床の上に一匹のハエがひっくり返っていました。
かすかに肢が動いています。
死んでいるわけではないようです。
寒さで体が動かないのか,それとも寿命がきたのか。

名前を調べようとしたのですが,ハエの種を同定するのは意外に困難でした。
種類が多いうえに,体が小さく特徴が分かりづらい。
何より手ごろなよい図鑑がありません。

最初は,ごく普通のイエバエだろうと思っていました。
イエバエは,世界中の人間生活の環境でもっとも普通に見られるハエです。
小学館『日本大百科全書』(1994年)には,イエバエについて次のように書いてありました。

世界中の人間生活の環境にもっとも普通にみられるハエで,体長4~8ミリ。複眼は雌雄とも離れているが,雄はその幅がやや狭い。胸背に4本の黒色の縦条があり,腹部第2,第3節は黄色である。前胸側板に毛が生えていることにより,イエバエ属の他種から容易に区別される。雄の複眼間の幅と腹部の斑紋には地理的な個体変異があり,寒い地方では複眼の幅が広く,体色が黒色を帯びる。

成虫は早春から晩秋までみられ,冬でも暖かい場所では活動がみられる。卵から成虫までの発育日数は約10日である。

この個体は複眼の間が狭いので,雄のようです。

日本家屋害虫学会編『家屋害虫事典』(1995年)には,イエバエについて次のように書いてありました。

[形態]成虫:体は暗褐色で腹背に黄色紋がある。頭部は半球形で,複眼は赤褐色である。雄の複眼の間はやや離れている。雌では広い。触角は黒色,端刺は羽状である。胸背には4本の黒色縦線がある。正中剛毛は0+1,背中剛毛は3~4+4~5である。小楯板も同色で,小楯板剛毛は3~4本である。前胸側板に微小毛があるのが特徴である。
 翅は透明で,M1+2脈は前方に鋭く湾曲している。鱗弁は幅広く,その内側は胸側に接している。脚は黒色。腹背の第2節の後半部と第3節は黄色。ときに,第4節まで黄色となる。一般に第4・5節は黒褐色で灰色の粉で覆われている。角度を変えて見ると,全体に市松模様がある。体長4.0~8.0mm。

と,ここまで進んで,脚の色が違うのに気がつきました。
「脚は黒色」とあるのに,この個体の脚は黄色です。
ネットでイエバエの写真を色々見ると,脚はやはり黒色をしています。
この個体は,イエバエではないようです。

[写真6]は,同書の図をもとに翅脈の名称を表示したものです。
M1+2脈は前方に湾曲していて,イエバエ科の特徴は具えています。

これ以上詳しく調べるためには,体毛の状態を見る必要があるようです。
しかし現物はすでにありません。
(家人が掃除のときに捨ててしまいました。ティッシュの上に翅のとれたハエが置いてあれば,捨てるのは無理もない?)
これ以上調べる気力もないので,イエバエのなかまということで終了です。