青々と茂った針葉の間に,丸い実がたくさんついていました。[写真1]
形はヒノキの実に似ていますが,3倍ほどの大きさがあります。
葉もヒノキによく似ています。
臭いをかぐと,これもヒノキに似た独特の匂いがします。
ヒノキに近い種類であることは間違いないようですが。

確か,前にも,この実は調べたことがあるような。
以前の記事を見返すと,12年前に書いていました。(→2004年1月26
イトスギです。

イトスギは日本には自生していません。
南禅寺境内にあるこの木も,植栽されたもののようです。[写真2]
日本ではあまりなじみのない木ですが,ヨーロッパでは公園や庭などに植栽される,身近な木のようです。
『朝日百科 植物の世界』(1997年)には,次のように書いてありました。

ヒノキ科は,和名からはヒノキが代表種のようにみえるが,基準属はイトスギ属である。とくにヨーロッパではイトスギやその仲間は「サイプレス(cypress)」という英名で親しまれ,公園や庭などに広く植栽され,園芸品種も多数ある。

イトスギ(ホソイトスギ) CupreJssus sempervirens は地中海沿岸地方から中東にかけて分布する大高木で,樹高50メートルにも達し,先のとがった狭円錐形の樹形は独特の景観をつくる。十字対生する葉はすべて同形で,鱗片状に枝に密着する。枝は円柱形または4稜形で,小枝を四方に分枝する。属名には「平等に生じる」という意味があり,イトスギの葉形や枝の出方がうまく表現されている。雄花は楕円形で,長さ約5ミリになり,春に黄色く熟して花粉を飛ばす。球果は,秋にかけて大きく成長し, 1年後に暗褐色に成熟する。球形で,直径は2.5~3.5センチと比較的大型である。果鱗は先が層状に厚くなり,外から見ると五角形か六角形で,中央に包鱗の先端にあたる小突起がある。種子は翼をもち,各果鱗に8~20個ずつある。

・十字対生する葉はすべて同形で,鱗片状に枝に密着する
「十字対生」とは,交互に直交しながら対生する葉のつき方で,上から見ると十字形に見えます。
しかし[写真5]を見ても,一見,葉は十字対生しているように見えません。
じつは[写真5]の葉のように見えるものは枝で,枝を覆っている鱗状のものが葉なのでした。
[写真3]は雌花,[写真6]は雄花です。
どちらも,鱗状の葉が,枝の先端に向かうにしたがい,しだいに花へと変化してゆく様子がわかります。
[写真7]は雌花を上から見たものです。
葉から変化した鱗片が,十字対生しているのがよくわかります。

・雄花は楕円形で,長さ約5ミリになり,春に黄色く熟して花粉を飛ばす
[写真4]は,雄花を縦に切ったところ。
まだ未熟で花粉を飛ばしていません。

・球果は,秋にかけて大きく成長し, 1年後に暗褐色に成熟する。球形で,直径は2.5~3.5センチと比較的大型である。
地面に,古い球果が落ちていました。
[写真12]は,ヒノキの球果と比較したもの。
約3倍の大きさがあります。
ヒノキ科の基準属はイトスギ属なので,イトスギの球果が大きいというよりは,ヒノキの球果が小さいと考えるようです。
ヒノキ属の属名は「果実の小さなイトスギ」を意味しています。

イトスギ属に似ているが,属名が「果実の小さなイトスギ」を意味するとおり,球果が小さいことや枝に背腹性がある点で異なる。(『朝日百科 植物の世界』(1997年))

・果鱗は先が層状に厚くなり
[写真13]は,落ちていた球果を縦に切断したもの。
果鱗の先がぶ厚くなっているのが分かります。
まるで城壁の石垣ですね。
裸子植物には種子を守る子房がないので,果鱗がその代わりをしているようです。
上部にまだ,種子が残っています。

・種子は翼をもち,各果鱗に8~20個ずつある
[写真14]は,古い球果の内部にあった種子。
種子のまわりには狭い膜状の翼があります。
種子は小さいので,強い風がふけば飛ばされるでしょうが,種子の形状はそれほど飛行能力を高める工夫がなされているようには思えません。
あまり環境の異なる遠くの場所へ種子散布するよりは,そこそこ離れた場所へ散布すればよいという戦略のようです。