家人が白いキクの花を生けていました。
どうしたのか聞くと,インクラインの草むらに生えていたとか。
キク科の野草にしては大きな花です。

ネットの画像検索で調べてみると,シラヤマギクの花に似ています。
花の大きさ,割とまばらな花びらの数,草丈,花の咲く時期,鋸歯のある長い葉など,シラヤマギクの特徴に一致します。

採集しようと,家人から聞いた場所に行くと,草むらのなかに,まばらに地味に咲いていました。
下部の葉を確認するため茎を引っぱてみました。
すると,ずるずるとつながって出てくるではないですか。
ほふく枝が長く伸びています。[写真3]
節から不定根も出ています。[写真4]
何か嫌な感じですね。
外来種の予感。

家に持ち帰り,調べてみると,やはり外来種でした。
オオバナノセンダングサ。
コセンダングサの変種の一種で,沖縄ではいたるところで生育し,サトウキビ畑の強害草になっているそうです。
日本の侵略的外来種ワースト100にも含まれています。

国立環境研究所の侵入生物データベースによると,
・学名:Bidens pilosa var. radiata
・和名:タチアワユキセンダングサ, オオバナセンダングサ
・自然分布:熱帯アメリカ
・形態:一年草~多年草。高さ0.5~1.5m。茎の断面は四~六角形。淡緑色で多毛。葉は5枚の小葉からなる複葉で,下部で対生,上部で互生。通年開花し,径3cm程度の頭状花序をつける。舌状花は白,筒状花は黄色。果実(痩果)は平たい四稜形で頂部に棘を持つ。
・国内移入分布:九州南部~沖縄(沖縄諸島,先島諸島),小笠原,高知県
・浸入経路:観賞用として導入
・浸入年代:弘化年間(1844~1848)に導入。野外への定着は,1963年に高知県で初記録。

この植物(Bidens pilosa var. radiata)は,ネット上でも本でも名前が混乱しています。
全国農村教育協会『世界の雑草Ⅰ-合弁化類』(1987年)では,コセンダングサ(Bidens pilosa L.)の解説の中に,次のように書いてありました。

この種は変異が大きく,舌状花の有無,形,色により,コセンダングサ(B. pilosa L.var. pilosa),コシロノセンダングサ〔var. minor(Blume)Sherff〕およびシロノセンダングサ(var.radiata Sch.-Bip.)に細分類することがある。シロノセンダングサはタチアワユキセンダングサともいい,沖縄本島ではいたる所に生育し,サトウキビ畑の強害草となっている。

var.radiata(var.は変種の意)の和名は,「シロノセンダングサ」「タチアワユキセンダングサ」としています。

『朝日百科 植物の世界』(1997年)には,次のように書いてありました。

平地の道端の草むらでよく見かけるコセンダングサ B. pilosa は,センダングサよりも小さく,舌状花を欠いている。さらに小型のコバノセンダングサ B. bipinnata は,葉が2 ~3回羽状に切れ込んでいる。ともに世界各地に広く分布している。シロノセンダングサ B. pilosa var.radiata は,オオバナノセンダングサの別名があり,白色の発達した舌状花をつけ,観賞用に栽培される。このほか,北アメリカ原産のアメリカセンダングサ B. frondosa が帰化している。

var.radiataの和名は,「シロノセンダングサ」,別名「オオバナノセンダングサ」としています。

全国農村教育協会『日本帰化植物写真図鑑』(2001年)には,次のように書いてありました。

アワユキセンダングサ[キク科]
Bidens pilosa L. var.bisetosa S.Ohtani et S.Suzuki
シロバナセンダングサ(B.pilosa L. var.minor Sherff)に似るが,舌状花は白色で長さ1.2 cmほどで大きく,頭状花の直径は3cmほどになる。茎が直立して,葉が5枚の複葉となるものをタチアワユキセンダングサ(B. pilosa L. var. radiata Scherff),茎の下部が横に広がって,葉が通常3枚の複葉になるものをハイアワユキセンダングサ(B. pilosa L. var. radiata Scherff. f. decumbens Scherff. )とすることがある。九州地方南部,沖縄県,小笠原諸島などに帰化しており,通年開花する。

var.radiataの和名は,茎が直立して葉が5枚の複葉となるものを「タチアワユキセンダングサ」,茎の下部が横に広がって葉が通常3枚の複葉になるものを「ハイアワユキセンダングサ」としています。

清水建美編『日本の帰化植物』(2003年)には,次のように書いてありました。

コシロノセンダングサ(シロバナセンダングサ,シロノセンダングサ)var.minor (Blume) Sherffは,路傍や川原などにコセンダングサに混じって生え,コセンダングサと茎や葉はほとんど変わりないが,長さ5-7mmの白色の舌状花を5-7個つける。オオバナセンダングサ(タチアワユキセンダングサ)var.radiata Sch. Bip.は,山中二男が1963年に高知市五台山の路傍で採集し,オオバナセンダングサと名づけた。舌状花が白色で大きく,頭花は径3cmくらいになる。弘化年間(1844 – 48)に渡来した。栽培逸出。

var.radiataの和名は,「オオバナセンダングサ(タチアワユキセンダングサ)」としています。

白色舌状花のないコセンダングサは,和名「コセンダングサ」学名「 Bidens pilosa L.」で問題ないようですが,舌状花のある変種については,和名,学名とも以前から混乱があるようで,「コセンダングサ類の混乱を記録する」(2009年10月16日)というページに詳しくまとめてありました。

これによると,「舌状花が大きく頭花の径3cmほどのもの」に今までに与えられた学名と和名は,次のとおり多様で混乱しています。
・学名:B. pilosa var. radiata
和名:オオバナノセンダングサ,タチアワユキセンダングサ,シロノセンダングサ,アワユキセンダングサ,オオバナセンダングサ
・学名:B. pilosa var. bisetosa
和名:アワユキセンダングサ
(茎がほふく性の強いタイプ)
・学名:B. pilosa var. radiata form. decumbens
和名:ハイアワユキセンダングサ
・学名:B. pilosa form. decumbens
和名:ハイアワユキセンダングサ

で,結論として筆者は,舌状花の大きなものの学名は「B. pilosa var. radiata」とし,これに対する和名は「オオバナノセンダングサ」を推しています。

「オオバナノセンダングサ」と「ノ」を入れるのか,入れずに「オオバナセンダングサ」とするのか,それとも「タチアワユキセンダングサ」を使用するのか,実際にネット上で使われているのはどれが多いのか,Google検索してみました。
それぞれの単語でヒットした件数は,
・オオバナセンダングサ……878件
・オオバナノセンダングサ……1,460件
・タチアワユキセンダングサ……28,300件
ダントツで「タチアワユキセンダングサ」が多いです。
主な分布域である沖縄では,「タチアワユキサンダングサ」の呼称が定着しているためだと思われます。

ほふく性の強いタイプを「ハイアワユキセンダングサ」に分類する説もあります。
「タチアワユキセンダングサ」は茎が直立し小葉が5枚であるのに対して,「ハイアワユキセンダングサ」の茎はほふく性が強く小葉が3枚であることが特徴とされています。
本個体は,ほふく性があって小葉が3枚なので,「フセアワユキセンダングサ」に分類されるものだと思いますが,そもそも「タチアワユキセンダングサ」と「ハイアワユキセンダングサ」を区別する必要があるのかについても議論があるようです。
タチアワユキセンダングサは,生育初期には立性であったものが後にほふく枝を出して広がることがあり,小葉の数も生育状態によって変わることがあるそうです。

どちらにしても気になるのは,オオバナノセンダングサ(タチアワユキセンダングサ)の分布域は,九州南部~沖縄,小笠原,高知県となってるいるのに,今回京都で生育していたことです。
温暖化にともなって分布域は北上していて,案外,本州にも広く分布しているのかもしれません。