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タマツノホコリ

2014年7月9日

シイの切り株に,小さな白い,玉房のようなかたまりがたくさん付いていました。
腐った木に棲む原生粘菌の一種であるタマツノホコリの子実体です。
その夜に降った雨のせいか,翌朝にはなくなっていました。[写真]

タマツノホコリはツノホコリの変種の一つとされています。
平凡社『日本変形菌類図鑑』(1995年)には次のように,書いてありました。

ツノホコリ Ceratiomyxa fruticulosa (Muell.) Macbr∴ C. mucida (Pers.) Schroet.
担子体は群生,樹状,若いときは透明,のち乾燥して白色または黄色,高さ約10mmまで。胞子はほぼ透明,卵形,楕円形または亜球形,10~13×6~7μm。変形体は透明から白色または黄色。

子実体がはちの巣状の球形の型を,変種タマツノホコリ var.porioides (Alb.& Schw.) A.Listerとよび,独立種として扱われることもある。

発生:春から秋,腐った木の上にふつう,まれに生木の樹皮上。世界的広布種。腐った木を湿室培養すると,ふつう最初に出現するので,野外での変形菌の採集時期の目安にすることができる。

上記の図鑑ではツノホコリ属について「この類を原生粘菌のなかまとする見解もある」と記されているものの,変形菌の一つとして扱っています。
現在ではツノホコリのなかまは変形菌ではなく,原生粘菌として扱われているようです。
川上新一著『森のふしぎな生き物 変形菌ずかん』(2013年)には,次のように書いてありました。

 変形菌に似た生きもののグループには, 「原生粘菌類」, 「細胞性粘菌類」があります。これに,変形菌のグループである「粘菌類(変形菌類・真正粘菌類)」を加えた, 3つのグループが広い意味での「粘菌類」とされています。
 ツノホコリのなかまは,以前は「変形菌」のグループでした。しかし,長い間「ほかの変形菌とはかなりちがうな」と研究者の間では思われていました。研究者たちが変形菌とのちがいを感じていた一つは,胞子を入れる袋である子嚢をつくらないということです。では,ツノホコリのなかまがどこに胞子をつくるのかというと,子実体の外側です。小さな突起をたくさんつくってその上に胞子ができます。
 さらに奇妙なのは,子実体全体が湿った状態から乾いてしまうと,大幅に縮んでしまうことです。変形菌ではそのようなことはありません。なぜこのようなことが起きるのでしょうか?
 それは,子実体がゼラチン質でできているからです。ツノホコリのなかまは,水分を含んだ状態ではとてもきれいです。しかし,標本にすると水分を保つことができず縮んでしまうので,どうも見栄えがよくありません。
 このようなほかの変形菌とのちがいは,最近のDNAを調べた結果で裏づけられました。つまりツノホコリのなかまは変形菌のグループではなく,いわゆる「原生粘菌類」というグループに入れられることになったのです。

「子実体全体が湿った状態から乾いてしまうと,大幅に縮んでしまう」というのは,確かにそうです。
写真を撮るために,子実体の一部を木片ごと切り取って持ち帰ったところ,翌日には縮んで小さくなっていました。
[写真]は,採取して3日後に写したものです。
小さくなって,木片にへばりつくようにくっ付いています。

「粘菌」は「変形菌」ということもありますし,別に「原生粘菌」「細胞性粘菌」というものもあって,何かややこしいですね。
「粘菌」を「変形菌」と呼ぶようになった経緯について,『日本変形菌類図鑑』(1995年)には,次のように書いてありました。

 細胞性粘菌は1869年にはじめて世に紹介された生物群で,当初は変形菌のなかまと考えられていた。しかし, 1884年に変形体を作らないという決定的な違いが見つかった。そこで,両者を区別するために以前から粘菌とも呼ばれていた変形菌に”真性粘菌”,新しく見つかった粘菌に”細胞性粘菌”という名前がつけられた。ところが,最近の日本では細胞性粘菌の研究者が急増したために粘菌といえば細胞性粘菌を指す傾向にある。そのため,真性と冠されながら,誤解を避けるために真性粘菌は変形菌とよばれるのがふつうである。母屋を乗っ取られた感があるが,時代の流れであろうか。しかし,これはあくまでも日本の特殊事情であることを断っておく。
 細胞性粘菌は,世界で約60種が知られている。森林や畑の腐植質に富む土壌とか草食動物のふんなどを生息場所とし,その子実体はカビの子実休に似ている。そのために,土壌菌や糞生菌の研究者は細胞性粘菌をカビとまちがえてしばしば採集しているようである。
 細胞性粘菌発見の約1世紀後,別の粘菌グループが見つかり,”原生粘菌”と名付けられた。このなかまの変形体は,顕微鏡的な大きさで成長が止まってしまい,高さが0.1mmにも満たない柄の上に1~4個の胞子をのせた子実体を作る。原生粘菌は,胞子を外生するツノホコリ属と共通する特徴をいくつかもつために,両者は系統的に近縁と考えられている。

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