京都九条山の自然観察日記

■ 2010年08月の自然観察日記 ■

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2010年08月01日(日)

蛹とアシブトコバチ

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コミスジ?の蛹
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コミスジ?の蛹
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蛹の脱出孔
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蛹の縦断面
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アシブトコバチ
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コミスジ

蛹
蛹
蛹
蛹
アシブトコバチ
コミスジ

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ナツフジの葉に蛹がくっついていました。[写真1][写真2]

お尻を葉につけて垂れ下がる垂蛹(すいよう)であること,金属色をした突起があることなどからタテハチョウのなかまのようです。
食草は,蛹がついていたナツフジか,すぐ近くに生えていたクズ。
どちらにしてもマメ科植物なので,コミスジでしょうか。

羽化すれば種類ははっきりします。
葉っぱごと部屋の壁に貼りつけておきました。
ところが,翌日見ると蛹の腹に大きな穴があいています。[写真3]

寄生性天敵の脱出孔のようです。
ケースに入れておけば,羽化したものが何なのか分かったのですが。
気を取り直して周辺の壁を丁寧に探すと,容疑者発見。
窓に小さなハチが止まっていました。

体長5mmほどのアシブトコバチです。[写真5]
アシブトコバチは,チョウやガ,ハエなどの寄生バチです。
平凡社『世界第百科事典』(2007年)には,アシブトコバチについて次のように書いてありました。

膜翅目アシブトコバチ科Chalcididaeに属する昆虫の総称。コバチ上科の中では大型の寄生バチで,体長2~7mm。多くは黒色か褐色で,白色や黄色,赤色などの斑紋がある。胸部は大型でせむし状になって点刻がある。後肢の腿節が非常に太いのでこの名がある。日本には約40種が分布している。主として鱗翅目やハエ類の幼虫やさなぎに寄生する。ときには鱗翅目やハエ類に寄生している寄生パチや寄生パエに寄生することもある。後腿節の先端と後脛節(こうけいせつ)の上部が黄色いキアシブトコバチBrachymeria obsurataは多くの鱗翅目のさなぎに寄生し,日本全国,アジア大陸からフィジー,ハワイなどに広く分布するもっともふつうの種である。

犯人はすでにどこかに逃亡している可能性もあるので,このアシブトコバチが犯人とは限りません。
きわめて怪しい重要参考人といったところでしょうか。

[写真4]は,蛹を縦に切った断面です。
中身は食いつくされて空っぽになっています。
切ったあとで思ったのですが,コバチも脱出する前には蛹になっていたはずです。
蛹殻を丁寧にはがしてゆけば,コバチの蛹殻を見つけることができたのかもしれません。

蛹のなかに別な生き物の蛹があるなんて実に妙ですね。

[写真6]はコミスジの成虫です。(→2007年10月1日)

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2010年08月05日(木)

ケガワタケ

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群生するケガワタケ
2010年8月3日
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ケガワタケ
2010年8月3日
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ケガワタケ裏面
2010年8月3日
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ケガワタケ断面
2010年8月3日
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若いケガワタケ
2004年6月9日
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萎びたケガワタケ
2010年8月5日

ケガワタケ
ケガワタケ
ケガワタケ
ケガワタケ
ケガワタケ
ケガワタケ
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カエデの切り株に,薄い煎餅のようなキノコがたくさん生えていました。[写真1]

ケガワタケだと思います。
6年前,カエデが切り倒されたあとに生えてきて以来,毎年発生しています。(→2004年6月9日)

保育社『原色日本新菌類図鑑』(1987年)にはケガワタケについて,次のように書いてありました。

傘は径3~8cm,初め類球形,のち開いて中央がくぼんだまんじゅう形~ろうと形となり,やや革質。縁は初め内側に巻くが,のち広がり,しばしば不規則に波打つ。表面は初め庄着した繊維状の鱗片で密におおわれ,灰褐~黒褐色,のち傘が開くにつれて鱗片は散在し(中央では密集),白~クリーム色の地肌を露出する。肉は薄く,白色。ひだは垂生し,密,白色のちやや黄色,幅は狭く2~5mm,縁は成熟するにつれ鋸歯状となる。柄は3~5×0.5~1.5cm,中心生~偏心生,表面は白色または基部に向かって褐色となり,細かい鱗片を散在しているが,古い子実体ではほぼ滑らかとなる。ひだとの境界付近に白色,繊維状のつばをもつが,つばは消失しやすい。

学名は「Panus tigrinus(Bull.:Fr.)Sing., Lentinus tigrinus(Bull.:Fr.)Fr.」となっています。
『山渓カラー名鑑 日本のきのこ』(1988年)でも学名は「Panus tigrinus (Bull,: Fr.) Sing.」となっています。

ところが「独立行政法人 森林総合研究所九州支所」のホームページによると,ケガワタケは欧米に分布する「Lentinus tigrinus (Bull.:Fr.) Fr.」ではなく,熱帯性のきのこ「 Lentinus squarrosulus Mont.」であることが判明したと書いてありました。(1999年9月1日の記事)

これまでケガワタケは,欧米に分布するLentinus tigrinus (Bull.:Fr.) Fr.とされてきましたが,西アフリカから東南アジアに分布する熱帯性のきのこの Lentinus squarrosulus Mont.であることが判明しました。日本は分布の北限にあたります。国内では,1913年に東京目黒のカシの朽木に生えていたのが報告されたのが初めての記録でした。九州以外では,高知県,鳥取県でも見つかっています。

日本では食用にされませんが,ナイジェリアでは最も好まれるキノコの一つですとも書いてあります。
6年前に試食した時には,味は悪くはなかったのですが肉厚が薄くて硬くて,あまりおいしいと感じませんでした。
成熟すると硬くなるそうなので,もっと若いときに収穫しなければならなかったのかもしれません。

「Lentinus squarrosulus Mont.」でネット検索すると英語やタイ語のサイトが多数ヒットします。
しかし,栄養分析や栽培法といった学術的な内容のものが多く,調理方法といったものは見つけることができませんでした。

タイ語のページが多いということは,タイ料理では食材にしているのかもしれません。
方向を変えて,タイのキノコ料理を検索すると,北タイのキノコを紹介するサイトがありました。
「ヘットコンカーオ」というキノコの学術名が「Lentinus squarrosulus Mont.」となっているので,これがケガワタケのようです。
マンゴーの枯れ枝に発生するので中部タイでは「マンゴータケ」と呼ばれているともあります。

タイではケガワタケを日常的な食材として使っているのですね。
タイ料理にあうのかもしれません。

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2010年08月11日(水)

オオミズアオと美しいガたち

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オオミズアオ
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オオミズアオ
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ウスバツバメ
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ツマキシロナミシャク
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イカリモンガ
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ヒメヤママユ

オオミズアオ
オオミズアオ
ウスバツバメ
ツマキシロナミシャク
イカリモンガ
ヒメヤママユ
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オオミズアオが死んでいました。[写真1]
腹部が空っぽになっています。
翅は傷んでいないので寿命という感じはしないのですが。

オオミズアオの名前は,翅の色「水青」からきています。
森の中にある深い湖の色を連想させますね。
[写真2]は翅がきれいな新鮮な個体です。(→2009年6月25日)

学名 Actias artemis aliena Bitler の種名artemisは,ギリシア神話の月の女神アルテミスからきています。
実際にオオミズアオが夜飛んでいるところを見たことはないのですが,夜空にゆらゆらと飛ぶ姿を想像すると,いかにも「月の女神」の名にふさわしいような気がします。

今の日本では,オオミズアオを見た人はほとんど,気持ち悪いというイメージをもつのではないでしょうか。
私も,オオミズアオのような大きなガを手のひらにのせるのは躊躇してしまいます。
日本人には,ガだというだけで不気味さを感じてしまう感性が身にしみついているようです。

他の国ではどうなのでしょうか。
日本と西洋とのガに対する感じ方の違いについて,奥本大三郎氏は平凡社『世界大百科事典』(2007年)の「蛾」の項目で,次のように書いています。

ローマの作家アプレイウスの《黄金のろば》には,エロス(クピド,アモル)に恋する美少女プシュケーの物語がある。炎の中にみずから飛び入って身を焼く蛾の不可解な行動は,古代・中世の人々に,火による浄化と転生の観念を与えたが,エロスに激しく恋する少女プシュケーの像も,蝶蛾の翅を背に生やした姿で表され,蛾になぞらえられている。このように西洋では,蛾が蝶と厳密には区別されず,マイナスイメージばかりではないのに対して,両者を峻別し,蝶の美をたたえる反面,蛾を忌み嫌う日本人の潔癖性は,世界の民族の中でも際だっているといえるであろう。

米国ではオオミズアオの普通名をLuna Moth というそうです。
「Luna Moth」で検索して米国のサイトを色々とのぞいてみたのですが,米国人がLuna Mothをどう感じているのかをつかむことはできませんでした。

Wikipediaの「チョウ目」の解説には,日本でチョウとガを厳密に区別し,ガを忌み嫌うようになったのは,明治以降だという説が載っています。

日本語では,ハエ,ハチ,バッタ,トンボ,セミなど,多くの虫の名称が大和言葉,すなわち固有語である。しかし,この蝶と蛾に関しては漢語である。蝶,蛾もかつては,かはひらこ,ひひる,ひむしなどと大和言葉で呼ばれていた。その際,蝶と蛾は名称の上でも,概念の上でも区別されていなかった。しかし上記のごとく英語圏からの博物学の導入に伴って蝶と,蛾の区別を明確に取り入れたため,両者を区別しない,かはひらこなどの大和言葉はむしろ不都合であった。そこで漢語の蝶,蛾にその意味を当てたわけだが,それも上記のとおり,本来の字義とは異なっている。

ソシュールは,言葉が存在して初めて概念や事物が誕生する,と言っています。言葉が,境界のない連続的現実世界を切り取る事により,概念の輪郭や種の形が作り上げられるからというわけです
明治になって「蝶」と「蛾」という言葉の輪郭が与えられたことにより,それ以降の日本人のガに対する深層心理が形作られていくことになったいえそうです。
ある意味,言葉というのは恐ろしいですね。

[写真3]から[写真6]は,私がこれまで写した写真の中から,美しいと思うガを選んだものです。
[写真3]はウスバツバメ。(→2005年10月2日)
[写真4]はツマキシロナミシャク。(→2009年6月8日)
[写真5]はイカリモンガ。(→2006年5月6日)
[写真6]はヒメヤママユ。(→2009年11月11日)

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2010年08月15日(日)

ニホンイシガメ

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水路のイシガメ
2010年8月11日
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イシガメの特徴
2010年8月11日
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イシガメの年輪
2008年7月19日
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イシガメの背甲
2008年7月19日
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イシガメの腹甲
2008年7月19日
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イシガメの背甲後緑背甲の後緑
2008年7月19日

ニホンイシガメ
ニホンイシガメ
ニホンイシガメ
ニホンイシガメ
ニホンイシガメ
ニホンイシガメ
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水路をカメが歩いていました。[写真1][写真2]

背中の中央に隆条(盛り上がった部分)が1本あり,甲羅の後ろがギザギザ,手足にオレンジ色の線があることからニホンイシガメのようです。[写真2]

[写真3]~[写真6]は,2008年7月に写したニホンイシガメです。

平凡社『日本動物大百科 第5巻』(1996年)には,ニホンイシガメの特徴について次のように書いてありました。

甲はやや偏平で,幼体は背甲に3本の隆条をもつが,成体では中央に不明瞭な1本が残るのみ。背甲の後縁は鋸歯状だが,年をとると目立たない。背甲は赤か黄色みをおびた褐色で,腹甲は黒色または黒褐色。頭部はやや小型で,背面は黄褐色,側頭部やのどには不明瞭で不規則な暗色の模様がある。オスの尾はメスにくらべて長く,付け根の部分が太い。尾を後部に伸ばすと,オスの場合は総排出腔全体が背甲の後緑より外側,メスでは総排出腔の一部は内側。

・甲羅は「やや扁平」。どの程度が「やや扁平」なのかは比較しないとわかりませんが,クサガメも「やや扁平」,スッポンは「非常に扁平」と記載してありました。外来種のミシシッピアカミミガメは「ゆるやかなドーム状」。

・成体の甲羅には,中央に不明瞭な隆条が1本ある。クサガメには発達した隆条が3本あります。

・甲羅の後縁は鋸歯状でギザギザになっているが,年をとると目立たなくなる。
[写真6」甲羅の後縁はギザギザになっています。
このカメの年齢はいくつくらいだったのでしょうか。
イシガメの甲羅には成長に合わせて年輪が刻まれるので,10歳くらいまでなら年輪の数で年齢がわかるそうです。
[写真3]を見ると,確かに甲羅の1枚1枚に年輪があります。
この個体は10歳は超えているようですね。
[写真5]を見ると,腹側の甲羅にも年輪があります。

・背側の甲羅は,赤か黄色みをおびた褐色。[写真4]

・腹側の甲羅は,黒色または黒褐色。[写真5]

・頭部はやや小型で,背面は黄褐色,側頭部やのどには不明瞭で不規則な暗色の模様がある。[写真3]
頭部の先端はクサガメに比べると,とがった感じがします。

・雄は雌に比べて尾が長く,付け根の部分が太い。
これはカメのなかま一般的にいえることらしいです。
カメの尾には総排出孔といわれるものがあり,糞も尿も精子もここから排出されます。
雄は交尾時にはここからペニスを出しますが,普段は尾のなかにしまっています。
そのため,雄の尾は長く,付け根の部分が太くなっています。
また雄の総排出孔は甲羅の後ろ縁より外側に,雌は内側に位置しています。

カメの雄雌の決定は,産卵場所の温度によって決定され,温度が高ければ全部が雌に,低ければ全部が雄になるそうです。
前書には次のように書いてありました。

一般に脊椎動物の性は性染色体によって受精の段階で決定される。しかし,ワニと大部分のカメは,胚発生の時期の温度環境によっで性が決定されることが1970年代の後半から80年代にかけて明らかにされ,一般にTSD(Thermal dependance of Sex Determination)として知られるようになった。性比,つまりメスとオスの比率はその種の個体群維持に重要な要素であるにもかかわらず,温度のように変化しやすい条件で決定されることの適応的意義が考えにくく,しかもそれが四足動物で発見されたため,非常な関心を呼び,現在でも活発に研究されている。

日本の渥美半島では,冷夏といわれた1993年にふ化した幼体はすべてオス,逆に猛暑の夏といわれた94年にはすべてメスが生まれ,また, 91年はメスの率が10%から67%のあいだで砂中温度とともに変動したことが報告されている。

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2010年08月24日(火)

ヤブガラシ

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ヤブガラシの花
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ヤブガラシのつぼみ
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雄性期の花
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雌性期の花
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果実
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2倍体の葉

ヤブガラシ
ヤブガラシ
ヤブガラシ
ヤブガラシ
ヤブガラシ
ヤブガラシ
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ヤブガラシの花が咲いています。[写真1]

ヤブガラシは「藪枯らし」で,藪を枯らすほど繁茂することからきています。
別名を「貧乏蔓(ビンボウカズラ)」といい,『牧野新日本植物図鑑』によると,「他の植物の上に繁って山林を枯らし,そのために家が貧乏となるという意味」とあります。

ヤブガラシの花には一見花びらがないように見えますが,よく見ると花びらをつけているものもあります。
開花直後の花には4枚の花弁と4本の雄しべがあるのです。[写真3]
[写真3]の花弁は反り返っていますが,開花直後の花弁は横に開いており,次第に内側に反り返ってゆきます。
雌しべは小さく,雌としての生理機能はありません。
花盤(かばん)はオレンジ色をしており,蜜を盛んに分泌しています。

開花から3~4時間すると花弁と雄しべは脱落します。
同時に雌しべが次第に長く伸びはじめ,雌としての機能をもつようになります。
花盤の色もピンクに変わります。[写真4]

雌しべだけの花になっても,蜜の分泌は盛んで,露出した花盤からあふれるように盛り上がっています。
蜜は常時分泌されているわけではなく,時間帯によって分泌量に変化があるそうです。
北隆館『フィールドウオッチング4』(1991年)には,次のように書いてありました。

 ヤブガラシの花に網をかけて昆虫が訪花できないようにしておくと,花当りの蜜量は11時と15時に明確なピークを示し,タ方や早朝や13時頃にはほとんど蜜がない。これは,蜜分泌が7~11時と13~15時に限られ,それ以外の時間帯には,花上の蜜を花自身が再吸収するためと考えられる。
 自然な訪花がある時にも同様に8~11時と15時頃に蜜が多く,タ方や早朝や13時頃には蜜が少ない。送粉者であるニホンミツバチは蜜が多い時間帯に多く訪花するが,送粉にはまったく寄与しないアリ類は蜜の少ない夕方や早朝に多い。

[写真5]は,受粉し子房が膨らんだ,ヤブガラシの果実です。
熟すると黒色になります。

関東のヤブガラシはほとんどが実をつけないそうです。
九条山のヤブガラシは実をつけている株が結構あります。
実をつけないのは3倍体だからで,実をつけるのは2倍体です。

ヤブガラシに2倍体と3倍体があるのがわかったのは2003年のことであり,これほどありふれた植物でありながら,倍数性の多型があることにそれまで誰も気づかなかったようです。
基礎生物学研究所のサイトに次のように書いてありました。

 私たちの調査によれば、2倍体は中部以西の、古くから環境の変化の少ないところに生き残っている傾向があり、岡崎構内やその周辺の他でも、市内では随所で、また近くでは瀬戸の海上の森、渥美半島、三河一宮などで見つかっています。一方3倍体は、都市部を中心に、植え込みと共に広がっているようです。東日本ではめったに見ることができません。ヤブガラシに実が付かない理由として、従来、夏の気温が低すぎるのだろうとか、他の花の花粉がつかないといけないのだ、などという説もありました。が、これらは間違いだったのです。3倍体のヤブガラシは、染色体が奇数セットなので、種なしスイカと同様、不稔となっているのでした。

[写真6]は結実している株(2倍体)の葉です。
5小葉の葉のほかに,3小葉,4小葉の葉が混じっています。
3倍体の葉は鳥足状の掌状複葉で,すべて5小葉です。

3倍体植物の話題が出るたびに不思議に思うことがあります。
種ができないはずの3倍体植物が,どうしてこんなに分布を拡げることができるのかということです。
ヒガンバナ,シャガ,オニユリ,ヤブカンゾウなどといった全国的によく見かける普通種も3倍体です。
ヤブガラシにしても,2倍体よりは3倍体の方が分布域が広く,2倍体は3倍体の勢いに追いやられているように見えます。
食用とするため人為的に栽培されたということもあるかもしれませんが,ヤブガラシはどうでしょうか。
若芽はゆでて和え物にするそうですが。

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2010年08月31日(火)

ダイコンソウ

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ダイコンソウ
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ダイコンソウの花
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ダイコンソウの花断面
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ダイコンソウの実断面
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花柱先端部分
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ダイコンソウの根生葉

ダイコンソウ
ダイコンソウ
ダイコンソウ
ダイコンソウ
ダイコンソウ
ダイコンソウ
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道のわきに黄色い花が咲いていました。[写真1]
キツネノボタンだとばかり思っていましたが,ダイコンソウの花でした。

この場所では初めて見るような気がします。
あたりを見ても花が咲いているのはこの株だけで,他に見当たりません。

ダイコンソウの実はいわゆるひっつき虫で,かぎ状の突起で人や動物の体にくっついて運ばれます。
誰かが落した種が芽を出したのかもしれません。

なぜダイコンソウという名がつけられているのか,花が咲いている姿をよく見てもわかりません。
花は全く似ていないですし,茎についている葉も,大根の葉とは似ても似つきません。
太い大根のような根があるわけでもありません。
ひょっとして,キュウリグサのように葉をもむと大根の臭いがするとか……。

ダイコンソウの名は,根元に生えている根生葉(こんせいよう)が大根の葉に似ていることからきているそうです。
根元にロゼット状の若い株があったので抜いて,根生葉を確認してみました。[写真6]
どうでしょうか,似ているでしょうか。
ラディッシュの葉に似ているような気もします。

『朝日百科 植物の世界』(1997年)には,ダイコンソウについて次のように書いてありました。

 根生葉(こんせいよう)の形がダイコンの葉に似ているので,「大根草」と書かれる。北海道中・北部と南西諸島を除く,日本各地の山地の林縁や疎林に見られる。利尿,消炎,収赦薬として利用する。
 ダイコンソウGeum japonicum は, 5~6月に直径2センチ前後の黄色い花を咲かせる多年草。高さは30~50センチ。花柱(かちゅう)は子房に頂生し,中央部分は鈎状に曲がり,その先端に関節状に上部花柱がつく。受粉後,下部の花柱が伸びる。子房には剛毛が密生する。果期には,上部花柱は落ち,下部花柱の先端が曲がるので,動物にくっついて果実が散布される。

花柱は,花が咲いた当初は,「中央部分は鈎状に曲がり,その先端に関節状に上部花柱がつく」とあります。
[写真3]の花の断面を見ると,雌しべがS字状に曲っているのがわかります。

受粉後は,「下部の花柱が伸びる」ので,実に棘が生えたように見えます。[写真4]
先端部を拡大してみると,S字状に曲った先に毛の生えた部分があります。[写真5]
この部分が「上部花柱」で,実が熟すると脱落,下部花柱先端の曲った部分だけが残り,ひっつき虫の完成という仕組みになっているようです。

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連続写真

連続写真による観察記録

  • 目次
    • キアゲハの蛹化
    • キアゲハの羽化
    • アオスジアゲハ羽化
    • テングチョウ羽化
    • アカタテハの羽化
    • クマゼミの羽化
    • アブラゼミの羽化
    • オトシブミ揺籃