ヒガンバナがいろいろなところで花を咲かせています。
ヒガンバナは種子が実らず,分布を広げるには人為的に,球根を植えるしかありません。
今,咲いているヒガンバナには,それぞれに植えた人がいるはずです。
いつだれがどんな思いでそこに植えたのかと思うと,楽しくそして切なくなりますね。

『牧野富太郎植物記2』(1974年)には,ヒガンバナについて次のように書いてありました。

ヒガンバナの花は,6枚の花被(花びらとがくをいっしょによぶ名)からできていますが,花のなりたちからいうと,このうち外側の3枚は花びらのようになったがく(外花被)で,内側の3枚はほんとうの花びら(内花被)です。ヒガンバナの花被は細長く,外側にそりかえっています。またそのへりがひどくちぢれています。6本のおしべと,1本のめしべの柱頭も花被と同じ赤色で,花の外に長くつきだしています。

内花被と外花被はほとんど(全く?)同じ形をしているので,どちらがどちらか見分けがつきません。[写真4]
柱頭を拡大して見ると花粉が付いています[写真6]が,受精はしないようです。

ヒガンバナにかぎらず,チューリップやヒヤシンスやスイセンなどの地中の玉をふつう「球根」とよんでいますが,球根とよぶのは誤りで正しくは「りん茎」とよぶべきです。この玉は根ではなく,茎だからです。ほんとうの根は玉の下からでるひげ根で,玉の部分はりん葉とよばれる変形した葉がかさなり合っててきたものです。くわしくいうと,この地中の玉は,ごく短い地下茎と,地中の葉鞘(葉のさや)からできており,その大部分はこの変形した葉鞘で,これがふくろのようにふくらんで,つつをなしてかさなり合っています。この葉鞘に養分がたくわえられていて厚ぼったくなっています。

球根(鱗茎)を掘り出し,半分に切ってみました。[写真8]
まるでタマネギですね。(タマネギも同じ鱗茎です)
どんな味がするのでしょう。
と,食べるわけにはいきません。

ヒガンバナは有毒植物の一種で,黒い外皮につつまれたりん茎にリコリンという毒物がふくまれています。ヒガンパナのりん茎をかべ土のなかにすりこんでかべをぬると,ネズミの害をまぬがれるともいわれています。

毒はあっても,飢饉のときには救荒植物として役立っていたようです。

ヒガンバナのりん茎には有毒物質もふくまれていますが,でんぷんもふくまれています。
このでんぷんを食用にすることがあります。玉をつぶして水でさらすと毒分は流れでてしまい,あとにでんぷんが残ります。このでんぷんをもちに入れて食用にするわけです。