南禅寺の石畳にヘビトンボがとまっていました。[写真1][写真2]
かなり弱っているのか,動かずにじっとしています。
首の長い姿は,やはりどこか不気味ですね。

ヘビトンボの名は,その姿と名前の響きで一度聞くと忘れられません。
ウスバカゲロウに近いなかまですが,前胸が少し長いだけで,ずいぶん印象が変わります。

トンボの名が付いているのは長い透明な翅があるからでしょう。
しかし,翅をたたんでとまっている姿をみれば,トンボの仲間ではないのはすぐ分かります。
トンボは,かなり原始的な昆虫で,翅をたたむことができません。
また,トンボが不完全変態なのに対して,ヘビトンボが完全変態をすることからも,トンボよりはかなり進化した仲間だということがわかります。(「最も原始的な完全変態類」とされいるそうですが)

ヘビトンボやウスバカゲロウなどのなかまは,脈翅類に分類されます。
脈翅類とは脈のある翅を持つなかまを言いますが,トンボをはじめ他にもたくさん脈のある翅をもつ虫がいるのに,これらは脈翅類に含まれていません。
脈翅類はへビトンボ類やラクダムシ類などを含むだけの小さな分類群になっています。
その辺の事情について,平凡社『日本動物大百科 第9巻 昆虫Ⅱ』(1997年)には次のように書いてありました。

1758年に,リンネは多数の翅脈をもつ一連の昆虫に対してNeuroptera (脈翅目)という名称をつけた。研究が進むと,これは互いに関係がまったくないようなさまざまなグループの昆虫をひとまとめにした分類群であることがわかり,カゲロウ類,トンボ類,カワゲラ類,シリアグムシ類,トビケラ類などは別の目(もく)として除かれ,ここで扱われている仲間だけが脈翅目として残ることになった。このグループは,大別するとへビトンボ類(広翅亜目),ラクダムシ類(ラクダムシ亜目),およびこれら以外の,狭い意味での脈翅類(扁翅亜目または脈翅亜目)からなるが,近年ではこの3つの亜目も広翅目,ラクダムシ目,扁翅目(すなわち狭い意味の脈翅目)というように独立の目として, 3つを合わせて脈翅上目として扱う見解が有力である。いずれにしてもこの3つの仲間からなる脈翅類は,共通の祖先に由来するまとまった分類群であると見なされている。

ヘビトンボについて,北隆館『日本昆虫図鑑』(1956年)には次のように書いてありました。(原文は旧字体)

体黄色乃至暗黄,頭部扁平,大きく,後頭の両側に大小4個の黒褐紋がある。単眼やや大で基部黒色,触角はやや連鎖状で前翅長の約1/3,黒色であるが基部2節は暗黄。前胸やや長く,両側に近く太い黒褐縦条を走らしている。脚黄色,脛節の先半及び跗節暗褐。翅は透明であるが微かに暗灰色を帯び,前翅に6-7個,後翅に3個の判然しない大小の円形黄色紋がある。脈は翅の基方並に斑紋上にある部分の黄色を除き暗褐。縁紋部はやや濃色。体長35-45mm,翅開張90-115mm。脈翅目中の大型種。北海道・本州・四国・九州・朝鮮・台湾に分布する普通種で,成虫は6-8月に亙り出現する。わが国において本州の幼虫を俗に,孫太郎虫と称し,小児の疳の妙薬として販売されている。

[写真4][写真5]に上記の特徴を記入してみました。

ヘビトンボには単眼が3個あり,脚の跗節の第4節は通常の円筒形です。[写真6]
これらの特徴は,同じヘビトンボ目に属するヘビトンボ科とセンブリ科を分ける特徴のようです。
センブリ科は単眼を欠き,跗節第4節は2裂している。