動物園東の塀にクビキリギスがとまっていました。[写真1]
キリギリスは冬になると死んでしまいますが,クビキリギスは秋遅くに羽化し,成虫で越冬します。
捕まえて持ち帰り,ひとまずシャーレに入れておきました。

すると,時々一瞬だけ「ジリジリ……」と鳴き声が聞こえることがあります。
(本来の鳴き声は「ジーーー」と単調な連続音です。)
鳴く時には,コオロギのように翅を開いて垂直に立てるのではなく,翅は閉じたままのようです。

日本直翅類学会編『バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑』 (2006年)には,直翅類の発音の仕方について次のように書いてありました。

直翅額の鳴き声は,鋸歯状のヤスリ器とそれをこする摩擦器にようて発せられる摩擦音である。これら発音器へと特化した部分は分類群によって異なっている。

1 コオロギ類
前翅をこすりあわせて音をだす。右翅が上である。右翅の裏側にあるヤスリ器を左翅にある摩擦器でこすることによって衝撃波を生じ,前翅の琴線部(斜脈)および発音鏡を振動させ,発音する。

2 キリギリス類
コオロギ類と同様に前翅をこすりあわせて衝撃波を生じ,発音する。ただし,左翅が上である。

3 バッタ・イナゴ類
後肢(腿節もしくは脛節)や前翅脈上にある棘を脇腹もしくは翅の緑・後腿節とこすりあわせて発音する。また,後肢付け根の関節を鳴らすものなどもある。

キリギリス類は「前翅をこすりあわせて衝撃波を生じ,発音する。ただし,左翅が上である。
[写真3]を見ると,確かに左前翅が右前翅の上に重なっています。
[写真4]の左側が左前翅(裏面),右側が右前翅(表面)。

左前翅には,「ヤスリ器」と呼ばれる,太い脈の裏側が鋸歯状に変化した部分があります。[写真5]
肉眼で見ても褐色の線にしか見えませんが,拡大して見ると表面がヤスリの歯のようになっています。[写真6]

右前翅には,ヤスリ器をこするための「摩擦器」と呼ばれる硬い部分と,それに続いて「発音鏡」と呼ばれる薄い幕の部分があります。[写真7][写真8]
「摩擦器」が「ヤスリ器」をこすった震動が,「発音鏡」に伝わり共鳴して大きな音になるという仕組みです。
こんな小さなパーツをこすり合わせるだけで,あんな大きな音が発生するとは,恐るべき自然の妙技です。

キリギリスのなかまの耳は前脚の脛節にあるそうです。
[写真9]の箇所ではないかと思います。

シャーレに入れておくと,蓋に反対向きになってへばりついています。[写真10]
つるつるのガラス面でも落ちないのですね。
[写真11][写真12]は,ガラス越しに肢先を写したもの。
ふ節にある肉盤が吸盤のようにガラス面にくっついているのがわかります。