動物園北側の仮設塀に薄茶色のトンボがとまっていました。[写真1][写真2]
寿命間近なのか,気温が低いせいなのか,近付いても逃げようとしません。
手で簡単に捕まえることができました。

今,動物園はリニューアル工事中で,北側のレンガ塀は撤去され鉄製の仮設塀に変わっています。
鉄板は朝方かなり冷たくなっていると思いますが,そのせいでしょうか。
朝6時の京都の気温は20.9度でした。

ランニングの途中だったので,バッグに入れて走ったところ,家に帰ってみると悲惨なことになっていました。
両方の複眼がつぶれてしまっています。
大丈夫なように入れたつもりだったのですが。

図鑑で名前を調べたところ,ウスバキトンボでした。
名前のとおり,翅が薄く,体も柔らかく華奢です。
季節風にのって海を渡るそうなので,できるだけ体を軽くしているようです。

北海道大学図書刊行会『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑 』(1999年)の検索表で検索した結果は次の通りです。
1.前翅と後翅が違う形。三角室がある。[写真5]
……不均翅亜目
2.前翅と後翅の三角室の向きが違う。[写真5]
……エゾトンボ科,トンボ科
3.頭部複眼後側縁に屈曲部がなく,なめらか。[写真6]
……トンボ科
4.体長32mm以上。[写真3]
5.腹部の色は,黒色でないか,黒色でも第3,4節に乳白色部も黄色部もない。[写真3]
6.後翅の肛角部が内側に広がる。[写真5]
7.肛角部が内側に大きく広がる。[写真5]
8.翅の色はほぼ無紋。[写真5]
……ウスバキトンボ属(1種)ウスバキトンボ

ミナミヤンマ・クラブ『近畿のトンボ図鑑 』(2009年)には,ウスバキトンボの生態について次のように書いてありました。

卵期3~4日。幼虫期約40日。 1年多世代型。春に少数の個体が見られるが,多くは初夏に低気圧や台風に伴って南方から若い個体が多数飛来するものと考えられる。先住の捕食者がいない,できたばかりの水域にいち早く産卵し,干上がるまでの1ケ月ほどの間(夏季)に急速に成長して羽化する。ただし,気温のそれ程高くない春季や秋季は成長がかなり遅くなる。幼虫は水温約10℃以下では死滅するため,毎年,世代交代を繰り返しながら北上を繰り返している。

ウスバキトンボはお盆の頃によく見る普通種のトンボですが,これを読むと随分不思議な,普通でない生態をしています。
夏のはじめに南方から,北の新天地をめざして,たくさんの若い個体が海を渡ってきて,卵を産んで,卵は短期間に羽化し,羽化した若い個体はさらに北を目指し,卵を産み,羽化した個体がさらに北を目指し,北へ北へと進んで,冬の訪れとともに,寒さに耐えられずに全滅する。

何世代にも渡る物語は,必ず破滅的な最後を迎えるという訳です。
全てが破滅へと向かって進む,こんな理不尽を大昔から繰り返していることに,意味があるのかと思えますが,多分意味があるのでしょう。
種として繁栄しているのですから。
しかし,そこに生物学的な教訓を読み取ろうとするのは,怖い感じがしますね。