日に日に暖かくなる時季をむかえましたが,アリドオシの木にはまだ赤い実がたくさんついています。[写真1]
鳥に食べられた様子が全くありませんね。
どう見ても,この赤い丸い実は,鳥に被食散布してもらうためのものだと思うのですが。

アリドオシの名は,葉脇から突き出ている鋭い棘に由来します。
『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,次のように書いてありました。

針のするどさを蟻を刺し通すほどだといったものである。果実が永く茎についているから在通しというのは俗説である。

「実がいつまでも茎についたまま」だから「在通し」という俗説が生まれるほど,昔からアリドオシの実は被食されにくいものだったようです。

実の先端には,4つの尖った萼裂片が残っています。[写真5]
二つに切ってみると,中には種子が2個入っていました。[写真6]
種子の大きさは約3mm。[写真7]
果肉がつまった液果で,鳥が好みそうです。

葉脇に蕾がついていました。[写真8]
5月頃に白いトランペット型の花を咲かせます。[写真12](→2007年5月15日

平凡社『日本の野生植物』(1989年)には,アリドオシ属の棘について次のように書いてありました。

刺は生長のよい枝の中間の節にはなく,仮軸分枝する枝の先端にできる。このことから枝先の生長が止まり,その両側にできる長枝と直交する位置にある短枝が刺になると思われるが,まだ十分明らかになっていない。

仮軸分枝(かじくぶんし)とは,主軸の成長がとまり(あるいは先端が枯れて),腋芽が成長を引き継く形で分枝したものです。
全国農村教育協会『写真で見る植物図鑑』(2004年)には,枝の分かれ方について次のように書いてありました。

単軸成長(たんじくせいちょう)と仮軸成長(かじくせいちょう)
単軸成長
茎の主軸が健在で伸び続ける成長様式。
仮軸成長
主軸の成長が止まるかあるいは先端が枯れて,腋芽が成長を引き継ぐ。これを繰り返し,シュートがリレー式に交替しながら伸びる成長様式。仮軸成長による分枝を仮軸分枝(かじくぶんし)という。

(同書の図を元に作成)

「枝先の生長が止まり,その両側にできる長枝と直交する位置にある短枝が刺になる」というのは,下図のようになることだと思います。

ほとんどの枝はそのような形になっているのですが[写真9],1本だけ真っすぐ上に伸びている変な枝がありました。[写真10]
節間に棘はありません。
やはり分枝しないと棘は発生しないようです。

ところで,この鋭い棘は,果実を求めてやってきた鳥たちにとって邪魔ではないのでしょうか。
実の付き方も,葉に隠れるように下向きに付いていて,アリドオシは鳥に実を食べて欲しいのか,欲しくないのか,はっきりしません。

鳥にあまりたくさん実を食べさせないというのも,ひとつの戦略なのかもしれませんが。