クモの写真を撮っていると,家人が別のクモを持ってきました。[写真1][写真2]
少し前から物干し場の隅にいたそうです。
もっと大きなクモだったそうですが,干からびて小さくなっています。

偶然にも,同じキシノウエトタテグモ(→2014年11月18日)の♂です。
死骸なので分解しながら,いろんな部分を細かく観察することができました。

[写真7]は触肢の先にある移精器官です。
触肢は付属肢の変化したもので,成熟した♂の触肢は先端の付節がふくらんで,複雑な構造をした移精器官になっています。
♀の触肢には特別な構造はありません。
[写真8]の上側が♂の触肢,下側が♀の触肢です。
クモの触肢については,シモフリヤチグモの触肢を調べたことがあります。(→2013年2月6日
シモフリヤチグモの触肢は構造が複雑で結局よくわからなかったのですが,それに比べるとトタテグモの触肢はシンプルなつくりになっています。

[写真5]は眼です。
おもしろいですね,ドーム状に盛り上った部分に8個の眼がついています。
多くのクモは眼が左右に広がって配置されていますが,トタテグモ類のような原始的なクモは,眼がひと固まりになって配置されているそうです。

上顎は巨大で,先端に「馬鍬(まぐわ)」と呼ばれる,土を掘るための太い歯の列があります。[写真3]
どれが馬鍬なのかはっきりしないのですが,[写真5]に写っている歯が馬鍬なのだろうと思います。
牙も巨大です。[写真5]
牙は上下に動きます。
当たり前のようですが,牙が上下に動くのは原始的なクモの特徴です。
多くのクモの牙は左右に動くそうです。
平凡社『日本動物大百科』(1996年)には,クモの牙について次のように書いてありました。

頭胸部の前端にある上あごは,クモがえものを攻撃する際の強力な武器である。上あごは,太い基節と,その先端についている牙(きば)の2つの部分からできている。クモはこの鋭くとがった牙をえものに突き刺し,先端から毒液を注入して,えものを麻痺(まひ)させたり殺したりする。クモ類の3つの亜目(あもく)のうち,原始的なハラフシグモ亜目とトタテグモ亜目の上あごは強大で,前方に突き出ており,<つるはし>を2つ平行に並べたように,上下に動く。これに対して高等なクモ亜目では,上あごはそれほど前に突き出しておらず,両方の牙の先端はたがいに接近し,牙は左右方向に動く。このように,オオツチグモやトタテグモなどの比較的原始的なクモとそのほかの高等なクモとでは,上あごの動かし方に違いがみられる。
 クモの上あごは,攻撃や防御のために使われるばかりでなく,トタテグモ類のように,穴を掘るための<手>の役をすることもある。そのため,トタテグモ類の上あごにはたくさんの強大な歯が生えている。