塀にハラビロカマキリがとまっていました。[写真1]
どことなく全体的にくすんだ感じがします。
カメラを近づけても,鎌を振り上げて威嚇してくることもなく,元気がありません。
秋も深まり,寿命間近なのかなと思っていました。
採って帰り,ケースにいれていると,時々ひきつけを起こしたように,裏返って足をバタつかせています。
変だなと思っていましたが,原因がわかりました。
冷凍室へ10分ほど入れていたところ,お尻からハリガネムシがでていました。
両者とも,カチカチに凍っています。[写真2]
ハリガネムシがどこから外に出ているのか,恐るおそる翅をめくって確認してみました。
[写真3]を見ると,ハリガネムシが出てきている部分は,肛門ではないようです。
ハリガネムシの一部は,まだハラビロカマキリ体内に残っているようなので,ピンセットでつかんで引っ張ってみました。
するとズルズルと,引っ張っても,引っ張っても出てきます。
結局,同じくらいの長さが,体のなかに残っていました。
もっと驚いたのは,ハラビロカマキリのお腹に残っていた部分は,まだ生きていたということです。
体の半分だけが,うねうねと体を揺らしています。
全体の長さを測ってみると,15cmありました。[写真6]
3cm余りのハラビロカマキリの腹部にどんな風にして入っていたのでしょうか。
想像したくもないですが。
平凡社『世界大百科事典』(2005年)には,ハリガネムシについて次のように書いてありました。
線形虫網Nemaromorphaに属する袋形(たいけい)動物の総称。体が針金のように細長く,体表のクチクラがかなり硬いところからこの名がある。淡水中で自由生活する。体長は,ふつう10~40cmであるが,1mほどになるものもあり,体色も白色,黄色,暗褐色など, いろいろである。体の前端はまるくて中央に口が開き,後端はまるいか2~5葉に分岐する。消化管は体の腹側を縦走するが,成体になって成熟してくると管のところどころが退化して閉ざされ,食物をとることはできなくなる。循環系,呼吸器,排出器はない。雌雄異体で,交尾して産卵する。水中で孵化(ふか)した体長50μmほどの幼虫が,ユスリカやフタバカゲロウなどの幼虫が吸水するときに侵入して成長し,中腸壁の外側でシスト化する。これらの昆虫が羽化してカマキリ,キリギリス,ゲンゴロウなどの昆虫に食べられると,宿主内で成長して成体となり,宿主の肛門近くの体節の間に孔をあけ,水中にでて自由生活する。
「宿主の肛門近くの体節の間に孔をあけ」と書いてあります。
ハリガネムシはエイリアンのように,腹を食い破ってでてくるのです。
人間の寄生虫でなくてよかったですね。
フユノハナワラビ。
茎の先にたくさん種がついているように見えますが,フユノハナワラビはシダ植物なので,種はできません。
種のように見える粒々は胞子嚢で,中には胞子がたくさん詰まっています。
[写真5]は,胞子嚢をピンセットでつぶしたところ。
胞子嚢から,胞子があふれ出しています。
[写真6]は,胞子の顕微鏡写真です。
『牧野新日本植物図鑑』(1970年)には,フユノハナワラビについて次のように書いてありました。
低山の原野,平野の草原等に自生する多年生草本,地上部は9月~翌年3月まであるが夏は枯れる。全体にほとんど毛がなく葉質は少し厚い。根茎は短かく直立し,多肉質の太い根を出し,頂から毎年1本の葉柄を出す。葉は直立し,高さ30~40cm,葉柄は基部から二つに分枝し,一つは裸葉,すなわち栄養葉となり,他の一つは実葉,すなわち胞子葉となる。裸葉は外形三角状または五角状。 2~3回羽状に分裂し,羽片は最下のものが長い柄をもち,最も大形で長三角形をなし,他の羽片は無柄で皮針形,全体として3出羽片のようである。小羽片は長卵形あるいは卵形,羽片外側の最小羽片は他のものより大きい。裂片は幅2~3mm,楕円状あるいは卵形,円頭浅い鈍きょ歯をもつ。羽片・小羽片の頂片は円頭または鈍頭。葉は緑色であるが,直射日光を受けるか,水分が不足すると赤褐色になる。胞子葉は葉柄の先の方が穂状に分枝して小枝の先に多数の黄色で粟粒状の胞子嚢を群生する。
フユノハナワラビについての,過去記事。
→2009年12月1日
→2002年11月23日
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家の周りに生えているコバノガマズミに,赤い実がなっています。[写真1]
例年はまばらな,少し貧相な実のつき方なのですが,今年は実つきがよいようです。
コバノガマズミは「小葉の」ガマズミで,ガマズミより幅が狭く,小さな葉が特徴です。
ガマズミとの相違点 → 2009年4月30日
実は甘酸っぱく,食べることができます。
懐かしい味がしますが,今どきの子供は食べないと思います。
実の中には,核が1個あります。[写真3]
核のなかに種子が入っています。[写真4]
ガマズミの枝は昔から,蔓のように物を束ねるのに使われていたようです。
平凡社『世界大百科事典』(2005年)には,次のように書いてありました。
枝は柔軟性があり,しかも強靭で折れにくいため,道具類の柄にする。また枝をねじって薪をたばねるのに使ったり,かんじきの材料とする。魔よけになるとして杖にする地方もある。
『朝日百科 植物の世界』(1997年)にも,次のように書いてありました。
日本人は昔からガマズミの枝を,何かを束ねるときに利用してきた。『本草綱目啓蒙(ほんぞうもうもくけいもう)」(小野蘭山著,1803年)には「木皮靭ニシテ折レ難シ,故ニー名子ソト云,子ソハ薪ヲ縛スル藤蔓ノ事ナリ,此木柔靭ニシテ,其代リニ用フベシ,因テ名ク」と記されている。山仕事に手慣れた者は,ガマズミをあらかじめ見つけておいて,それをたくみに縒って縄を作り,刈柴を手ぎわよくまとめていく。人びとは,生活の知恵として,その枝の柔らかくてしかも折れにくい特徴を見抜いていたのであろう。
本当に枝が折れにくいのか,コバノガマズミで試してみました。
枝に少しずつ力を加えると,折れずに曲がり,丸く束ねると,リースのようになりました。[写真5]
これは本当に物を束ねるのに使えそうです。
[写真6]は,今年5月に咲いていた花の様子。
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最近よく,サワガニが道を歩いていたり,つぶされている姿を見かけるので,季節的なものなのかなと思っていたのですが,そうではないようです。
サワガニは普段は夜,活動していますが,雨の日には日中に川から離れて出歩くことがあるそうです。
そういえばこのところ夜中に雨が降ることが多いので,雨の降っている夜中に動きまわっていたサワガニが,朝まだ路上に残っていたということのようです。
雨が降っているときは散歩をしないので気付きませんが,雨の日にはもっとたくさんのサワガニが歩き回っているのでしょう。
平凡社『世界大百科事典』(2005年)には,サワガニについて次のように書いてありました。
谷川の清流にすむ甲殻綱サワガ二科のカニで,日本固有種。本州,四国,九州に生息する唯一の純淡水産のカニで,南限は屋久島である。近年ではペットとしても人気があるほか,空揚げにしたり甘辛く煮て食用とされる。生息場所によって色彩は必ずしも一定していないが,濃紫褐色,茶褐色,淡青色が基本3型とされる。これらの色彩型の一般的な分布には地域性が認められることが多いが,分類学的には同種として扱われている。甲幅2.5cmほどの丸みのある四角形で,甲の前側縁がやや張り出し,鰓室(さいしつ)の容量が大きい。眼窩(がんか),外歯こ続いて甲の前側縁に小さな切れ込みがある。はさみ脚は雄では左右で大きさが異なり,右側が大きい個体が多い。雄でははさみの両方の指を合わせたときに広い隙間ができるが,雌と小型の雄では両指はかみ合う。卵は直径3~4mmと大きく,すべての幼生期を卵内で過ごしてから稚ガ二として孵化(ふか)する。海のカニが数万~数十万の卵を産み,ゾエア,メガロパという幼生期をもつのとは対照的で,幼生をもつ間接発生から幼生をもたない直接発生へという繁殖型の変化は,エビ類におけるザリガニ類と同様に淡水生活への明らかな適応である。
「生息場所によって色彩は必ずしも一定していないが,濃紫褐色,茶褐色,淡青色が基本3型とされる。」とあります。
Googleで画像検索しても,色々な体色をしたサワガニがいます。
[写真3][写真4]は,サワガニの表裏面をスキャンしたもの。
左足が1本とれています。
とれた足は脱皮の際に再生するようです。
脱皮する生き物は,足がとれても,脱皮の際に再生するものが多いですね。
はさみ脚は右側の方が大きくなっています。
「はさみ脚は雄では左右で大きさが異なり,右側が大きい個体が多い」ので,この個体は雄です。
[写真2]の個体は,左右のはさみ脚が同じ大きさなので,雌でしょうか。
サワガニは淡水生活に適応した独特の進化をとげているようです。
海のカニは,孵化すると1mmほどの大きさの,親ガニとはまったく違う形をした幼生となって海を漂いますが,サワガニは卵から孵化したときには,親ガニと同じ形をした稚ガニです。
海の水の量に比べると,サワガニが生息している川の水はごくわずかなものです。
海と同じように幼生の段階を経ることは無理ですよね。
だから「幼生期を卵内で過ごしてから稚ガ二として孵化する」ようになった種が生き残り,河をさかのぼり,小さな沢にたどりついて繁栄している,ということでしょうか。
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ケンポナシの樹下に,果実をつけた小枝がたくさん落ちていました。[写真1]
ひろいあげると,甘い匂いがします。
森のなかであれば,きっとタヌキやテンといった動物を惹きつけていることでしょう。
この甘い匂いは,果実ではなく,果実を付けている枝(花柄)の部分から発しています。
[写真4]は,肉厚になった花柄を縦に切ったところ。
かじってみると,干しブドウやなつめといったドライフルーツ系の味がします。
平凡社『世界大百科事典』(2005年)には,ケンポナシについて次のように書いてありました。
丸い大きな葉をもつクロウメモドキ科の落葉高木。晩秋に花序の先端部がふくれて肉質になり,果実とともに落ちる。これは甘くて食べられる。ケンポナシはテンポナシ(手棒梨)がなまったもので,ふくれた花序の柄に由来するという。
果実はほぼ球形で,革質の果皮に包まれ,中に光沢のある平たい3種子がある。北海道(奥尻島),本州,四国,九州,朝鮮,中国に分布する。本州,四国ではケケンポナシ H. tumentella Nakaiが普通で,果実に毛があり,葉もやや厚い。ケンポナシは果柄が子どもや野生動物の食用となり,時には売られることもある。また果柄や果実には利尿作用があり,漢方薬や民間薬として利用される。
「ケンポナシは果柄が子どもや野生動物の食用となり,時には売られることもある。」そうですが,フルーツとしてたくさん食べるものでもないので,売られているのは果実酒や民間薬用でしょうか。
「本州,四国ではケケンポナシが普通」で,本種も正確には「ケ(毛)ケンポナシ」です。
[写真3]では,果実の毛はわかりにくいですが,8月に撮った[写真6]を見ると,果実に毛が生えている様子がよくわかります。
「果実はほぼ球形で,革質の果皮に包まれ,中に光沢のある平たい3種子」があります。
[写真5]は,果実から取り出した3個の種子。
4~5mmの大きさで,堅くて,表面はつるつるしていています。
ケンポナシは,果実が動物に食べられ,糞と一緒に未消化の種子が排出されることによって種子を散布する,被食散布型の植物です。
小さくて,堅くて,つるつるした種子は,いかにも消化不良をおこしそうですね。
くねくねと曲がった太い花柄に,果実がひと固まりとなるようにからまっている,奇妙な形も,動物に甘い花柄と一緒に種子も飲み込んでもらう工夫なのでしょう。
人が果実を味わう時,実際に食べている部分は,例えばカキは中果皮,ミカンは内果皮,偽果であるナシ,リンゴは花床部と様々ですが,枝の部分が変化して果実の役割をするというのはかなり変わっています。
他にそんな例はないだろうと思っていましたが,意外なことにイチジクも,枝が変化して果実の役割をしているそうです。
小林正明著『花からたねへ』(2007年)には,次のように書いてありました。
花を支える枝が変化して,果実の役割をするようになった種類がある。この役割をする種類にはケンポナシ型とイチジク型の2つがある(図)。枝が果実の役割をするという意味では,花托が変化するノイバラなどや,さらに子房下位の仲間もこれに近い。
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