道にゴマダラチョウがとまっていました。[写真2]
翅をひろげたまま,逃げようともせず,じっとしています。
近づいてよく見ると,ひろげた翅が歪み波打っています。[写真1]
羽化の途中で翅を傷つけてしまったようです。
かわいそうですが,この翅では飛び立つことができません。

今の時期にいるゴマダラチョウは,越冬した幼虫が羽化したものです。
ゴマダラチョウはふつう年2回発生します。
5~6月に羽化したものを春型,7~8月に羽化したものを夏型といい,春型の方が翅の斑紋が白っぽくなります。

学研『日本産蝶類標準図鑑』(2006年)には,ゴマダラチョウについて,次のように書いてありました。

色彩斑紋は♂♀大差はないが,♀は翅形が幅広く丸味をおび,黒色部の発達は♂に比べて弱い。和名ゴマダラチョウは”ごまだら”模様を呈する翅斑にもとづく。

ふつう年2,3回の発生で,日本西南部の暖地では第1化(春型)は5~6月,第2化(夏型)は7~8月に,部分的な第3化(夏型)が9~10月に発生することが多い。

季節的変異は顕著で,春型は一般に大型,地色はやや黄緑をおび(夏型では白色),夏型に比べて黒色部が著しく減退することがふつうである。

[写真3]は,今回の個体の翅(春型)。
[写真4]は,夏型の翅。(→2011年7月24日
[写真5]は,2003年5月10日に採取した春型。(→2003年5月10日
こちらの方の翅裏は,今回の個体よりかなり白いです。
[写真6][写真7]は,[写真5]を標本にしたもの。
13年間の年月でずいぶん色が薄くなっています(こんなに変色しているとは!)。

性別を判定するため,腹端にある交尾器を調べてみました。
腹端を下から見ると,先端に割れ目があり,管が1本突き出ています。[写真8]
割れ目の両側には,細かい棘が無数に生えています。
まるでハエトリグサの捕虫器のようですね。

この割れ目が,交尾の際に♀を捕まえる,バルバ(把握器)と言われるもののようです。
ということは♂ですね。
突き出ている管は,エデアグスと呼ばれる,♀に精子を送る部分だと思います。

ゴマダラチョウが属するタテハチョウ科は,前足が退化しているのが特徴です。
平凡社『日本動物大百科 第9巻 昆虫Ⅱ』(1997年)には,次のように書いてありました。

「4本足のチョウが見つかった」と騒がれることがよくあるが,実態はタテハチョウ科のチョウの成虫で,前あしが退化し,体に密着しているために4本あしに見えるだけのことである。オスでは前あしの跗節が単一の節になり,長い毛でおおわれるが,メスでは跗節の各節が極端に短くなり,爪を欠き,全体として1本のこん棒のように見える。メスの跗節には微小な突起や棘(とげ)があるが,ここがにおいや味を知る感覚器官の役目を果たしていると考えられている。メスは産卵に際し,前あしで植物などを叩く行動が見られる。

[写真9]は,折りたたまれた前あし。
[写真10]は,前あしを引き出したところ。
跗節も爪もなく,ものをつかむ機能は完全に失っています。