キリの木はすっかり葉を落として,ひょろひょろとした細い枝が四方に伸びています。
枝先には,固く閉じた小さな実と,すこし口を開けた大きな実と,2種類の実のようなものがついています。[写真1]
小さい方が今年の5月に受粉した未熟な実で,大きい方は前年に受粉してこの秋に成熟期を向えた実,のようにも見えます。
キリの実は,シイやマツの実のように2年かけて成熟するのでしょうか。

じつは,小さな実のように見えるのは,来年の花になる花芽(かが)です。
もう花芽をつけているなんて随分早いように思えますが,キリが特別早い訳ではなく,春に開花する樹木は前年の6月~7月に花芽が分化するものが多いそうです。
ただ,サクラやツバキなどの花芽は小さくて目立たないのに比べ,キリの花芽はよく目立ちます。
大形の円錐花序に,大きな花芽がついているので,一見すると実がなっているように見えます。

[写真6]は,花芽を縦に切った断面。
[写真7]は,花芽を輪切りにした断面。
内部には,雄しべや雌しべといった花の構造がしっかりと出来上がっています。
花芽というよりすでに蕾です。
ネットの記事を見ても,今の時期のものは蕾としているものが多いようです。

果実は蒴果で,中にはたくさんの種子が入っています。[写真9]
種子の周りには鱗片状の翼がつき,小さくて軽く,典型的な風散布植物の形状をしています。[写真16]
思いもよらないところからキリの木が生えていることがよくあるので,かなり広範囲に散布されていると思われます。
といっても,莫大な数量の種子を散布していることを考えると,効率がよいともいえないようです。

果実の中は2室に分かれています。
それぞれに長楕円形の種(?)のようなものが1個ずつ入っていて,表面を種子が鱗のように覆っています。[写真13]
この種のようなものは何なのでしょうか。

調べると,胎座らしいです。
胎座とは「子房の内壁で胚珠のつく部分」。
確かに,表面の凸凹に,種子が突き刺さるようについています。
もし,空になった果実を見たとしたら,残っている胎座を種子と勘違いしてしまいそうな形です。

胎座は全ての果実にあるのでしょうが,こんな風にころんと入っているというのは,珍しいのではないでしょうか。