ショウジョウバカマの花が咲いていました。ショウジョウバカマの名前の由来について,牧野新日本植物図鑑には次のように書いてあります。
『〔日本名〕猩々袴であるがその意味ははっきりとしないが,紅紫色の花を猩々の赤い顔にたとえ,下に敷きつめた葉を,それの袴(はかま)に見立てたのかも知れない。』
猩々とは赤い顔をした伝説上の生き物で,赤いものの例えとして生物の名前にもよく使われています。ショウジョウバエ,ショウジョウエビ,ショウジョウガイ,ショウジョウインコなど。
伝説上の生き物「猩猩」について,平凡社「世界大百科事典」には次のように書いてありました。
『現在では一般に南方に生息するオランウータンを指すが,中国の古典等に現れる猩猩は想像的要素が強く,姿の形容もさまざまである。一般には猿に似ているとされ,長髪で人の顔,人の足をし,その声は小児の泣くようであり,群れを作ってはって歩くという。一般に狗(いぬ)や豕(ぶた)に似ているともいう。《礼記(らいき)》曲礼上に<猩猩能(よ)く言う>とあるが,ただ人の言葉がわかるにすぎないともされる。猩猩は酒と屐(げた)が大好きであった。それで猩猩を捕らえるときには,その二物を置いて誘う。猩猩はわなとさとって一度は逃げるが,やがてもどり酒に酔い,足には屐をはいているので,結局,捕らえられたという(《唐国史補》巻下),また六朝時代には,すでに猩猩の血は毛織物を真紅に染めることができ,しかも長く変色しないとされた。真紅の色を意味する猩血,猩紅等の言葉が生まれた理由である。ちなみに猩猩の唇は昔,美味な肉の一つとされた。 植木久行』
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アケビの花が咲いていました。 上の写真が雌花,下が雄花です。アケビは同じ木に雄花と雌花がつきます。
牧野新日本植物図鑑によると,
『4月頃,新葉とともに開花し,短枝の葉の間から有柄の短い総状花序を出して下に垂れ,柄のある淡紫色の花をつける。雌雄同株で,1花穂の中に小形で多数あるおばなと,大形で少数のめばなとが混ざっている。ふつうは花弁はない。がく片は3個,卵円形または円形,内側がくぼみ,やや多肉質。おばなにはおしべ6個があり,めしべの痕跡がある。めばなには粘性の柱頭のある短かい円柱形の心皮が3~6個あり,不稔のおしべがある。』とあります。
雄花にはめいしべの痕跡,雌花にはおしべの痕跡があるということは,元々は両性花だったものが進化して雄花,雌花になったものと考えることができます。それにしても,派手な花びらもなく,蜜も分泌せず,虫を引き寄せる工夫はしていないように見えるのですが,何が花粉を媒介しているのでしょうか。
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切り株からヒラタケが出ていました。 おいしいキノコですが,この個体は少し古くなっていて食欲をそそりません。
山渓カラー名鑑「日本のきのこ」によると,
『晩秋~春,広葉樹,時に針葉樹の枯れ木,切り株などに多数重なり合って発生,木材腐朽菌で白ぐされを起こす。優秀な食菌で,広く人工栽培され,「しめじ」の名で売られている』とあります。
数年前に,急性脳症を起こすと話題になったスギヒラタケとは,似ていますが全く別の種類です。ヒラタケはヒラタケ科,スギヒラタケはキシメジ科です。
スギヒラタケの事件は,恐ろしい話ですね。今まで長年おいしいキノコとして親しまれていたキノコが,突然人を殺すほどの毒性を持つようになるとは。これがもしマツタケに起こったとしたら・・・。
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サギゴケの柱頭運動を試してみました。唇形花冠の上唇をめくると,4本の雄しべと1本の柱頭があらわれます。柱頭はへら形で上下に裂けて,口を開いたような形をしています(上の写真)。柱頭を指でつつくと,2~3秒で口が閉じました(下の写真)。10分程すると,また開きました。
柱頭運動は花粉を確実に捕らえるための仕組みで,ノウゼンカズラやウリクサ,ミゾホウズキ等でも見られます。
サギゴケが柱頭運動する仕組みは,オジギソウがおじぎをしたり,ハエトリグサが葉を閉じるのと同じです。膨圧運動といわれる,細胞内の液体が増えたり減ったりすることにより片方へまがります。
清水清著「科学のアルバム 植物は動いている」に,オジギソウの膨圧運動について次のように書いてありました。
『主要枕の一つを縦に切ってみましょう。まん中に道管が走り,その上下に液体をふくんだ運動細胞がならんでいます。
指で葉にさわると,運動細胞の中の液体が,上の図のように流れでます。このとき,道管の下の細胞からでる液体の量が,上の細胞からでる液体の量よりずっと多いのです。そのため,下の細胞がしぼみ,葉柄はたれ下がります。ちょうどアコーディオンの下側に力を入れておすと,空気がぬけて,下側の蛇腹がちぢむのによくにています。
流れでた液体が運動細胞内にもどると,葉柄はふたたびおき上がります。』
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水路に大きなニシキゴイが死んでいました。冷たい流れのなかにひっかった,鮮やかな色合いの身体がひどく違和感を感じさせます。水は疎水から来ているので,このコイも疎水から流れてきたものと思われます。
死因は何でしょうか。コイヘルペス? 今はコイが死んでいると,最初にコイヘルペスウイルスの感染を疑ってしまいます。少し前の「錦鯉の飼い方」的な本には「コイヘルペス」などという言葉は全く出て来ないのですが。いつの間にこんな事になったのでしょうか。
コイヘルペスウイルスが最初に確認されたのは1997年のイスラエルだそうです。その後,あっという間に世界中に拡がり,日本でも2003年10月に霞ヶ浦での養殖鯉の大量死が発生しています。京都でも,広沢池や庭園の池のコイからコイヘルペスウイルスが検出され,一時期大騒ぎになりましたが,今はあまり話題になりません。しかし予防法や治療法が確立されたわけではないので,鳥インフルエンザウイルスと同じで,何か不気味なものを感じます。
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オオバベニガシワに美しい若葉が出ていました(上の写真)。しかし紅色なのは若葉の間だけで,しだいに色あせ,夏になると普通の緑色の葉になります。雌雄同株ですが,たまに異株の場合もあるそうです。下の写真が雄花。雌花はまだ咲いていませんでした。
オオバベニガシワが属するトウダイグサ科は,昔はどこに分類してよいかわからないものをこの科に分類したほど,多様性に富んでいるそうです。
「朝日百科 植物の世界 4」に次のように書いてあります。
『植物の分類でも「自然分類」の時代に,似た種を同じ種に,似た属を同じ科に集める,という考えが広まった。その過程で当然,衣料と同じように,どこに分類すべきかわからない植物が残ってくる。そうした帰属不明の植物は,双子葉植物ではトウダイグサ科,単子葉植物ではユリ科に分類するきらいがあった。本シリーズで採用しているクロンキストの分類体系ではキク亜綱に分類されるアワゴケ科,マンサク亜綱に入れられているユズリハ科は,かつてはトウダイグサ科(バラ亜綱)に分類されていた。
異質な植物が除かれたとはいえ,トウダイグサ科の植物は多様だ。熱帯産のエンドスペルムム属 Endospeemumのように高さ40㍍を超える高木からコニシキソウのように道端の地表をはう草本まで,大きさの変異に富むばかりでなく,日本ではサボテンの仲間と信じられている多肉植物もあるなど,外形の変異も大きい。また,乳液をもつ種も多い。』
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岡崎のサクラがようやく満開を迎えました。暖冬で開花は早かったものの,その後の冷え込みでじわじわと咲きそろったため,一気に咲いた時に比べて花全体のボリュームが小さく,華やかさに欠けます。
先日,ソメイヨシノのNDA分析により起源が明らかになったという記事がネットに出ていました。千葉大や静岡大などの研究チームが遺伝子を解析した結果,ソメイヨシノはオオシマザクラとコマツオトメの交配で生み出された可能性が高いことが分かった,というものです。
ソメイヨシノのDNA分析に関しては,醍醐寺にあるサクラの巨木をDNA分析した結果,ソメイヨシノであることがわかったという新聞記事も出ていました。
京都新聞(2007.4.6)
『醍醐寺(京都市伏見区)の霊宝館前にある桜の巨木が遺伝子解析の結果,ソメイヨシノであることが,5日までに分かった。ソメイヨシノの巨木は珍しく,確認されている中では京都市内で最大で,京都府内ではトップ4に入る大きさという。
1930(昭和5)年に若木が植樹されたといい,樹齢は推定90-100年。幹周りは3・25メートル,高さ11メートル。同寺によると,花つきがよく,花弁も通常より大きいことから,これまでソメイヨシノと特定できなかった。
DNA鑑定を担当した住友林業筑波研究所(茨城県)の中村健太郎主任研究員によると,ソメイヨシノは,江戸後期から明治初期にかけてつくられ,接ぎ木や挿し木で広がったため,遺伝子はすべて同じ。この特徴を生かして遺伝子を解析し,ソメイヨシノであることを確認できたという。
環境省の調査では,幹の円周が3メートル以上のソメイヨシノは全国に207本あるが,関西以西には10本しかない。府内では,福知山市に2本,綾部市に1本ある。』
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コブシの花が咲いていました。街路樹として植えられているコブシには随分早く咲いているものもありましたが,この木は日陰にあるためか開花はゆっくり目ですね。図鑑の花期も3~5月となっており,開花時期にはかなりばらつきがあるようです。しかしそれが普通なのかもしれません。サクラのソメイヨシノはすべて同じ遺伝子を持ったクローンなので,生育条件が同じならば開花はほぼ同じ時期に始まります。一斉に咲いて一斉に散る。そうしたソメイヨシノが特別な存在なのでしょう。
牧野新日本植物図鑑
『春,新葉が出るよりも早く開花し,枝の上に咲き満ちる。花は白色大形で,小枝の先に1個着き,香気がある。がく片は3個,皮針形,外面に軟毛が密生する。花弁は6個,へら状倒卵形,長さ6cmほど,おしべ,めしべとも多数で互生列』
『[日本名]拳の意味で,つぼみの形にもとずいたものである。実をかむと辛味があるので昔はこれをヤマアララギまたはコブシハジカミといった。ヤマアララギは山にはえて辛味があるから言ったものだろうし,コブシハジカミのハジカミはサンショウの事で,サンショウのように辛味があるという意味である。』
タグ: | コブシ
若王寺神社の境内に咲いていたスミレの仲間。図鑑で調べると,外来種のウイオラ・ソロリア(プリケアナ)でした。若王寺神社は,哲学の道から少し入ったところにあり観光客も多いので,人に付着して種が持ち込まれたのでしょうか。近年はこのスミレを山の中で見かけることもあるそうです。スミレには鳥がついばむような実はならないので,どうやって色々なところに種が蒔かれるのことになったのか興味深いですね。
「山渓ハンディ図鑑6 日本のスミレ」に,ウイオラ・ソロリアについて次のように書いてありました。
『近年よく見るようになった外来種。性質が強く,よく花をつけるため,急速に広まった。北アメリカの原産で,根茎がスミレサイシンのように太くなるので,アメリカスミレサイシンとも呼ばれる。
英名はCommon Blue Violet。原産地ではふつうに見られるスミレのようだ。かつては,花が紫色のものをパピリオナケアと呼び,中心が紫色の白花のものはプリケアナと呼ばれていたが,近年の研究では,両者ともV.sororiaに含まれるとされる。』
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コスミレ。小さいスミレの意味でコスミレの名がついていますが,スミレの花と比較するとむしろコスミレの方が大きな花をしています。
一見タチツボスミレの花に似ていますが,葉の形が違うので割と容易に見分けられます。
「山渓ハンディ図鑑6 日本のスミレ」を見ていると,アカネスミレの花にもよく似ています。次の点でコスミレと同定しました。
・花の内部が見えている。(アカネスミレは花弁の基部が閉じ気味に咲くので,花の内部が見えにくい)
・葉の裏が紫色を帯びている。(コスミレは葉の裏が紫色を帯びることが多い)
・距が太くてぼってりしている。(アカネスミレの距は先が細長くなっている)
・花柱の先の形。
・子房に毛が生えていない。(アカネスミレは子房に白い毛が生えている)
・コスミレは北海道から九州までの低地に分布しているのに対し,アカネスミレは西日本の低地には少ない。
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ヤマネコノメソウの種。さかずき状に開いた実の底に多数の種子ができています。植物の種子散布の方法には,風散布や動物散布,自動散布など色々な方法がありますが,ネコノメソウのなかまは水滴散布という独特の方法をとります。実がひらいたさかずきのなかに雨の水滴が落ちると,衝撃で底にある種子が飛び散り,散布が行われるという仕組みです。
ネコノメソウのなかまは花粉の媒介者も変わっています。普通,花粉の媒介者といえば虫や鳥が思いつきますが,ネコノメソウのなかまの媒介はカタツムリやナメクジが行うそうです。あの奇妙な花の意味がわかったような気がします。
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スミレの花かなと思って近づいて見ると,ハナニラでした。清楚できりりとした感じのする,ユリ科の花です。もともとアルゼンチン原産の園芸植物ですが,いたるところで野生化しています。
牧野新日本植物図鑑によると『花韮は花が美しく,全草が傷つけるとニラのような臭があるので名づけられた』とあります。確かに葉をちぎってにおうと,ニラの臭いがします。細長い葉もニラの葉に似ています。ニラも同じユリ科ですが,ハナニラは有毒で食べることはできません。食べると下痢をするそうです。
タグ: | ハナニラ
カキドオシの花が咲いていました。垣をこえて蔓をのばすので「垣通し」の名がついています。不思議なことに,私がこの花を見つけるのは,いつも名前のとおり垣根越しに伸びてきたものです。
「疳取草(カントリソウ)」の別名があり,昔から子どもの疳をとる民間薬として親しまれてきました。でも「疳」って何でしょう。時おり耳にする言葉ですが,何となく漠然としていて意味がよく分からないですね。
平凡社「世界大百科事典」の「病気」の項に,「疳」について次のように書いてありました。
『また,日本の小児について,疳(かん)というのがある。中国の医書によると,脾疳(ひかん),すなわち慢性の消化器障害や腹部の膨満,そして異常な食欲などを示す状態をいうが,日本の場合,疳の虫といわれるのは,夜泣き,過敏性,ひきつけなど,家庭内の静けさを過度に乱すと感じられる逸脱で,これを異常または病気として,虫封じ,疳押えなど治療の対象とする。』
ネットで「カキドオシ」を検索すると,健康食品のページがたくさん表示されます。今でも薬用として重宝されているようです。
実際にカキドオシを採取して,薬として用いるにはどのようにするのでしょうか。
馬場篤/大貫茂著「薬草500種」には次のように書いてありました。
『<採取・調整法>茎の下方の花は終わっても,上方の花がまだ残っているころ,茎を切りよく水洗いし,蔓の10~20を束ね,風通しのよい軒下に吊るして陰干しします。
<薬効・効用>小児の疳の薬として知られています。疳の強い子や腺病質の子に用います。糖尿病,泌尿器病,強壮。
<利用法>小児の疳には年齢,成長状態により加減します。1日量は1~2歳で3g,5~6歳で10gです。全草10gを水500ccで半量に煎じ,苦いので甘味を加えて数回に分けて服用します。大人は15gを水400ccで半量に煎じ,1日3回に分服します。』
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セントウソウの花。日本特産で,1属1種の単型属植物です。キンポウゲ科のオウレンに葉が似ているため,オウレンダマシの別名があります。
私は「セントウソウ」から「戦闘草」を連想してしまうのですが,牧野新日本植物図鑑には『セントウソウは語源がわからない』として漢字は載っていません。他の図鑑を見ると「仙洞草」の字を当てているものが多いようです。京都で「仙洞」といえば「仙洞御所」。なにやら雅な感じがしますね。
しかし,小学館「日本国語大辞典」によると,「仙洞」とは
『①仙人の住むところ。また,俗界を離れた清浄な地。かすみのほら。(出典・略)
②太上天皇(上皇)の御所。仙洞御所。院の御所。(出典・略)
③(②から転じて)太上天皇。上皇。院。(出典・略)』
仙人の住むようなところに生えている草という意味のようです。「先頭草」で,春一番に咲くからという説もあるとか。ついでに「銭湯草」「千頭草」「船灯草」というのはどうでしょうか。
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ヒメシャガの花(上の写真)。シャガの花(下の写真)に似ていますが,姫シャガという名前のとおり,小形でどこかやさしい感じのする花です。
ヒメシャガは,京都府レッドデータブックでは「絶滅寸前種(環境省カテゴリー:準絶滅危惧(NT)) 」となっています。
選定理由として次のように書いてあります。
『府内ではもともと自生地が少ないのに加えて、観賞用に採取されることによりほとんど見られなくなった。現状では絶滅の恐れが高い。』
このヒメシャガも自生しているものではなく,坪庭に植えられているものでした。シャガは3倍体植物なので実を結びませんが,ヒメシャガはよく結実するそうです。実のできないシャガが生育地をひろめ,実のできるヒメシャガが絶滅に瀕しているとは,皮肉なものです。
ウワミズザクラの花が咲いています。総状花序の花は,サクラといわれてもぴんときません。一つ一つの花も見ても,サクラの花には見えません。確かに,花が散り葉が茂ったようすはサクラなのですが,どうしてこの花がサクラの仲間に分類されるのか不思議です。いくら分類学上サクラであっても,花が「サクラ」でなければサクラではないですよね。サクラは,花が命ですから。
ウワミズザクラの語源については,鹿ト(かぼく。鹿の肩甲骨の裏側に溝をつけて焼く古代の占い)を行なう際に,この木を燃やしたことにより「占溝桜(うらみぞざくら)」と呼ばれ,それが転じて「ウワミズザクラ」になったという説があります。
鹿トとはどういうものだったのか。「平凡社 世界大百科事典」の「ふとまに(太占)」の項に次のように書いてありました。
『その方法は,《古事記》天岩屋戸の段に〈天香山の真男鹿(まおしか)の肩を内抜きに抜きて,天香山の天波波迦(あめのははか)を取りて,占合(うらない)まかなはしめて〉とあるように,鹿の肩甲骨を波波迦(ははか)(カニワザクラのこと,ウワミズザクラの古名という)にて焼き,割れ目の模様でうらなうものであった。』
鹿の骨を焼く「鹿ト(かぼく)」は,令制以降は海亀の甲を焼く「亀ト(きぼく)」へと変わったそうです。でも鹿にしろ亀にしろ,焼くときにはウワミズザクラの木を使用したのは何故でしょうか。神聖な占いのための火をおこす道具ですから,どんな木でもよいという訳にはいかなかったのでしょうが,ウワミズザクラが選ばれた理由は何でしょうか。
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トキワハゼの花。下の写真は上唇をはいだところ。2本ずつ長さの違う4本の雄しべと柱頭が見えます。
「牧野新日本植物図鑑」には次のように書いてあります。
『庭や道ばたに普通にみられる一年草である。
全形サギゴケに似ているが,ほふくする枝をださない点で異る。
全体やや小形で,根ぎわの葉の間から数本の茎を直立し,高さ6~18cmとなる。
春から秋の終りまで花がみられる。
茎の先にまばらに総状花序を作り,淡紅紫色の小さな花を開く。
がくは5裂し,裂片は皮針形でとがる。
花冠は長さ1~1.2cm,下部は筒となり深く2裂して唇形,上唇は鈍頭で浅く2裂し,下唇は大きく先は3裂し,中央は2列にもりあがって黄色である。
2本づつ長さの異なる4本の雄しべをもつ。
果実は小さく球形のさく果で,がくに包まれている。』
名前の由来については『春から秋までいつも花を開いているので常盤ハゼの名がある。』とあります。どうしてハゼというのかについては触れられていません。
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ヒメスミレの花。濃紫色の花がスミレによく似ていて,スミレよりは小形なので姫スミレの名があります。スミレより小さいという意味で名づけられたものには,もう一つ「コスミレ」がありますが,コスミレが名前の割りにスミレより小形ではないのに対し,「ヒメスミレ」はかなり小形です。
日当たりのよい石垣や,道路わきによく生えています。今まで小さなスミレと思っていましたが,別の種類だったのですね。
「朝日百科 植物の世界 6」に次のように書いてありました。
『放浪生活をするヒメスミレV.confusa ssp.minorはアスファルトや敷石の間隙,植木鉢などに入り込んで生え,定住地はない。花や葉はスミレに比べてずっと小さく,葉は三角状披針形である。花後に大きくなった夏葉はスミレと紛らわしくなるが,葉柄上部の翼はスミレのように広くならない。』
「山渓ハンディ図鑑6 日本のスミレ」による,ヒメスミレの特徴は次のとおり。
・草丈…3~8cm
・葉…長さ2~4cm 。三角状披針形。
花のあとはやや基部がはりだす。
表面は暗緑色。裏面は紫色を帯びるものが多い。
スミレと違って,葉柄の翼はほとんどない。
・花…直径1~1.5cm。花弁は細身のものが多く,側弁の基部は有毛。
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スミレの花。「スミレ」はViola mandshurica(マンジュリカ)の種名であり,スミレ一般をあらわす名前でもあります。種名が普通の植物名と一緒という例は少なくて,例えば,タンポポの場合,タンポポという種名をもつものはなく,カンサイタンポポ,トウカイタンポポ,セイヨウタンポポなどが種名となります。サクラやウメ,バラなども種名としては存在しません。
「スミレ」という種名があることは,スミレ科を代表する種名があるということでシンプルでよいことのようですが,それはそれで不便なことでもあります。スミレといった場合,マンジュリカをさすのか,スミレ一般をさすのかわからないからです。
似た例としては,アゲハチョウがあります。アゲハチョウ科,アゲハチョウ属という科名,属名とともに,種名としてもアゲハチョウが存在します。種名としてのアゲハチョウは単にアゲハと呼ばれることが多く,紛らわしい場合はナミアゲハと呼ぶことが定着しています。
といって,マンジュリカを「並スミレ」とすることはスミレ属の代表にふさわしくありませんし,「本スミレ」とすれば他のスミレが偽者のようです。
園芸上では,種としてのスミレをさす場合は「マンジュリカ」とよんでいるそうです。
日本を代表するスミレのようですが,学名のマンジュリカ(mandshurica)は「満州の」という意味で,朝鮮,中国に広く分布しています。
「山渓ハンディ図鑑6 日本のスミレ」による,スミレの特徴は次のとおり。
・草丈…7~15cm
・葉…へら形で斜め上に展開する。
花期の葉身は長さ5~8cmで,葉柄には,はっきりとした翼がある。
毛の有無には変化が多く,無毛のものから全体が微毛におおわれるものまである。
葉の表面は緑色,裏面は白っぽい緑色のものが普通だが,紫色を帯びるものもある。
・花…直径2cm前後で濃紫色。
唇弁の中央部は白地に紫色のすじが入り,側弁の基部には毛がある。
距はふつう細長いが,変化が多い。
萼片の付属体には切れ込みはない。
・根…褐色(重要な特徴)
タグ: | スミレ
見慣れない花が咲いていました。青い小さな,キュウリグサのような花が集まって,包葉に包まれています。
いくつかの図鑑で調べたのですが,載っていませんでした。こういった場合,外来植物を疑うべきです。
全国農村教育協会の「日本帰化植物図鑑」を探してみると,ありました。
これは「ノジシャ Valerianella olitoria 」です。
『地中海の島部原産で,ヨーロッパ,アメリカ,オーストラリアなどで野菜として栽培され,また帰化している越年生草本。』
『初夏に,茎の先に,直径1.5mmほどの淡青色の5裂した筒型の花を10~20個固めて着ける。
17世紀以降,ヨーロッパでサラダ用野菜として栽培化され,日本にも明治初年に導入されたが,余り定着せずに,各地で散発的に帰化状態にある。』
保育社「原色日本帰化植物図鑑」(1976年)には次のように書いてありました。
『欧州原産 。明治の初期に入ったものと思われ,いま全国的に広がっているがあまり多くない。大沼は”此草ヲトリドイツ人ハ冬春ノ節油ト酢トヲ交ゼ生食スト云ウ”と記し,欧州ではサラダ用に栽培される。』
生食できるようです。普通,野菜は花の咲く前に収穫するでしょうから,今の時期に食べておいしいかどうかはわかりません。葉を10枚ほど,ドレッシングをかけて食べてみました。おいしい。これは野草ではなく野菜です。茎が伸びる前のロゼット状の時期なら,もっと野菜らしかったと思います。
ただロゼット状の時期に採取するとして,葉だけを見て他の雑草と見分けられるかどうかは難しいところです。生えている場所を覚えておかなければなりません。しかし,そんな苦労をしなくても,マーシュとかコーンサラダといった名前で種が売っているみたいなので,育てるほうが簡単かも。
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道にモンツキウマゴヤシ(マメ科)が生えていました。写真でみると緑色のチョウが集まっているようにもみえますね。地中海地方原産の外来植物です。
全国農村教育協会「日本帰化植物図鑑」によると
『地中海沿岸の原産で南北アメリカやオーストラリアなどに帰化している。
一年生または二年生草本。茎は基部でよく分岐して横に広がり,長さ60cmほどになる。
葉は,心臓形で頂部が凹み鋸歯のある3枚の小葉からなる複葉,葉柄の基部には深裂する托葉があって互生する。
小葉の中心部に黒紫色の斑紋があるのが特徴。
春に葉脇に短い花序を出し,長さ6mmほどの黄色の蝶形花を数個ずつ固めて着ける。
莢果は巻いて長い刺がある。
1954年に三重県で見いだされた。関東地方以西の道端などで見られる。』
保育社「原色日本帰化植物図鑑」によると
『地中海地方原産。1954年5月,三重県楠町で採られた標本を水島が同定。上記和名を与えて報告した。その後も近畿・中国・四国などに散発的に出現。』
花はマメ科特有の蝶形花ですが,なかなか開いてくれません。一枝をコップに入れておいたら,夜,葉を閉じていました。ネムノキやクズなどマメ科植物は就眠運動をすることが知られていますが,モンツキウマゴヤシもまた夜は眠るようです。
タグ: | モンツキウマゴヤシ
上の写真がソメイヨシノ,下がヤマザクラです。ヤマザクラは子房が膨らんでいますが,ソメイヨシノは変化がありません。
大部分のソメイヨシノは,結実することなく花は枝から脱落します。今の時期,木の下には花柄がたくさん落ちています。
ヤマザクラは,花びらが散った後も,がく,おしべ,花柱はしばらく残っていますが,2~4日後には実だけになり,そのまま黒紫色に熟します。
5月下旬には,ヤマザクラの木の下に実がたくさん落ちています。歩道に,つぶれた実の黒い汚れがたくさんついているのを見ると,公園や街路樹にソメイヨシノが植えられる理由が分かるような気がします。
3月26日に時事通信で「ソメイヨシノ「両親」判明=オオシマザクラとコマツオトメ-遺伝子解析で」というニュースが流れていましたが,詳しいことはあまり分かりませんでした。
今日,ネットで検索すると,日本育種学会第111 回講演会の記者会見のお知らせがあり,すこし詳しい発表の概要が載っていました。
「PolA1 遺伝子解析によるサクラの類縁関係 -ソメイヨシノの起源-」
『日本において古来より数多くのサクラ品種が育成されてきたが,その多くはオオシマザクラを交配親として育成されたと言われている。しかし,これまでDNA 解析によりヤマザクラとオオシマザクラを区別することはできなかった。そこで,核ゲノム中に1組のみ存在するPolA1 遺伝子の第19イントロンの塩基配列を解析したところオオシマザクラに特異的なハプロタイプを見いだした。ソメイヨシノの起源に関しては,葉緑体DNA の解析によりエドヒガンが母親であるという結果が提出されている(Kaneko et al. 1986)が,父親がオオシマザクラであることを示す結果は得られていない。本研究の結果,ソメイヨシノのひとつのハプロタイプはオオシマザクラと一致した。また,もうひとつのハプロタイプは,エドヒガン野生種と1塩基異なっていた。そこで,エドヒガン系園芸品種を解析したところ,上野公園にあるコマツオトメがソメイヨシノと同じハプロタイプを含んでいることを見いだした。以上の結果は,ソメイヨシノがコマツオトメのようなエドヒガン系品種を母親に,オオシマザクラを父親として起源したことを示唆している。注: コマツオトメを母親と断定していない。』
これを読むと,ソメイヨシノの起源については,これからもまだまだ論争が続きそうな感じですね。
マツバウンラン(ゴマノハグサ科)。この花も普通の図鑑には載っていなかったのですが,偶然見た帰化植物図鑑でようやく名前が分かりました。
全国農村教育協会「日本帰化植物写真図鑑」によると
『北アメリカ原産でアジアや南アメリカの温帯に帰化している越年生草本。茎は細く,基部で分岐して高さ50cmほどになり,基部から走出枝を伸ばして分株をつくる。葉は線形で,初めはロゼット状に重なるが,後には互生する。春から夏にかけて,直径1cmほどの紫色の仮面状花を穂状に着ける。1941年に京都市伏見区の向島で初めて採取された。現在では北関東,北陸地方以西に普通に見られるようになった。』
日当たりのよいところに群生していて,なかなかきれいな花です。茎が細長いので,切り取るとすぐに首を垂れてしまいます。
最近出た岩槻秀明著「街でよく見かける 雑草や野草がよーくわかる本」(2006年11月)を見ると,マツバウンランが載っていました。やはり,だんだんと普通種になったきているようですね。
また,花が大きいものもあるようです,
『本種には花の大きいタイプが報告されており,距をのぞく花冠が12mmに達するものはオオマツバウンラン(var.texana(Scheele)pennel)と呼ばれています。』
タグ: | マツバウンラン
ツタバウンラン。3番目の写真の左はマツバウンランです。ツーショットが撮りたくて,並べてみました。一緒に生えていることはありません。
どちらも,ウンランの名前がついた外来植物です。同じゴマノハグサ科なのでよく似た花をしています。他のゴマノハグサ科のサギゴケやトキワハゼの花とも似ています。
名前のもとになったウンラン(海蘭)は,海岸の砂地に生える植物なので,この辺りには生えていません。写真でみると,仮面状の花冠に距があるところなど似ています。
ツタバウンランについて,保育社「原色日本帰化植物図鑑」には次のように書いてありました。
『欧州原産。別名ツタカラクサ。園芸植物として大正初年に渡来,ロックガーデン用に植えられる。北海道・本州に野生化し,石垣のすき間などに生えることが多い。種小名ムラリスは「城壁の」の意で,その生態を示すものであろう。』
確かに石垣に咲いていることが多く,近所でみるツタバウンランは,すべて道路わきの石垣から生えています。
花期は春~初夏となっていますが,かなり寒い時期にも花をつけていました。地中海原産なので,もともとは暖かいところに生えているものなのでしょうが,寒さにも強いようです。
花をいじっていて,おもしろいことに気づきました。花の横を押すと,動物が口をあけるように開きます。パクパクと遊べそうです。口をあけると,4本の雄しべと1本の雌しべが見えます。
ヒメウツギの花。白い上品な感じのする花です。ウツギより小形なので姫ウツギの名がついています。
牧野新日本植物図鑑によると
『関東以西の本州,四国,九州の山地にはえる落葉低木で高さ1m位ある。若い枝は毛がない。対生の葉は柄をもち,皮針形または卵形で先端は長く尖り,基部はほぼ円形である。辺は細かな鋭いきょ歯を持ち,表裏ともに細かな星状毛がまばらにはえている。5~6月頃枝の先に円錐花序をつけ,白い花を開く。花序は毛がなく,がくには細かな星毛がまばらにはえている。形はほぼ三角形をした5裂片である。花弁は5個,長楕円形で,長さ1cm位,雄しべは10本で花糸は両側に歯状の翼をもつ。花柱は3~4本。』
花の中を見ると,副冠のような白い筒状のものがあります。
花びらを2枚とって,横から見たのが,真ん中の写真です。筒状に見えたのは,雄しべに翼があるためでした。
3本の花柱と長短の雄しべ1本ずつを残して撮ったのが,下の写真です。
タグ: | ヒメウツギ
マツの葉にとまったカゲロウのなかま。写真を撮れば,あとで図鑑を調べて名前がわかるだろうと思っていましたが,甘かったようです。昆虫は種類が多すぎて,写真だけでの同定は無理でした。
羽根が不透明なので亜成虫だと思います。カゲロウは水にすむ幼虫から,一旦,羽根をもつ亜成虫となり,もう一度脱皮して成虫となります。昆虫のなかで,2回羽化するのはカゲロウ目だけです。
「学研生物図鑑 昆虫Ⅲ」には,次のように書いてありました。
『羽化したものは亜成虫といい成虫に似ているが,はねは不透明で性的にも成熟していない。数時間ないし3日間でもういちど脱皮し,成虫になる。世界ではおよそ1,500種が知られている。日本では100種ほどが記録されている。』
平凡社「世界大百科事典」には,次のように書いてありました。
『成熟した幼虫は水面上に上がり,また川岸の石にはい上がり羽化して亜成虫となる。したがって蛹期(ようき)はない。亜成虫は成虫と同一形態であるが翅が不透明で,あしと尾毛は太く短い。まもなく再び脱皮して成虫となる。亜成虫はよく飛ぶこともでき,灯火に飛来してから成虫になることもある。』
捕って帰り,羽化を観察すればよかったなと,すこし後悔しています。
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ドウダンツツジの花。こういう花の形を「つぼ形」といいます(写真1)。
花冠を切って,中を見てみました(写真2)。1本の雌しべと10本の雄しべがあります。
雄しべは花冠にくっ付いていて,花が落ちるときには,ツツジの花のように,雄しべごとすっぽりと抜け落ちます。花が抜け落ちたあとは,花柱だけが残っています(写真3)。
ドウダンツツジの名は「灯台ツツジ」からきています。「朝日百科 植物の世界」に次のように書いてありました。
『満天星(どうだん)の花に止まりづらき虻(あぶ) (小暮つとむ)
本来,ドウダンツツジの和名は「灯台躑躅」と書き,枝の分かれ方がかつて宮中などで用いた結び灯台に似ていることから名づけられ,「とうだい」が「どうだん」に転じた。しかし,花の咲く様子が満天に星を散らしたいようで美しいため,現在では冒頭の句のように,「満天星」と書くことが多い。』
「結び灯台」とはどのようなものか,小学館「日本国語大辞典」によると
『細長い三本の丸棒を紐で結び,上下を開いて立て,上に油皿(あぶらざら)を置いて火を点じるもの。宮中での夜間公事などに際して用いられた。』とあります。
平凡社「日本史モノ事典」に「結び灯台」の絵が載っていました。ドウダンツツジの分岐した枝ぶりと並べてみましたが,似ているでしょうか(写真4)。
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ヤエムグラの葉の上で,ガガンボが交尾していました。
ガガンボとは,カのお母さんという意味です。
平凡社「世界大百科事典」に次のように書いてありました。
『ガガンボとは<蚊の母>の意味で,元来はカガンボであったが,これがなまってガガンボの呼名が普及して現代に至っている。方言にカノオバ,カトンボ,アシナガなどがある。』
大きなカのようですが,動物の血を吸うことはありません。ガガンボの成虫は,花の蜜を吸うなど,一般に植物質を食べます。
図鑑をめくっていて気づいたのですが,カは(ガガンボもそうですが),ハエ目に含まれるのですね。カとハエは同じなかまだということになります。カとハエという日常生活に馴染み深い二つの虫が,同じなかまだったとは以外です。
ハエ目は双翅目ともいわれるように,後羽が退化して前羽だけになっていることが特徴です。退化した後羽は「平均棍(こん)」と呼ばれる,こん棒状の突起になっています。
「学研生物図鑑 昆虫Ⅲ」に次のように書いてありました。
『ハエ目(双翅類そうしるい)Diptera
はねを2枚しかもっていないことから,Di-2,ptera=はね,すなわち双翅類とよばれる。後翅は退化し,平均棍として残っている。コウチュウ目(甲虫類),チョウ目(鱗翅類),ハチ目(膜翅類)とならんで種類数は多い。・・・』
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美術館裏庭の藤棚に花が咲いていました。フジの花の形はマメ科特有のもので,蝶形花冠といいます。よく見ると,虫たちに効率よく花粉を付着させるための,おもしろいしくみを有しています。
花の突き出た部分を指で押すと,雄しべの葯と柱頭があらわれます(写真2)。蜜におびき寄せられた虫が花にとまると,重みで花弁がさがり,葯と柱頭が露出,虫に花粉をつけるというしくみです。虫がとまる部分の花弁(翼弁,舟弁)の基部が細くなっていて,少しの加重でもたわむようになっています。
マメ科の雄しべは「二体雄しべ」といわれる形態をしています。10本ある雄しべのうち,9本の花糸が合着して1束となり,残りの1本が独立しているというものです(写真3)。くっつくなら全部くっつけばよいのに,どうして1本だけ独立しているのでしょうか。何か理由があるのでしょうね。
春に咲くフジの自生種には,フジ(ノダフジ)とヤマフジの2種類があります。フジは右巻き,ヤマフジは左巻きですが,公園などの藤棚のフジは,太い幹は左巻き,つるは右巻きになっていることがあります。これはヤマフジの台木に,フジを接いであるためです。
フジは本州,四国,九州に分布しますが,ヤマフジは兵庫県以西にのみ分布するそうです。でも九条山周辺で目に付くのはヤマフジばかりのような・・・。フジの種類などあまり気にして見たことがないので,もう少しよく見てみようと思います。
地人書館「新訂 図解生物観察事典」による,フジ(ノダフジ)とヤマフジの相違点。
比較点 | フジ | ヤマフジ |
---|---|---|
花序 | 頂生 | 頂生 |
茎(牧野式) | 右巻き | 左巻き |
花穂 | 長く 20~50cm | 短く 10~15cm |
花の咲き方 | 基部から咲く | 同時に咲く |
花の開き方 | 正面を向いて咲く | 横を向いて咲く |
花の色 | 紫色,まれに白色 | 白色または紫色 |
葉 | ほとんど無毛 | 表裏に毛がある。とくに裏面には軟毛が密生する |
さや | 細毛がある | 短い毛が密生する |
花もち | 一夜でだめになる | 花もちがよい |
冬芽 | りん片に白色の微毛がわずかにある | りん片の基部に毛が多い |
アリアケスミレの花。「アリアケ」の名は,花の色が白色から淡紫色まで変化に富んでいるため,有明の空の色になぞらえてつけられたものだそうです。
「有明」は秋の季語です。
講談社「日本大歳時記」によると
『有明は,夜明け,明け方であって,その時分のほの明りの中に残っている月痕(げっこん)である。名月から何日も経っている月というのではなく,月もだんだん出が遅くなって翌朝の有明空に望むことのできる月である。』
でも,夜が明けるにつれ,モノトーンの世界がしだいに色づいてゆくのは,どんな夜明けにもおこることですよね。アリアケスミレの白い花を,夜明けの空に残る有明月になぞらえたのでしょうか?
「山渓ハンディ図鑑6 日本のスミレ」には「アリアケスミレ(V.betonicifolia var.albescens)」として載っていますが,「牧野新日本植物図鑑」にはシロスミレの項に追記するかたちで載っていました。
(本屋さんで新訂版を確認してみたら,アリアケスミレとして独立した項目で載っていました。)
「牧野新日本植物図鑑」シロスミレの項
『次に本種に似て花はやや小さく,花弁の色は白からほとんど紫の近くまで変化し,紫のすじが多く,側弁,さらに著しいものでは上弁の内側にまで突起毛のあるものがわが国の低湿地によく見られるが,これをアリアケスミレ(V.oblongo-sagittata Nakai var.albescens Hashimoto) という。花の差だけでなく,高さは7cm内外,葉も数多く,葉柄は葉身と同長またはしばしば半分の長さになり,葉身は長三角形状卵形で基部は切形,両面とも光沢があり,花期には毛がない。根も白色である。日本のほか朝鮮,支那北部にあり,種としてはアジア南部に広く分布している。これはシロスミレと次種スミレとの雑種起源といわれている。』
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