いつの間にか生えてきて,年々大きくなってゆく木があります。
美しい花を咲かせるわけでもなく,あえて名前を調べようとは思わなかったのですが,最近,実がなっていることに気がつきました。[写真1]

気になって,名前を調べてみることにしました。
植物の検索は,やはり葉の形からでしょうか。
保育社の『検索入門 樹木』で検索してみました。

つる性でない→単葉→葉は裂けない→葉は互生→葉のへりに鋸歯がある→落葉→葉の下部に腺体がない,と来て,ここから掌状脈か羽状脈かに分かれるのですが,よく分からないので,両方を探してみることに。
葉っぱと写真を見比べながら,ページをめくってゆくと,よく似ているものがありました。
ムクノキです。
実の形も似ているので,ムクノキで間違いないようです。

ムクノキは近所に大きな木があって,秋には,道にたくさんの実が落ちています。
食べられると聞いていたので,一度食べてみたことがあります。→2003年10月26日
甘くて干しブドウのような味がしました。
『朝日百科 植物の世界』(1997年)には,ムクノキについて次のように書いてありました。

ムクノキ「椋拾ふ子に落葉掃く媼かな」 (虚子) 山地の日当たりのよい適潤なところに生える高木だが,人里近くにも普通に植えられていて,かつてはその甘い果実を子どもたちがよく食べたという。

道に落ちていたムクノキの実は干しブドウのように萎びていました。
落ちた実ではなく,枝についているみずみずしい実を食べてみたいものだと思っていたのですが,虚子の句では「椋拾ふ子」とあり,昔からムクノキの実は落ちたものを食べるものだったようです。
ムクノキは大木なので手が届かなくて,必然的に落ちた実しか食べられないのか,それとも枝についている実はおいしくないのか,どちらなのでしょう。

ムクノキの葉には細かい剛毛がはえていて,さわるとザラザラしている。中国ではこの特徴からムクノキを「?葉樹」 (?はきめが粗いという意味)と書く。日本ではこの葉を黄葉前にとって乾燥させ,べっこう,象牙,漆器木地など工芸品の仕上げ研磨に用いてきた。
 ムクノキは山地に生える落葉高木で,大木になると高さが20メートルを超える。公園や人家の周囲,屋敷などにも植栽される。ムクエノキ,ムク,モクともいうが,ムクロジ科のムクロジもムクやムクノキとよばれるので気をつける必要がある。漢字では「樸樹」 (群がり茂る木という意味)または「椋」と書く。「椋」については,木の葉がよく茂り,夏は木陰が涼しいのでこのような字になったという説がある。

葉の表面を拡大して見ると,細い針のような棘がたくさん生えています。[写真4]
触ると確かにザラザラしていますが,他の植物に比べて特段にざらつき感が強いとは感じません。
表面がザラつく木の葉は無数にあるなかで,なぜムクノキの葉が研磨に用いられたのでしょうか。
トクサ(砥草)の代用品として用いられたそうですが,どちらも表面をケイ酸質が覆っていて,やすりのように堅いのだそうです。

葉は互生し,葉身は卵状披針形から卵状楕円形で,長さ5~10センチ。鋭先頭で,鋸歯があり,羽状脈が明瞭である。花は4~5月ごろ,新枝の下部に雄花,上部に雌花がつく。花被片,雄しべとも5個で,雌しべは1本あり,花柱は2裂する。核果は黒紫色に熟し,小鳥が食べて種子散布に役立つ。この果実は甘く,昔は子どももよくとって食べた。実生の双葉は長楕円形で,先の浅裂するエノキや丸いケヤキとはっきり区別できる。材は強く,建築材,船舶材として重用され,機械,器具や野球のバットなどもつくられる。

葉は,羽状脈(中央の主脈から左右に多くの側脈が出ている)ですが,最下部の側脈からは2次側脈がたくさん出ています。[写真3]
羽状脈と三行脈の中間というのがムクノキの葉の特徴のようです。

花は,新枝の上部に雌花が1~2個,下部に雄花が集散花序につきます。
花の写真を撮った時には,雌雄異花とは思っていませんでした。
雄花序だけをねらって撮ったのですが,写真を見直してみると,雄花序をつけた枝の先端に雌花が写っています。[写真11]

青い果実を切ってみると,意外なことに中は空洞でした。[写真14]
成熟した果実は,中に堅い核があり,周りを甘い果肉が覆っています。
多分,空洞をかこむ壁の部分がこのまま果肉となり,上部にくっ付いている小さな種子が成長して,空洞を満たしてゆくのではないかと思います。
(果実を切断した写真を撮っていると,見るまに切断面が茶色く変色し,汚くなってしまいました。何か酸化反応を促進する成分が含まれているようです。)