動物園の塀際に,ワルナスビの花が咲いていました。[写真1][写真4]
葯はバナナのような形をして,雌しべを取り囲んでいます。[写真2]
先端に穴があき,そこから花粉を出します。
同じナス科に属する,ナスやジャガイモも同じような花をしています。
ナス科の植物は85~90属約2300種あるといわれています。
その中にはナス,トマト,ジャガイモといった日常の食生活に欠かせない野菜や,タバコ等の薬用,嗜好植物,ペチュニア等の観賞用植物などが含まれ,きわめて有用性に富んだ植物群となっています。
有用植物が多いナス科のなかで,ワルナスビはとても嫌われものです。
ワルナスビは北米原産の外来植物で,昭和初期に牧草に混じって渡来。
地下茎で殖えてなかなか根絶することができない上,葉や茎に棘が多く[写真3],そのうえ有毒なので家畜が食べると中毒死する恐れもあるという厄介な植物です。
ワルナスビという名は植物学者の牧野富太郎が命名したもので,葉や花はナスに似ているが農家や畜産家に害をなす悪者という意味で命名されています。
牧野富太郎著「植物一日一題」(1953年)には,命名にいたる顛末について次のように書いてあります。
『ワルナスビとは「悪る茄子」の意である。前にまだこれに和名のなかった時分に初めて私の名づけたもので,時々私の友人知人達にこの珍名を話して笑わせたものだ。がしかし「悪ルナスビ」とは一体どういう理由で,これにそんな名を負わせたのか,一応の説明がないと合点がゆかない。
下総の印旛郡に三里塚というところがある。私は今からおよそ十数年ほど前に植物採集のために,知人達と一緒にそこへ行ったことがある。ここは広い牧場で外国から来たいろいろの草が生えていた。そのとき同地の畑や荒れ地にこのワルナスビが繁殖していた。
私は見逃さずこの草を珍しいと思って,その生根を採って来て,現住所東京豊島郡大泉村(今は東京都板橋区東大泉町となっている)の我が圃中に植えた。さあ事だ。それは見かけによらず悪草で,それからというものは,年を逐うてその強力な地下茎が土中深く四方に蔓こり始末におえないので,その後はこの草に愛想を尽かして根絶させようとその地下茎を引き除いても切れて残り,それからまた盛んに芽出って来て今日でもまだ取り切れなく,隣りの農家の畑へも侵入するという有様。イヤハヤ困ったもんである。』
滋賀県ではワルナスビを指定外来種に指定し,今年5月から栽培には届出が必要になっています。
2007年4月7日(土)京都新聞朝刊
『滋賀県は5月1日付で,独自の指定外来種制度に基づき,琵琶湖や野山に放流したり廃棄することを禁じる動植物に,観賞魚のピラニア類やガー科など計15種類を指定する。県内での飼育や栽培に届け出を義務付け,違反者には全国初の罰則規定を設けており,地域固有の生態系保全に向けて本格的に動き出す。』
『県の指定外来種は次の通り。
【植物】イチビ,ワルナスビ【哺乳(ほにゅう)類・爬虫(はちゅう)類】ハクビシン,ワニガメ【魚類】タイリクバラタナゴ,オオタナゴ,ヨーロッパオオナマズ,ピラニア類全種,カワマス,ブラウントラウト,ガー科全種,オヤニラミ【貝類】スクミリンゴガイ,コモチカワツボ【その他】オオミジンコ』
現在の状況について,東京書籍「外来生物事典」(2006年)には次のように書いてありました。
『現在は本州の関東南部以西から沖縄県にかけて分布している。地下茎が深く長く伸び,再生力も強い。地下茎によって繁殖し,耕転を行うと茎が散らばり急激に増加するので,耕地のやっかいな害草となっている。駆除のためには根まで掘り取ることが必要だが,大きく鋭い刺をもつため,素手での抜き取りはほぼ不可能である。牧草地では密度の低いうちに除草剤散布による絶滅を図っている。』