法面を覆ったコンクリートの割れ目から生えた木に,花が咲いていました。[写真1]
そそり立つ大柄の円錐花序に紫色の花がたくさんぶら下がっていて,遠目には美しい花です。
こんなところにキリの木が生えていたとは気づきませんでした。

キリはちょっとした隙間があると,どこからか種が飛んできて芽を出し,みるみる間に生長します。
広々としたところよりは,塀と建物の隙間とか,道路際のコンクリートの割れ目とか,狭苦しいところを好むような気がします。
キリはもともとは中国原産で,朝鮮半島を経て日本に渡来したと推定されています。
『枕草子』にも「桐の花,紫に咲きたるはなほをかしき」とあり,古くから栽培されてきたようです。
どこでも芽を出す割には,そんなに大木がどこにでもある訳でもなく,日本の気候風土に適しているのかいないのか,どちらなのでしょうか。

「切り」の名がしめすように,苗木は一度切って,側芽を伸ばすと成長がよいそうです。
邪魔なキリの木を切ったら,なおさらぐんぐん伸びてしまったということに,なりかねません。
伸び盛りの幼樹の葉は,びっくりするくらい大きくなります。
[写真10]は14年前に撮った,キリの葉の写真。(→2002年9月24日
これでも大きいと思ったのですが,直径1m近くになることもあるそうです。
幼樹の葉は5裂していますが,生長するにつれ全縁となり,小さくなります。[写真9]

『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,キリについて次のように書いてありました。

日本各地に広く栽培される落葉高木である。幹は高さ10mほどとなる。葉は対生し,長い柄をもち,広卵形で先がとがり,全縁または浅く3~5裂し,基部心臓形。長さ20~30cm,全面に粘りけのある毛が密生する。初夏,枝の頂きに円すい形の大形の花序をつけ,多数の紫色の花を開く。がくは5裂し質厚く,黄褐色の毛が密生する。花冠は大形で筒となり,先は5裂して唇形となり,長さ5~6cm,淡紫色で内面に黄色の条がある。 2本づつ長さの異る4本の雄しべをもつ。

・葉は対生し,長い柄をもち,広卵形で先がとがり,全縁または浅く3~5裂し,基部心臓形
[写真9]

・がくは5裂し質厚く,黄褐色の毛が密生する
[写真8]は,花びらが落ちた後に残った萼。

・花冠は大形で筒となり,先は5裂して唇形となり,長さ5~6cm,淡紫色で内面に黄色の条がある
花びらはゴマノハグサ科の特徴である唇形をしています。
[写真12]は,今の時期咲いている,同じゴマノハグサ科のムラサキサギゴケ。
同じような唇形の花です。
一つひとつの花はかなり大型です。

・2本づつ長さの異る4本の雄しべをもつ
[写真5]は,花を横に切った断面。
[写真7]は,上側の花弁を切りとったところ。
長い雄しべと,短い雄しべが2本ずつ,雌しべが1本あります。

どの花にも,アリがうろうろしていました。[写真11]