。

背中をアーチ状に曲げることによって,ペグを穴に強く突っ込む。張力が限界に達し,ペグが穴から外れるとコメツキムシは折れ曲がり,腹側とは反対方向に,頭と体を押すこととなる。

意味がわかりません。
ペグを穴に強く突っ込む」ためには,体はV字型に曲げなければなりません。
それでいて「張力が限界に達し,ペグが穴から外れる」とは,どういうことなのか。

背中をアーチ状に曲げる」というのは,普通にイメージすると,体を反らせてへの字型になることです。
しかし,そういう体勢では「ペグを穴に強く突っ込む」ことにはなりません。

ペグを穴に強く突っ込む」ではなく「ペグを穴から強く引っ張る」なら意味が通ります。
まず頭を持ち上げてペグを中胸の穴に差し込む。
次に体をへの字型にそらせて,ペグを強く引っ張る。
限界まで引っ張った時に,すぽんとペグがはずれて,勢いあまった反動で体はV字型になって地面を打つ。
ということなのでしょうか。
この本は外国の本を翻訳したものなので,訳が間違っているのかもしれません。

別な説明をしているものもあります。
解説:コメツキムシの跳躍の秘密」には,次のように書いてありました。

大平(1993) の記述によれば、コメツキムシ類の跳躍は、①(前胸背板の後縁中央部) を②(小盾板前縁)に固定し、③前胸腹板突起の先端を④中胸腹板溝の前縁部に押し当てて強くはじくことによっておこなわれるとされる。
つまり、コメツキムシの跳躍は、跳躍の前にまずはピストルの引き金を引くように体をのけぞらせ、写真の中の部位の①を②に固定します。その結果③は④の位置にあるので、③を④に押し当てて強くはじくことでコメツキムシは跳躍します。この時③が④の位置にあることを⑤によって感知します。
つまり③先端の綿棒の先ような白い⑤は、センサーもしくはリミッターの役割をする感覚器なのです。

(「大平(1993)」とは,「大平仁夫(1993) 入門シリーズ・9 コメツキ入門(1).月刊むし(263):24-28」のこと。原文に当たりたかったのですが,1993年の雑誌「月刊むし」を所蔵している図書館は近隣になく,断念しました。)

これによると,背中をアーチ状にそらせてペグの先を中胸の縁に引っ掛ける,言いかえると,アーチ状にそらせた体が元に戻ろうとする張力をペグをつっかい棒にしてなんとか押しとどめている状態にして,つっかい棒をはじいて急激に力を解放する,ということのようです。

実際にコメツキムシが跳ねるところを観察したかったのですが,採取した個体は弱っていて観察できませんでした。
ネットの動画でTVの科学番組でもないかなと,”click beetle”で検索してみたのですがよい動画はありませんでした。
本についても,コメツキムシの跳躍は昔からよく知られているので,詳しくメカニズムを解説した本がありそうなのですが,意外にありません。

コメツキムシは甲虫類のなかでも種数が多く,日本では700種ほど,世界では1万種以上いるとされています。
同定は簡単ではなさそうです。
一応,オオナガコメツキではないかと思います。
北隆館『新訂 原色昆虫大図鑑 第2巻』甲虫篇(2007年)には,オオナガコメツキについて次のように書いてありました。

体長24mm内外。黒色で褐色毛を密生し,触角は先端に向い赤褐色,脚も暗赤褐色。頭胸背は点刻を密布し,上翅は微かな条溝を具え,密にやや鑢目状に点刻され,各翅端は棘状に尖る。