サクラの幹に,ノコギリカミキリがいました。[写真1]~[写真3]
じっと動きません。
樹皮をかじっているのかなと思ったのですが,そうではないようです。
夜行性なので,身をひそめているだけだったようです。

ノコギリカミキリは触角から脚先まで全身が黒色ですが,これは夜行性であることと関連があります。
東海大学出版会『日本産カミキリムシ検索図説』(1992年)には,次のように書いてありました。

成虫の活動は,おおまかに昼行性と夜行性に分けられるが,この習性は亜科や族,属レベルで,ある程度の傾向が認められ,さらに成虫の外部形態の違いに現われる場合が多い。例えば,昼行性の種が色彩や斑紋パタンがあざやかである場合が多いのに対して,夜行性のものは黒色や褐色の地味な色調をしている。

♂♀の違いは,
・♂の触角は,♀より太くて長い。
・体は♀のほうが大きい。
・♀の腹端は翅端をこえている。

この個体は,腹端が翅端を超えていないので♂です。(♀→2007年6月16日

同書の検索表で,ノコギリカミキリまでたどってみました。
①========================

大あごの先端はとがる。触角は大あごから離れてつき,第1節は太くても,ほかの節の2倍以下。

[写真8][写真7]
該当するので,カミキリムシ科です。
触角が大あごの基部に付いているのはホソカミキリムシ科です。
②========================

頭は斜め前方に向く。小あごひげの先端は裁断状。

[写真2]「写真9]
カミキリムシの頭部は,前頭が斜めで大あごが前にのびる前口式のものと,前頭が垂直で大あごが下に向く下口式のものに分かれます。
顔面を横から見ると,斜め前方に突き出していて,前口式です。
下口式のものは,フトカミキリ亜科になります。
③========================

前胸の側縁は角稜になる。中胸背板には発音板がない。

[写真6]
「前胸の側縁は角稜になる」の意味がよく分かりません。
横に張り出して鋸歯になっている部分のことを言っているのでしょうか。
とりあえず該当しているとして,次に進みます。
④========================

肢の跗節は擬4節で葉片状になる。

[写真12][写真13]
本来は跗節は5節からなりますが,第4節が小さくなって全体が4節に見えるものを,擬4節といいます。
該当するので,ノコギリカミキリ亜科です。
⑤========================

後胸前側板は平行で後方に向かって狭まらない。

[写真10]
該当するので,次に進んで
⑥========================

前胸の両側に顕著な2歯がある。

[写真6]
該当するので,ノコギリカミキリ族です。
⑦========================

大あごは長くなく,外縁がまるい。ほおは先端がとがらない。

カミキリムシに頬があるなんて奇妙な気がしますが,一般に昆虫の複眼の下方,前頭の後方にあたる部分を頬といいます。
[写真8]
該当するので,ノコギリカミキリ属(2種)です。
⑧========================

後肢脛節上縁に溝状のくぼみがあるかどうかで,ノコギリカミキリとニセノコギリカミキリに分かれます。
後肢脛節には側面にもくぼみがあり,「上縁の溝状のくぼみ」というの分かりにくいのですが,多分[写真11]の箇所だと思います。

また,同書の解説にはノコギリカミキリとニセノコギリカミキリの違いについて,次のように書いてありました。
ノコギリカミキリ

触角は雌雄ともに12節。後脛節の上縁に縦溝があり,前胸背板は光沢が強い。

ニセノコギリカミキリ

触角は雄が12節,雌は11節。後脛節の上縁に縦溝がなく,前胸背板は光沢が鈍い。

[写真6]にあるように,この個体は前胸背板の光沢が強く,ノコギリカミキリで間違いないようです。

でもそうなると,今度はニセノコギリカミキリを見てみたい気持ちがおこってきますね。
勝手にニセモノ扱いされて,ニセノコギリカミキリも迷惑な話ですが,希少性からいえばニセノコギリカミキリの方が価値があるのかもしれません。