12月も押し詰まったこの寒い時期に,小さなピンク色の花をたくさんつけた花穂が出ていました。[写真1]
ハナタデです。
花が1,2輪開き,これから開きそうな蕾もたくさんついています。
と思ったのですが,これは蕾ではありませんでした。
半分に切ってみると,中に硬い実が入っていました。[写真4]

実を覆う花びらのようなものは,花後も残る,宿存萼(しゅくそんがく)といわれるもののようです。
『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,ハナタデの果実について次のように書いてありました。(以下,引用は同書から)

そう果は広楕円形で, 3稜があり,長さ1.5mmぐらい,宿存がくに包まれている。

そう果とは「痩果」と書き,果肉のない痩せた果実を意味します。
種子と果皮との間に果肉がなく,種子のまわりを薄い果皮が覆っているだけの果実です。
痩果をいくつか取り出してみました。[写真6]
色の薄いものが未熟な果実,黒くなっているものが成熟した果実です。

花については,次のように書いてありました。

秋,茎の先の枝端に,直立した長さ2-5cmの細長い穂状様の花穂を出し,まばらに淡紅色の小花をつける。苗の生育状態により,穂につく花の疎密も一様ではなく,また,花色も濃淡がある。がくは5個に深裂し,長さ1.5~2mmぐらい,初め正開し,小形であるが,やや梅花状である。花弁は無い。おしべは7~8個で,がくより短い。子房は紡錘状楕円形で,花柱は3個ある。

「花弁は無」く,花びらのように見えるのは萼です。
植物学では先ず葉が萼へと進化し,次いで萼から花弁が分化したと考えられているので,花弁と萼とどちらか一方しかない場合は萼とするようです。
萼の基部がつながっているため一見合弁花のように見えますが,もともと花弁がないものなので離弁花に分類されます。

「がくは5個に深裂し」ているはずですが,[写真7]を見ると4個にしか分かれていませんね。
他の花を調べてみると,5個に分かれているものもありました。[写真8]
開いている花が少ないため,全体的にどちらが多いのかよくわかりませんでした。

葉は互生で,葉柄があり,卵状皮針形または楕円状皮針形で,上部が急にせまばり,先端は長く尖り,基部は鋭形,両面に毛がまばらに生え,葉質は軟かで薄く,裏面に時に黒色の斑紋がある。さや状の托葉にはふちに長い毛が並んで生えている。

葉の形は披針形というほど細くはありませんが,葉の上部が狭まり尖っています。[写真9]
葉の表面と裏面に「毛がまばらに生え」ています。[写真10][写真11]
まばらですが,規則的に生えているように見えます。
他の多くのタデ科植物と同じく,本種も托葉が鞘状となっています。
鞘状托葉の「ふちに長い毛が並んで生えて」います。[写真12]
「裏面に時に黒色の斑紋がある」そうですが,本個体には斑紋はありませんでした。

本種はイヌタデに似ているが,茎が直立し,葉が広く,花がまばらなのですぐに区別される。

[写真14]がイヌタデ(アカマンマ)です。
確かによく似ています。
イヌタデの方が葉が細く,花が密についています。

通称のハナタデ(花蓼)は梅花状に開く花のようすにもとずいたものであるが,これは誤称である

図鑑の見出しも「ヤブタデ」となっています。
ハナタデとヤブタデ,どちらが多く使われているのか,Google検索でヒット件数を比較してみました。
ハナタデは約11,200件,ヤブタデは約1,430件ヒットしました。
牧野博士の指摘に関わらず,現在では圧倒的にハナタデの名が浸透しているようです。