涼しくなり,ツユクサの花をよく見かけます。
朝露をつけた緑の葉のなかで,青い花があざやかです。
ツユクサは,たくさんの植物の名前のなかでも,姿にもっともふさわしい名前を与えられたもののひとつですね。

二枚貝のように閉じられた苞葉を開くと,花はひとつではなく,いくつかの花がついた花序であることがわかります。
花序の根元にアンテナのようなものが直立しています。
他の苞葉を見ても,同じように少しだけ頭が突き出ています。
これは花序の一番下の花で,普通は開花せずに花柄だけが直立しています。
(たまに開花することもあるようで,[写真20]には開花したあとがあります。)

[写真15]は蕾を縦に切ったところ。
中には雌しべや雄しべなどの花の構造物が詰まっています。

他の苞葉を開いてみると,花がらの横に,たる型に膨らんだウリのようなものがありました。[写真19]
切断すると,中は肉質で,未熟な果実であることがわかります。[写真16]
果実の頭から細い糸が伸びて,花がらへと続いています。
糸は雌しべの残骸でしょうが,しぼんだ花被と膨らんだ子房との位置関係がよくわかりません。
開いている花を見ると,花被の下に子房があるのですが。

『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,ツユクサの花について次のように書いてありました。

夏に葉と対生して包葉に包まれた総状花序(一番下の1枝は普通花は着かない)が包葉外にでて青色花を開く。包葉は緑色,二つにたたまれてぴったりくっつきゆがんだ卵円形で長さ2cmぐらい,先端は尖り,平滑だが両側に散毛のあるものがある。外花被3片は小形で無色膜質。内花被3片の内,上方2片は爪のある円形で立ち上がっていて有色で幅6mmぐらい,他の1片はただ小形で無色。2個の雄しべは花糸が長くやくは花粉を出すが,残りの4個はやくが変形して仮雄しべになっている。

・葉と対生して包葉に包まれた総状花序(一番下の1枝は普通花は着かない)が包葉外にでて青色花を開く
葉は互生で,茎から交互に出ています。
その葉に対生して苞葉がつくので,葉と苞葉がペアになっている感じがします。[写真17]
苞葉に包まれているのは,1個の花ではなく「総状花序」です。
総状花序とは,花軸に柄を持つ花が多数ついて,順次咲いてゆくものをいいます。
いくつかの苞葉をめくったところ,だいたい4個の花(蕾)がついていました。
先端の4番目の蕾は,痕跡だけになっているものが結構ありました。[写真19][写真20]
一番下の1枝は普通花は着かない」というのが,アンテナのように直立している末端花序です。

・包葉は緑色,二つにたたまれてぴったりくっつきゆがんだ卵円形で長さ2cmぐらい,先端は尖り,平滑だが両側に散毛のあるものがある。
発達した苞葉が花弁のようにみえる植物や,萼や葉のかわりになっているものもありますが,それらと違ってツユクサの苞葉は独特の働きをしているように思います。
まるで葉に擬態した「巣」を思わせるのです。
一般的に苞葉は花が開くまで蕾を保護することがおもな役割ですが,ツユクサの場合は,開花した後に,花はもう一度苞葉の中に引っ込んでしまいます。
そして別の花を咲かせて引っ込め,また別の花を出しては引っ込めを繰り返します。
全ての受粉が終われば,苞葉のなかで果実を育みます。
まるで,鳥が巣の中で産卵し,雛を育てているようです。

・外花被3片は小形で無色膜質。内花被3片の内,上方2片は爪のある円形で立ち上がっていて有色で幅6mmぐらい,他の1片はただ小形で無色。
外花被,内花被という言い方は,花弁と萼片が区別しにくい時によく使われます。
外花被が萼片に,内花被が花弁に相当します。
上方2片は爪のある円形で立ち上がっていて有色」というのが,青色の大きな花びらの事です。
もう一つ「他の1片はただ小形で無色」。[写真3]

・2個の雄しべは花糸が長くやくは花粉を出すが,残りの4個はやくが変形して仮雄しべになっている。
雄しべは全部で6本あり,3種類の形をしています。[写真3]
①O字形……2本。葯の形は長楕円形。花糸は長く,葯は花粉を出しています。[写真5]
②Y字形……1本。葯の形はY字形(人形)。花糸は中間の長さ。葯は花粉を出すものと出さないものがあります。[写真6]
③X字形……3本。葯の形はX字形(π形)。花糸は短く,葯は花粉を出さないか少量出すものがあります。[写真7]

[写真8]~[写真14]は,早朝から昼過ぎまでの花の様子を撮影したものです。
咲き初めには,雌しべも雄しべも長く伸びていますが,時間の経過とともに雌しべも雄しべもくるくると巻きはじめ,2時過ぎころには完全に巻き上ってしまいました。
雄しべと雌しべが丸まる際に,葯が柱頭に触れ,自家受粉するそうです。
[写真14]は,しぼんだ花の中身。
花糸が葯をぐるぐる巻きにしています。

ツユクサの花は調べ出すと,次々に新しい発見があって,興味がつきません。
要継続観察ですね。