小さなイトトンボが飛んできて,草の葉に止まりました。[写真1]
羽化したばかりのようで,まだ体が薄い色をしています。

この場所では,先日セスジイトトンボ(♀)が羽化していました。(→2014年6月26日
多分,同じセスジイトトンボだろうと思い捕まえて調べてみました。

ところが,「セスジイトトンボ」か「ムスジイトトンボ」なのか,どちらかよく分からないのです。
ミナミヤンマ・クラブ『近畿のトンボ図鑑 』(2009年)に載っていた,「セスジイトトンボ」「ムスジイトトンボ」の成虫の相違点をまとめると,次のようになります。

セスジイトトンボ ムスジイトトンボ
体長 27-37mm 30-38mm
眼後紋 三角形で大きい 細い。ほとんど消えている個体もある
後頭条 ある
(♂にはない個体もある)
背隆線の黒条に淡色条 ♀にはある。
♂にはない。
♀にはある。
♂にはない。
肩縫線の黒条に淡色条 ある
(♂にはない個体もある)
♀にはある。
♂にはない。(稀にわずかに現れる個体もある)
尾部付属器 八の字に開いていて先はとがる 上付属器は小さい
♀は前胸の後縁が富士山型にえぐられている

 

・まず,この個体には副性器があるので♂です。[写真3]

・体長は約32mm。[写真2]
→両種にあてはまります。

・眼後紋はありますが,かなり小さいです。[写真4]
→セスジイトトンボの眼後紋は「三角形で大き」く,ムスジイトトンボは「細い。ほとんど消えている個体もある」ことから,ムスジイトトンボに合致します。

・背隆線黒条のなかには淡色条はありません。([写真4]ではフラッシュの光が反射して,白い筋が映っていますが,黒条のなかに淡色条はありません。)
→♂の場合は両種ともないので,どちらにもあてはまります。

・肩縫線の黒条には,淡色の筋がわずかにあります[写真3]。
→セスジイトトンボは「ある(♂にはない個体もある)」,ムスジイトトンボは「♂にはない。(稀にわずかに現れる個体もある)」。
どちらかは五分五分ですね。
ムスジイトトンボの♂は「稀にわずかに現れる個体もある」となっていますが,「♂は肩縫線黒条の中にわずかに淡色部が見られることが多」いと説明するものもあります。(→神戸のトンボ

・頭部の後頭条は微妙です。[写真4]を見ると,後頭条があるような,ないような,はっきりしません。
→『近畿のトンボ図鑑 』には,セスジイトトンボは「ある(♂にはない個体もある)」となっていますがムスジイトトンボについては,あるともないとも書いてありません。(『日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』の検索表ではムスジイトトンボの後頭条は「ない」になっています。)

・尾部付属器は,八の字に開いているように見えます。[写真5](尾部付属器は1mmに満たない小さなもので観察は容易ではありません。生きている間に尾部付属器を拡大して撮った写真がなかったので,標本にしたものを接写したのですが[写真8],劣化が激しくて詳細がよくわかりません。)
→どちらともはっきりしません。

結論としては,ムスジイトトンボの♂だろうと思います。
トンボは死後の劣化が激しく,標本では細かいところがよくわかりません。
生きている間に,要点を押さえて,観察しておくことが大事なのだとつくづく思いました。