スミレの実が割れ,種子が見えています。[写真1]
スミレの実は,種子が未熟なうちは下向きになっていますが,熟するにしたがい上向きとなります。
[写真4]は,花から実になりかけの頃。(2008年5月2日)
[写真3]は,裂開寸前。(2008年5月17日)
果実は割れると,3つの果皮片に分かれます。
果皮片は舟形をしていて堅く,なかに2,3列の種子が入っています。
ぎっしりと入った種子はつまむと簡単に抜けそうですが,果皮片のはさむ力は以外に強く,ピンセットで引っぱっても引き抜けません。
[写真3]の実をテーブルの上に放置して3時間後にみると,実が開き全ての種子がはじき飛ばされていました。
果実は乾燥により収縮し,種子を弾き飛ばすようです。
スミレの実が種子をはじき飛ばすメカニズムについて,中西弘樹著「種子(たね)はひろがる」(1994年)には次のように書いてありました。
種子が飛散するのはボート型の果皮片の両側が内側に湾曲し,その圧力で種子をはじき飛ばすからである。果皮片が湾曲するのは,果皮片が構造の異なった3層の細胞群からなり,これらの異なった乾燥化によって外側の層がより収縮をおこすためである。種子を強く押すために,果皮は種子が熟す頃にはかなり堅く,丈夫になっている。
スミレの種子には,エライオソームと呼ばれる,アリが好む物質がくっついています。[写真2}
エライオソームについて,同書には次のように書いてありました。
アリを誘引する物質を含んだ種子の付属体は,カルンクルcaruncle,種沈(しゅちん)あるいは種阜(しゅふ)とよばれ,珠皮(しゅひ)に由来し,種子が発生時に胎座(たいざ)に付着していたへそと呼ばれる部分にできる。一方,果実がアリに運ばれるものは,果皮あるいは花床に由来する付属体が果実にでき,同じようにアリを誘引する物質が含まれている。したがって,これらの付属体を総称してエライオソームelaiosomeとよんでいる。
エライオソームの成分の化学的分析は一部の植物で行われている。アリを誘引する主成分としてオレイン酸,リノール酸,パルミチン酸,ステアリン酸などいくつかの脂肪酸が知られており,その他水溶性成分としてグルタミン酸,アラニン,ロイシンなどのアミノ酸やフルクトース(果糖),グルコース(ブドウ糖),ショ糖(スクロース)などの糖が検出されている。
スミレ属の散布形式については,純粋アリ散布型,二重散布型(自動散布+アリ散布),自動散布型の3種類があるとされています。
スミレの散布形式は二重散布型となります。
種子は実からはじき飛ばされた後に,アリによってさらに運ばれます。
スミレの二重散布型について,同書には次のように書いてありました。
二重散布型は種子がはじき飛ばされた後,アリによって散布されるものをいう。このタイプのスミレは果梗が一般に長く。蒴果の位置は植物体から抜き出る。蒴果の壁は堅く,木質となっており,食害を防いでいる。種子が熟すと果実は上向き,三つの果皮片に分かれる。果皮片は堅く,舟型をしており,その中には2,3列の種子が入っている。果皮片のはさむ力は大きく,アリがそれを見つけても運び去ることはできない。やがて種子は次々に飛ばされ,その距離は2~5メートルに達する。種子は一般に小さく,光沢があり,小さいエライオソームが付着している。したがって,はじき飛ばされた後にアリに運ばれる。アオイスミレとエゾアオイスミレを除くすべての日本産のスミレは二重散布型であると考えられる。