土塀にアシナガグモがいました。[写真1][写真2]
雨のかからない庇の部分に,並んで巣をつくっています。
よく見ると,随分,特異な姿をしたクモです。
まるでシュモクザメのように,頭部が横に張り出しています。[写真3]
大きな鎌のような,牙までついています。

大きく張り出した部分は,上顎(じょうがく)と呼ばれる口器の一部です。
先端についた牙で獲物をとらえ,牙先から毒液を注入します。
どのクモにもある器官ですが,こんなに横に張り出した,巨大な上顎は他にはないのではないでしょうか。

八木沼健夫著『原色日本クモ類図鑑』(1986年)には,アシナガグモ属及びアシナガグモについて次のように書いてありました。

アシナガグモ属
腹部・上顎・牙・歩脚すべて長く,一見して他属との区別は明瞭。頭部は狭くて低く前方は丸い。中窩は丸いか横向き。眼は多少の大小はあるがほぼ同大側眼間の距離は広狭に変化はあるが必ず離れている。下唇は,長さ>幅。外雌器は見えず,胃外溝は前曲する。

アシナガグモ
体長♀13-15mm。 ♂10-12mm。 ♀背甲・牙は赤褐色で頭部後方と胸部側線は濃い。胸板は黄褐色で黒色の縁がある。歩脚は赤褐色で末節ほど濃くなる。眼の前列は端直,後列は弱く後曲。前中眼間は中側眼間より広く,後列眼はほぼ等距離,前後中眼間は側眼間より広い。中眼域は長さがほぼ幅に等しく,前辺は後辺より小さい。歩脚に刺がある。上顎は大きく,前方に突出して前開き。牙堤歯は前縁に9,後縁に巨大歯1と中歯8がある。牙はわずか湾曲し基部近くの外側に突起がある。 ♂の上顎の末端外側に先端の弱い2分した鉤がある。腹部は銀色鱗で包まれ,背面には縦長の黒褐色斑が走り正中部は明るい。

・体長♀13-15mm。 ♂10-12mm。
採取した,♀の個体は体長12mm,♂の個体は6mmでした。[写真7]
(クモの体長は,歩脚,触肢,糸器を含まない正味の長さ。)

・♀背甲・牙は赤褐色で頭部後方と胸部側線は濃い。
[写真8]

・胸板は黄褐色で黒色の縁がある。
胸板は頭胸部の下面,歩脚に囲まれた部分をいいます。[写真4]
色は黄褐色なのですが,「黒色の縁」はありません。

・歩脚は赤褐色で末節ほど濃くなる。
[写真1]

・眼の前列は端直,後列は弱く後曲。前中眼間は中側眼間より広く,後列眼はほぼ等距離,前後中眼間は側眼間より広い。中眼域は長さがほぼ幅に等しく,前辺は後辺より小さい。
[写真10]
「中側眼間」がどこをさすのか,分かりませんでした。

・歩脚に刺がある。
[写真3]

・上顎は大きく,前方に突出して前開き。
[写真3]

・牙堤歯は前縁に9,後縁に巨大歯1と中歯8がある。
[写真5]

・牙はわずか湾曲し基部近くの外側に突起がある。
[写真5]

・♂の上顎の末端外側に先端の弱い2分した鉤がある。
[写真6]矢印部分

・腹部は銀色鱗で包まれ,背面には縦長の黒褐色斑が走り正中部は明るい。
[写真11]は背面。
[写真12]は腹面。

[写真13][写真14]は♂。
触肢の先が膨らんでいます。