見慣れない黄色い花が群生していました。
蹴上舟溜まりから,インクラインの線路が地上へとせりあがってくる水際,流れから逸れてワンドのように水流が停滞している箇所です。[写真2]
こんな花が咲いていたのは初めてです。

[写真3]は,同じ場所の4月の状況。
影も形もなかったものが,4か月でこれほど繁茂するとはすごい繁殖力です。

ネットで調べてみると,名前は「オオバナミズキンバイ」。
琵琶湖で大繁殖して問題になっているそうです。
外来種に関する本を色々見たのですが,定着確認から10年もたっていないため,一般的な書籍にはまだ掲載されていませんでした。

2014年に特定外来生物に指定された時の,環境省の資料(→ルドウィジア・グランディフロラ(Ludwigia grandiflora )に関する情報(案))によると,Ludwigia grandifloraはアカバナ科チョウジタデ属の水生の多年草。
北米南部から南米が原産地で,茎の断片からも発根し,繁殖力が非常に旺盛。
ヨーロッパやアメリカでは,厚く繁茂した茎により,船の航行障害,水中の溶存酸素減少による魚の死滅などが発生し,侵略的な外来生物とされています。

日本では,2007年8月に兵庫県加西市玉野町のため池(逆池)で初めて定着が確認されています。
琵琶湖では2009年12月に南湖の赤野井湾で約142㎡の生息が確認され,3年後の2012年12月には約160倍の約22,435 ㎡に拡大しています。
南湖のほぼ全域に広がる爆発的増殖です。

初めての定着が確認されてからわずか6年後の,2014年(平成26年)6月には,環境省から特定外来生物に指定されています。
2014年3月12日 京都新聞

 環境省の専門家会合は7日,琵琶湖で異常繁茂が問題になっている水草「オオバナミズキンバイ」を,特定外来生物として新たに指定することで合意した。6月の改正外来生物法施行に合わせて指定し,国としても輸入規制や防除などに力を入れる。
 指定対象は,オオバナミズキンバイを含む「ルドウィジア・グランディフロラ」。オオバナミズキンバイは南米・北米原産の多年生植物で,琵琶湖・赤野井湾(滋賀県守山市)が国内最大の繁殖地。水鳥の餌捕りや他の植物の育成を妨げたり,在来で絶滅危惧種のミズキンバイと交雑する恐れもあり,選定された。
 会合では,オオバナミズキンバイは切断しても茎の断片から再生するため,確認から3年後の2012年12月に,分布面積が約160倍の約2万2千平方メートルと南湖全域に異常繁茂したことを紹介。委員は「今は琵琶湖以外に大きな繁殖地はなく,他水域への拡散を抑制するには早急な対応が必要だ」と話した。

種オオバナミズキンバイ(Ludwigia grandiflora) には,名義タイプ亜種オオバナミズキンバイ(L. g. subsp. grandiflora )と,亜種ウスゲオオバナミズキンバイ(L. g. subsp. hexapetala )が知られています。
琵琶湖で繁茂している集団は名義タイプ亜種オオバナミズキンバイとされていましたが,最近の研究により,亜種ウスゲオオバナミズキンバイであることが分かっています。
(→侵略的外来水草オオバナミズキンバイの分類と生活史特性

「ウスゲ」とは,本来あるべき毛が薄いのか,本来ないところに薄い毛が生えているのか,どちらを表現しているのか分かりませんが,本個体の茎や花柄,萼には,薄い毛が生えていました。[写真10][写真14]

この場所に定着しているものは,どう考えても琵琶湖に繁茂していたものが,逸出したとしか考えられません。
茎の断片からでも発根して増殖するということなので,琵琶湖での刈り取り作業で発生した切れ端が,疏水の流れに乗って運ばれてきたのかもしれません。

しかし,今後,この場所で爆発的増殖がひろがることはないと思います。
琵琶湖第1疏水は1月上旬から3月中旬にかけて,維持管理作業のために停水されるので,
この場所も水がなくなります。
清掃作業がおこなわれ,水草も撤去されるでしょう。

一方で,この場所は疏水分線の始まりでもあり,水は南禅寺水路閣をとおり,哲学の道を経て,高野川へ注いでいます。
南禅寺別荘群の池へも配水されています。
茎の断片が流れ着き,どこかで爆発的に増殖する……想像すると,恐ろしくなってきます。

花に責任はないものの。