• ナガサキアゲハ
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    (2012年5月9日)
    [写真1]ナガサキアゲハ♂
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    (2012年5月9日)
    [写真2]♂裏面
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    (2012年5月9日)
    [写真3]♂表面
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    (2006年8月6日)
    [写真4]♀表面
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    [写真5]♂翅表裏
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    [写真6]♀翅表裏

黒いチョウが,飛び立てずに,翅をばたつかせていました。[写真1]
翅の上端が折れ曲がっているように見えます。
羽化に失敗したのかなと,手に取って調べてみると,折れ曲がっているのではなく,翅の一部が欠けています。([写真2]は裏面,[写真3]は表面)
飛べないほどの欠損ではありません。

アゲハのなかまで,後翅に尾がなく,翅表が黒一色なのはナガサキアゲハの雄です。
ナガサキアゲハは年に3回ほど発生し,第1化は越冬した蛹が,4月下旬から5月上旬に羽化します。
学習研究社『日本産蝶類標準図鑑』(2006年)には,ナガサキアゲハの発生時期について次のように書いてありました。

九州北部ではふつう年3回の発生で,越冬蛹より羽化した春型(第1化)は4月下旬~5月上旬より,第2化(夏型)は6月下旬~7月上旬より,第3化(夏型)は8月中~下旬より発生する。また10~11月にも散発的な個体の見られることがあるが,これは部分的な第4化をあらわしているものと推定される。

[写真3]は今回の個体(♂)の表面,[写真4]は♀の表面。
[写真5]は今回の個体(♂)の翅の表裏,[写真6]は♀の翅の表裏。

雄の翅表は,全体が黒色で,後翅外半分に青藍色の鱗粉が散布しています。
雌の翅表は,全体に地色が淡く,前翅中室の基部に赤褐色の斑,後翅に白斑があります。
翅裏は,雄雌とも前翅,後翅の基部に赤斑があります。

ナガサキアゲハの分布域は時代とともに北上し続けており,地球温暖化現象の一つとして語られています。
図鑑に記されている分布状況を見てみると,次のように変遷しています。

1956年(昭和31年)北隆館『日本昆虫図鑑』

九州及び四国では平地より浅い山地にかけて比較的普通であるが,本州では極めて稀で山口県及び和歌山県で稀に採取される。

1982年(昭和57年)保育社『原色日本蝶類生態図鑑(1)』

九州では少なくとも明治時代にはかなり普遍的に分布していたらしい。分布の北上はおもに採集・目撃記録の急増という形でとらえられるが,それは1930年代に入って山口県や愛媛県で,1950年までには広島県,徳島県で,1960年代には淡路島,1970年代には岡山県で認められ,1980年には大阪府や和歌山県まで北上した。1982年春現在の兵庫県・大阪府付近における確実な定着地は西宮市・尼崎市で,大阪府豊能町初谷(山間部)でも何頭か記録されているが,まだ数は少ない。昭和初期(1930年代)の分散は一挙に栽培面積がふえたミカン類におうところが大きいと思われる面もあるが,最近の分布拡大はそれよりも蝶自体に問題があるとみられる。

2006年(平成18年)学習研究社『日本産蝶類標準図鑑』

九州では全県の平地から低い山地帯にかけてふつうで,四国南半でも同じである。中国地方では山口・広島県にまれではなく,また岡山・島根・鳥取県でも得られている。本種は近年の北進が目立つチョウである。1985年頃から近畿地方で記録が増えはじめた。岐阜県では1990年に養老町で最初に記録された。愛知県では1992年の記録が最初,現在では南部に定着していると思われる。福井県では1993年に三方町で最初に記録され,現在では定着したものと考えられる。静岡県では1997年に記録が出始めた。神奈川県では1997年には神奈川県茅ヶ崎市で1♂が記録されたのをはじめとして(横浜市1985年1♂の記録があるが,恐らく人為的移入で自然の迷チョウではないと思われる),現在まで記録が多数あり,現在三浦半島では一番見かけるアゲハ類になったという。東京都内や伊豆諸島でも複数の記録があり,さらに山梨県,埼玉県,茨城県,栃木県,群馬県でも記録されている。また長野県でも南部を中心に,松本市付近でも幼虫が見つかっている。

それにしても,3.11以降,地球温暖化についての関心が急速に薄れていますね。
それどころか最近は,太陽活動の休止期に入り,17世紀以来の小氷期になるのではないかと心配されています。
気温が下がってゆけば,ナガサキアゲハの分布域もまた南下してゆくのでしょうか。