一月ほど前,道にヒグラシが死んでいました。[写真1][写真2]
背中に白い綿毛の塊がくっついています。
セミヤドリガの幼虫です。

一見,ヒグラシが死んだのは,セミヤドリガの寄生が原因のように見えますが,そうではありません。
寄主のお腹の中で成長する寄生バチや寄生バエと違い,セミヤドリガの幼虫は,セミの体の外側にしがみついて体液を吸っているだけです。
セミヤドリガに寄生されても,セミは普通に生活し,特に害を与えることはありません。

通常,終齢に達したセミヤドリガの幼虫は,寄主であるセミから離脱し,地面近くの草むらに降りて蛹となります。
この幼虫は,急に寄主が死んでしまい,離脱の機会を失ってしまったようです。

そのままシャーレに入れておいたところ,3日後にヒグラシから離れていました。
幼虫の口から細い糸が出て,セミとつながっています。[写真3][写真4]

白い綿毛状のロウ物質で覆われているということは,終齢(5齢)幼虫なのですが,蛹化することなく,そのまま死んでしまいました。
セミヤドリガの成虫を見たかったのに,残念です。

ところが後日,運よく,セミヤドリガの繭が歩道わきのロープに付着しているのを見つけました。[写真5]
採取して,シャーレに入れておいたところ,4日後に羽化しました。[写真7]

繭から蛹の羽化殻が飛び出していて,変な感じですね。
周りの綿毛を取り除くと,硬いドーム状の繭が現れました。[写真8]。
成虫が脱出する口が開いています。
半分に割ってみると内側はすべすべしていて,まるでピスタチオの殻のようです。[写真10]

羽化した成虫は,こんな硬い繭をどうやって破るのでしょうか。
大串龍一著『セミヤドリガ』(1987年)には,次のように書いてありました。

こうして全体が白い毛で覆われると,幼虫はその下に口から出した粘液で布のような膜を作り,繭を完成させる。この繭は完成後しばらくは表面がけばだっているが,やがて毛束が風に吹き散らされてなくなったり,雨に濡れてくっついたりして目立たなくなってしまう。
 繭の内側は滑らかに仕上げられているが,桶の頭に当たる部分に繭の内張りの繊維が横に切れて,押せば開くようになっている所がある。これは桶が羽化したときに成虫の脱出する出口が,あらかじめ作られているのである。

[写真9]は,羽化殻。
[写真11]は,羽化した成虫。
黒い鱗粉がとれて,ぼろぼろの状態です。
セミヤドリガの鱗粉はとれやすいようです。
前書に次のように書いてありました。

このガは,ふつうのガに比べて翅の鱗片が剥げやすい。そしてまた飛翔の際のはばたきが強く,羽化させた個体でも飼育箱の中で飛び回ると壁などにあたって鱗片が落ちて,完全な標本を作ることが難しい。

[写真12]は,白い綿毛に覆われていない幼虫。(→2007年8月10日
3齢か4齢あたりでしょうか。
どちらにしても,飛び回るセミの体にしがみついたまま,脱皮を繰り返すのは大変なことです。