道にクマバチが死んでいました。
体をまるめ,口吻から長い舌が出たままになっています。[写真3]
両眼の間には,オスの特徴である三角形の黄色い斑紋があります。[写真2]
(メスには[写真4]に見るように,額の黄色い斑紋がありません。)

多くのハチのなかまでは秋に交尾するとオスは死んでしまい,受精した女王バチだけが越冬して,春に巣作りを始めます。
クマバチはオスも越冬し,春にメスと交尾するそうです。
京都新聞社『四季に住む 京の昆虫』(1988年)には,次のように書いてありました。

ハナバチの仲間で子育てするのは雌だけで,雄は普通秋に交尾すると死んでしまう。ところが,クマバチの雄は春まで生き残り,交尾のためになわばりをつくり,雌を待ち受ける。五月初めに東山ドライブウエーを通るとなわばり雄がたくさん見られる。

どういう経緯で舌を出したまま死に至ったのか不思議ですが,長い舌ですね。[写真3]
細かい毛がたくさん生えています。
ハチはチョウのようにストロー状になった口吻で蜜を吸うのではなく,たくさん生えた毛に蜜を絡ませて,舌を出したり引っ込めたりして舐めているようです。

ハナバチ類は花の蜜を吸うために長い舌を持っていて,蜜をもらう代わり受粉を助けるという共生関係があります。
ところが,クマバチは頭が大きくて花の中に入らないので体に花粉がつきません。
こうした受粉を行わずに花蜜だけを奪う行為は,「盗蜜」と言われています。
平凡社『日本動物大百科 第10巻 昆虫Ⅲ』(1998年)には,次のように書いてありました。

 クマバチ類は例外なく盗蜜の常習者である。長舌バチであっても中舌の発達が悪く,これをおぎなうために斧(おの)形に発達した外葉を花冠の基部に突き刺して穿孔盗蜜をする。このような採餌様式には送粉効果はともなわない。たとえば,キムネクマバチはブルーベリー(ツツジ科)の花冠の長い品種ではすべて穿孔盗蜜を行なう。
 それでも,クマバチ類が有効な送粉者とされる果樹にパッションフルーツ(トケイソウ料)がある。この花はきわめて大型で,ミツバチなどの中型以下の訪花昆虫には送粉できない。クマバチ類は花に対応した体の大きさを生かして有効に送粉することができる。このようなケースは,フジやユクノキなどの木本性のマメ科で見られ,花弁がばねじかけでかたく閉じられており,クマバチ類だけがこじ開けることができるしくみになっている。熱帯果樹のなかには, 「クマバチ媒花」が散見される。盗蜜者という悪役だけではないのである。