机の上のどこからか,チン!チン!と澄んだ金属音のような音が鳴って,すぐに止みました。
パソコンのビープ音かと思って,あわてて確認しましたが,違います。
高い周波数の音は,方向が分かりにくいですね。

ひょっとして,机の上にあるポリ袋?
そんなはずはありません。
ポリ袋の中には,朝とってきた松ぼっくりが2個と,松ぼっくりにくっ付いていた,小さなバッタの幼虫が1頭入っています。
幼虫が鳴くことはないはずです。
そして,そのまま音は再び鳴ることはありませんでした。

数日して,ひょんなことから犯人が分かりました。
ヤニサシガメの幼虫について幼虫図鑑を調べていたところ,偶然に先日の「バッタの幼虫」の写真が載っていました。
それは幼虫ではなく,カネタタキの成虫でした。

カネタタキは「鉦たたき」で,チンチンチンと鉦をたたくように鳴くことから名づけられています。
まさにあの音は,カネタタキが鳴く音だったのです。

平凡社『世界大百科事典』(2007年)には,カネタタキについて次のように書いてありました。

直翅目カネタタキ科の昆虫。低木上にすむ小型のコオロギの1種。雄はチンチンチンと鉦をたたくように鳴くのでこの名があり,秋の鳴く虫の一つとして親しまれている。関東以西の本州,四国,九州や中国大陸に分布する。体長は9~12mm。成虫は夏の終りから秋にかけ,山野の低木や庭木,生垣上にふつうに見られる。体は偏平で,雄の頭胸部は茶褐色,腹部は黒褐色をしているが,前胸背板や翅を除き,全身灰褐色の鱗片で覆われている。頭部は小さく,続く前胸背板は台形でよく目だち,その後縁は湾曲している。雄のみ短い前翅があり,その大部分は発音器で占められている。後翅はない。脚は短く,とくに後脚はあまり発達しない。雌は翅がなく,雄よりやや大きい。産卵管は槍状で,尾角よりは短い。尾角は雌雄ともに体に比して長い。つかまえると,しばしば尾角や後脚を脱落させるが,これはとくに武器をもたないこの虫の一種の防御行動と考えられる。

・体長は9~12mm
この個体の体長は9mm。[写真3]
小さいですね。これで成虫です。
1cmに満たない体に,小さな翅がついていたので,てっきり幼虫だと思いました。

・雄のみ短い前翅があり,その大部分は発音器で占められている。後翅はない。
翅があるので,この個体は雄です。
翅の大きさは2mmほど。
こんな小さな翅で,よくあんな音を出せるものです。
ネットの動画を見ると,左右の翅を立てて,こすり合せています。

観察のために翅を切り取りました。[写真5]
小さすぎてきれいに切れず,胴体に翅の一部が残っています。[写真6]

・前胸背板や翅を除き,全身灰褐色の鱗片で覆われている
鱗片は取れやすく,[写真6]でもかなり剥がれ落ちています。

・山野の低木や庭木,生垣上にふつうに見られる
カネタタキの鳴く声は,その気になって聞くと,いたる所で聞こえます。
その割りには,姿を見ることは少ないです。
私は初めて見ました。