疎水沿いにあるカツラの木に,花が咲いています。
花びらのない地味な花のうえ,周りで咲きはじめたサクラの花にまぎれて,気づく人はほとんどいません。
カツラの花は,雌花も雄花も花被のない裸花(らか)です。
雌花からは触手のような細長い雌しべが突き出し,雄花からは細い糸にぶらさった葯がたくさん垂れ下がっています。[写真1][写真2]

カツラの木は雌雄異株で,雌花,雄花はそれぞれ別々の木に咲きます。
岡崎の疎水沿いにあるカツラは,西側にある3本が雌木,東側にある2本が雄木でした。

[写真3]が雌花のついた枝を,[写真4]が雄花のついた枝を見上げたところ。
遠くからは,雌雄を見分けることは困難ですね。
赤く色づいていることはわかりますが。

『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,カツラの花について次のように書いてありました,

雌雄異株で5月頃葉よりも早く包につつまれた花を葉脇に1個つける。裸花で花被はない。おばなにはおしべが多数あり,花糸は極めて細く,やくは線形で紅色である。めばなは3~5個のめしべからできていて,柱頭は糸状で淡紅色である。

めばなは3~5個のめしべからできていて」とありますが,『朝日百科 植物の世界』(1997年)には,次のように書いてありました。

花序にはふつう4個の花がつくが,短枝上で極端に密集しているため,花序が1個の花に見える。花は風媒花で,花被はなく,雄花には,白く細長い花糸と,長く伸びた赤い葯をもつ雄しべが8~13本ある。雌花にはただ1本の雌しべがある。心皮は1枚で,花柱は長く,先に向かってしだいに細くなり,赤みをおびる。子房には2列に並んだ多数の胚珠がある。

花序にはふつう4個の花がつくが,短枝上で極端に密集しているため,花序が1個の花に見える」「雌花にはただ1本の雌しべがある」とあり,雌しべ一本一本が一つの花だとしています。
たしかに,雌花を分解してみると,雌しべの一本一本は容易に分離して,それぞれの下部に苞らしき膜があります。[写真10]
このことについて,平凡社『日本の野生植物 木本Ⅰ』(1989年)には,次のように書いてありました。

雌花については,鱗片腋に生じるもの全体が1個の雌花であり,数個の離生雌蕊をもつとする見方と,鱗片腋に生じるものは雌花の集りで,それぞれの雌花は1個の雌蕊もつとする見方がある。それぞれの雌花は小型ではあるが1枚の苞をもつこと,また,心皮の合せ目が一般の雌蕊のように向軸側になくて,背軸側にあることにより,後者の見解の方が正しいと思われる。1つの雌花序にはふつう,4個の花が十字対生に苞に腋生するが,ときに2~3個または5~8花つけることもある。

1個の雌花と見るか,雌花の集まりと見るかは見解が分かれているようです。

雄花については,同書には次のように書いてありました。

花は葉の展開に先立って,短枝の越冬芽の鱗片のわきより生じる。花被はない。雄花は約30本のやや垂れる雄蕊よりなり,花糸は細く,葯は細長い。

雄花は基部に2~4個の小さい膜質の苞があり,葯は線形で長さ3~4mm,紅紫色。

雄花を分解していると,何か分からないものがついていました。[写真16]
スカートの中の細い足のようなものの先に,タコの吸盤のような粒粒がついています。
花の構成部品でこんなものは見たことがありません。
よく見ると,これは丸まった葉でした。
粒粒に見えたのは,葉の腺点のようです。
花の一部ではなく,これから展開する若葉だったのですね。

花は「短枝の越冬芽の鱗片のわきより生じる
この書き方からすると鱗片に覆われた越冬芽は葉芽で,花は春になって葉芽の脇から発生するように読めます。
冬になったら,冬芽のなかに花芽があるのかどうか確認したいと思います。