動物園の塀にクダマキモドキが止まっていました。[写真1]~[写真3]
後脚の片方がとれています。
腹端にかぎ状に曲った太い産卵管があるので雌ですね。
[写真3]は同じ場所で,2006年9月30日に写したもの。
こちらは雄のようです。
クダマキモドキは,「ヤマクダマキモドキ」と「サトクダマキモドキ」に分類されます。
保育社『全改訂新版 原色日本昆虫図鑑(下)』(1954年)には,それぞれについて次のように書いてありました。
ヤマクダマキモドキ 体長45~50mm。全身緑色で前翅基部前縁に褐色部がある。前腿節は赤褐色。♀産卵管の先端部は黒色。♂生殖下板は上方に2回湾曲して船底形,産卵管の上縁は先方1/2が切断される。山地の樹ににすみ,「ジ・ジ・ジ」と低く切って5~6声鳴くのみ。成虫期7~10月,よく飛ぶ。大阪付近では300m以上の山地にすみ,平地性の次種とすみわける。和名はフトクダマキモドキを使っていたが,次種より小さいこともあるので改名した。日本固有種。分布:本州(福井・京都・三重・奈良・大阪・山口)・対馬。
サトクダマキモドキ 体長42~56mm。前種と酷似するが♂の生殖下板は直線状で,先端の切れこみ浅く,産卵管の背縁は先端1/3が切断される。前脚は緑色。平地の樹上にすみ,樹枝を数センチ縦に裂いて平たい卵をうみこみ,傷あとは外にささくれるので桑や果樹に害がある。成虫期8~11月。分布:本州(おそらく関東似南)・伊豆三宅島・四国・九州・対馬;琉球から中国大陸東岸をトンキンまで。ハワイへも侵入している。これまで前種と混同されていたので和名を変えた。本属は東南アジアを中心に約40種が知られる。
両種の違いをまとめると,
・ヤマクダマキモドキの雄の「生殖下板は上方に2回湾曲して船底形」,サトクダマキモドキの「生殖下板は直線状で,先端の切れこみ浅」い。
・ヤマクダマキモドキ雌の産卵管は「先端部は黒色」「産卵管の上縁は先方1/2が切断される」。サトクダマキモドキは「産卵管の背縁は先端1/3が切断される」。
・ヤマクダマキモドキの「前腿節は赤褐色」。サトクダマキモドキの「前脚は緑色」。
・ヤマクダマキモドキは「山地の樹にすみ」,サトクダマキモドキは「平地の樹上にす」む。
・ヤマクダマキモドキの成虫期は「7~10月」,サトクダマキモドキの成虫期は「8~11月」。
この中では,前脚の色で見分けるのが,一番簡単なようです。
ヤマクダマキモドキは前脚の色が赤褐色なのに対して,サトクダマキモドキは緑色。
[写真3]を見ると,前脚は緑色をしているので,サトクダマキモドキであることがわかります。
翅が小さいのでバッタの幼虫のように見えますが,翅が退化したフキバッタという種類です。
飛ぶことができないので,移動範囲も限られ,地域による変異が大きいそうです。
保育社『検索入門 セミ・バッタ』(1992年)を見ると,26種類ものフキバッタが載っています。
しかし,それぞれの分布地域は限られているので,分布域に京都が含まれている種類だけをひろい出すと,次の5種に絞り込めます。
・ダイリキフキバッタ
・キンキフキバッタ
・オマガリフキバッタ
・ヒョウノセンフキバッタ
・ハネナガフキバッタ。
この内,もっとも該当しそうなのはキンキフキバッタでした。
同書には,キンキフキバッタについて次のように書いてありました。
形・色 ♂24.7~ 27.8mm, ♀29.9~ 35.8mm。黄緑色。♂の黒側条は頭部と前胸背前部まで,♀ では前胸背側条が不明瞭。後腿節下面は赤色で, ♀は♂より鮮やか。♂の前胸背前縁にわずかなノッチがあるが,後縁は♂♀とも張り出している。前翅は短い卵形,第2腹節後縁に達するか,ややこえる程度。左右前翅は腹部背面でかろうじて接するか, または離れている。♂の腹部最後節は二分し, 1対の平板な突起がある。♂の尾端は他種に比べていくぶん太い。♂の尾毛は先端が曲がり,側面観は少し関節を曲げた人の中指状。
分布 本州(福井・岐阜・三重・滋賀・奈良・京都。大阪・兵庫)。琵琶湖をとりまく山地を中心に,西は加古川,東は長良川,北は岐阜・福井県境の越美山地,南は紀伊山地北縁まで産する。
生息地 低山地。
出現期 年1化。 7月下旬~10月上旬。
生態 林縁部の灌木やマント群落に生息。山間の大きな河原岸のクズ群落など,やや乾地,陽地を好む。
クビキリギスが塀にとまっていました。
捕まえると,大きく口をあけて噛みつこうとします。[写真5]
牙のようなオレンジ色の大あごが恐ろしげな印象を与えます。
口の周囲が赤いことから「血吸いバッタ」と呼ばれることもあるとか。
でも,顔のバランスが何となく間の抜けた感じもします。
[写真5]と[写真6]を交互に見ると,とぼけた感じがおかしいですね。
「クビキリギス」の「クビキリ」は「首切」です。
頭が取れやすいことからきているようです。
ウィキペディア(Wikipedia)の「クビキリギス」の項目には次のように書いてありました。
食性は植物食傾向の強い雑食で、昆虫類、イネ科植物の穂や若芽等を食べる。顎の力が強く噛みつかれた状態で強く引っ張ると、頭部が抜けることが和名の由来になっている。このように顎の力が強いため、ササキリ類やツユムシなどでは文字通り歯が立たない大きく固い穂、種子も食べることができる。また、引っ張ると比較的首が抜けやすいのは、首の関節が意外と細く、頭頂部寄りにあり、まっすぐ引っ張られると折れてもぎれる形になるからである。
首を縮めて体を一直線にした姿は,見事なロングノーズの流線型をしています。[写真4]
これほどの流線型が必要なほど,速く飛ぶとは思えません。
ほっそりとしたイネ科の葉っぱに擬態しているのでしょうか。
以前の自然観察日記を見返してみると,クビキリギスは2004年4月11日にも記事にしています。
この日の記事は,夜にどこからか「ジー」という音が聞こえてくるので,外に出て捜してみると,草の上でクビキリギスが鳴いていたというものでした。
「ジー」という音は,古い蛍光灯が鳴っているような,変圧器がうなっているような,連続した音です。
家の中にまで聞こえるというのは,かなり大きな音です。
ただ,その時の写真を見返して,本当にクビキリギスだったのか疑念が出てきました。
口が赤くないのです。
同じように「ジー」と鳴いて,姿が似ている種類にクサキリがいます。
でもクサキリの成虫期は8月~10月なので,4月に鳴いているはずがありません。
……よくわかりません。
保育社『全改訂新版 原色日本昆虫図鑑(下)』(1977年)には,クビキリギスについて次のように書いてありました。
体長57~65mm。頭頂は尖り,ロは赤い。緑色型と褐色型があり,紅色をおびるものもある。草地にすみ,成虫越冬,翌5月ごろは低木にのぼり,鋭い声で「ジイーン」と連続して鳴く。移動習性があり,9月ごろ山頂や市街地に突然あらわれることがある。分布:関東~福井以西の本州・四国・九州・対馬。
クサキリについては,次のように書いてありました。
体長40~55mm。緑色型と褐色型がある。頭頂はあまり突出せず,産卵管は長く翅端をこえる。草地にすみ「ジーー」と連続して途切れずに鳴く。卵越冬,成虫期8~10月。分布:関東.新潟以南の本州・四国・九州・対馬・伊豆諸島;中国・台湾・東亜熱帯。
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歩道にヒメヤママユがひっくり返っていました。[写真3]
動いていないので,死んでいるのかと思いましたが,小枝で触ると,肢を動かします。
ひっくり返して表を向けると,後翅の目玉模様が見えています。[写真1]
ヒメヤママユの後翅の目玉模様は,普段は前翅に隠れていて,身に危険が迫った時にふいに相手に見せて威かすのに使われます。
威嚇のポーズをとるだけの元気は,まだあるようです。
翅の模様はかなり派手ですが,渋い美しさがありますね。
東南アジアの民芸品を連想させます。
恐る恐る棒の先に乗せて,顔を撮っているとき,意外な感情が湧きおこりました。
カワイイのです。[写真4]
くりくりとした大きな目,大きな耳のような触覚,もこもことした体。
ガに対して,カワイイと思ったのは初めてです。(ついに一線を越えてしまったのでしょうか?)
今まで見たヒメヤママユは,腹部がぽってりと太くて,生理的に受け付けないものがありました。
[写真5]は過去に写したヒメヤママユです。
(上:2004年11月6日,下:2005年11月2日)
どちらも腹部が太くて,地色も今回のものよりは薄い色をしています。
これらは雌で,今回のものは雄のようです。
保育社『原色日本蛾類図鑑(下)』(1971年)には,ヒメヤママユについて次のように書いてありました。
開張♂85~90mm.♀90~105mm.♂の触角は羽毛状。♀の触角は両櫛歯状。♂の地色はオリーブ褐色であるが♂(♀の誤植?)は明るい。成虫は10~11月に出現し燈火に飛来する。幼虫はサクラ・ナシ・ウメ・クリ・クヌギ・ケヤキ・アカシデ・エゴノキ・ガマズミ・クルミ・ミズキ・ウツギ・イタヤカエデ・タカオカエデ等の葉を食し,1令幼虫は黒色であるが成長するに従い黒色部が少なくなり,中令では背面のみ黒色,終令に於ては体長55mm位になり,体は円筒形黄緑色で淡緑色の短毛を密生し,体側に黄白色の気門下線を走らせる。気門は淡褐色である。5月中旬頃老熟し営繭する。繭は落葉間或は枝間に作られ楕円形,網目状でややクスサンの繭に似るが軟弱である。卵は樹皮上に不規則に産付され,扁幼な楕円形で長さ2.5mm位。卵越冬。分布:北海道・本州・四国・九州・対馬・屋久島。
雄と雌の違いをまとめると,
・雄は雌より小柄。雄は開張85~90mm,雌は90~105mm。
今回の個体は開張87mm。
・雄の触角は羽毛状,雌の触角は両櫛歯状。
雄の触覚の方が幅広く,雌の方が狭い。
・雄の地色はオリーブ褐色,雌は明るい色。
同書では「♂の地色はオリーブ褐色であるが♂は明るい」とありますが,後の「♂」は「♀」の誤植ではないかと思います。
じっくりと写真撮影するため,膨らませたビニール袋に入れて持って帰りました。
袋から取り出すと,翅をふるわせています。
ずいぶん弱っているのだなと思ったのは勘違いで,実は威嚇していたようです。
写真を撮ろうとしていると,そのまま飛んで行ってしまいました。
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動物園の塀にカマドウマ(のなかま)がとまっていました。
写真だけ撮って後で調べれば名前がわかるだろうと思っていましたが,そんなに甘くありませんでした。
小学館の図鑑NEO「昆虫」に載っているカマドウマの仲間は,カマドウマとマダラカマドウマの2種類だけです。
図鑑の写真を見る限り,本種はマダラカマドウマに思えました。
保育社『原色日本昆虫図鑑(下)』(1977年)を見るともう少し詳しく載っていました。
カマドウマ科は3属に分けてあり,次の7種が載っています
・クラズミウマ属 クラズミウマ,コノシタウマ
・カマドウマ属 カマドウマ,マダラカマドウマ,ホラズミウマ
・クチキウマ属 クチキウマ,エサキクチキウマ
この他に,クラズミウマ属とカマドウマ属にそれぞれ数種類がいるとされています。
全部で10数種といったところでしょうか。
同書を見ると,クラズミウマにも該当しそうな感じがしてきました。
同書にはマダラカマドウマについて,次のように書いてありました。
体長20~27mm。黄白色の地に鮮明な黒褐色斑をよそおう。野外の洞穴,オーバーハングした岩かげ,朽木等に群生し,人家の中や床下にも侵入してすみつく。動物質・植物質ともに食べる。卵・幼虫・成虫ともに越冬する。分布:日本全土;台湾・北アメリカ・ヨーロッパにも移住定着しているというが,学名はクラズミウマと混乱している場合がある。
クラズミウマについては,次のように書いてありました。
体長15~22mm。淡褐色に暗色斑がある。マダラカマドウマに似るが小形で,斑紋は不明瞭。人家の内外にすみ,いろいろなステージで越冬する。分布:本州(関東以西)・四国・九州から知られるが,おそらく広く生息するものであろう。全北区にひろく分布する。ヨーロッパや北アメリカへは侵入したものとされる。
マダラカマドウマだけでなくクラズミウマにも体に斑紋があります。
違いは,マダラカマドウマが「鮮明な黒褐色斑」であるのに対し,クラズミウマは「斑紋は不明瞭」。
といわれても,本種の斑紋が「不明瞭」といえるのか「鮮明」といえるのか,よくわかりません。
他の見分け方としては,後脚の脛節背面にある棘で区別する方法も載っています。
下図の左側のように,刺が短~長,短~長と波型の繰り返しになるのがクラズミウマ属で,右側のパターンのものがカマドウマ属です。
写真を最大限拡大して棘を確認してみると,不鮮明ながら左側のパターンに近いようです。
どうやら本種は,マダラカマドウマではなくクラズミウマのようです。
さらに,日本直翅類学会編『バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑』(2006年)を調べてみました。
同書には日本のカマドウマ科は3亜科7属74種8亜種が分布するとされ,詳細な検索表が載っています。
この検索表を見ると,写真を見ただけで同定することなどとてもできることでないとわかります。
同書には大型カマドウマの同定について次のように書いてありました。
カマドウマは初心者の頭を悩ます昆虫である。通常は♂の交尾器が発達しているので,成虫では♂の見分けは比較的容易である。しかしある種の幼虫が他種の成虫に酷似する場合が多いので,念のため交尾器が骨化している成虫であることを確認する方がよい。また,ふ節の下面に剛毛があれば,幼虫である(ただし,クラズミウマのみ成虫にも剛毛がある)。前胸背板が光沢をもつ場合は成虫だと思っていい。
まずは身近な大型カマドウマを採集して,交尾器や各部の棘をじっくり調べることからはじめるのがいい。絵合わせは危険なので注意すること。
軟弱カマドウマの同定についてはもっとシビアです。
ここでいう軟弱カマドウマとは,擬腹板が通常小さくて見にくい中~小型のカマドウマである。これらは種レベルのみならず属レベルでも分類が難しく,検索表はあくまでも参考例にすぎない。
これらの棘や剛毛の状態を表にして比較し,記載文と照らし合わせれば,理解は早いはずである。逆にいうと, こうした手順を踏まないで印象だけで同定しようとすると100%間違える。
クラズミウマかなと思うのですが,実物を観察しないでクラズミウマと同定するのは無理なようです。
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家の中で,子どもが捕まえたクモ。
図鑑で調べるとヒラタグモのようです。
新海栄一著『ネイチャーガイド 日本のクモ』(2006)には,ヒラタグモについて次のように書いてありました。
人家,神社,寺院など建造物の周囲に好んで生息。壁,塀の表面や隅,柱の割れ目,庭石,石灯ろうなどに白色の円盤状の住居を作る。住居の周囲には放射状に10~ 20 cmの長さの数本の受信糸を引く。昆虫が受信糸に触れると,住居から飛び出し,腹部をもち上げて第4脚で大量の糸を引き出し包み込んで捕える。
餌としてハエを与えると,[写真3]のように,糸で包み込んでしまいました。
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