ニュースでロウバイの花が見頃を迎えていると言っていました。近所のソシンロウバイの様子を見に行ってみると,咲いているのは4~5輪で,まだほとんど蕾でした。この木の見頃はまだ先のようです。

ソシンロウバイ
ソシンロウバイ[ in南禅寺福地町 on2023/1/12 ]
ソシンロウバイ
ソシンロウバイ[ in南禅寺福地町 on2023/1/12 ]

ロウバイの種類のなかで花全体が黄色いものをソシンロウバイといいます。「ソシン」は「素心」で,花の中心が赤くなっていない,中「心」が「素」であるという意味です。ロウバイで画像検索すると,出てくる写真はほとんどがソシンロウバイでした。ソシンロウバイの方が見栄えがよいのか,庭木にされるのはほとんどソシンロウバイのようです。
『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,ロウバイについて次のように書いてありました。

765. ろうばい(からうめ) 〔ろうばい科〕
Meratia praecox Rehd. et Wils.
( =calycanthus praecox L.; Chimonanthus praecox K. Koch)
本種は後水尾天皇(1611-1629)の時代にはじめて朝鮮から渡って来たもので,支那原産の落葉低木である。観賞花木として普通,人家に植えられている。高さは2~4mぐらい,幹は叢生して分枝する。葉は有柄,対生し,卵形,先端は鋭尖形,全縁,長さ15cm内外,葉質はやや薄くて硬く,葉面はざらつき,羽状脈がある。1~2月頃,葉がのびるよりも先によい香りの花を開き,それぞれの枝の節に密接下向してつき,花径は約2cm前後である。花被は多数で小形の内層片は暗紫色,大形の中層片は黄色で薄くやや光沢があり,下層片は多数の細鱗片となる。おしべは5~6個,やくは外向きである。めしべは多数で,つぼ状の花托の内にあり,花托のふちには不発育のおしべがある。子房は1室で,中に胚珠が1個あり,柱頭は分岐しない。花がすむと,花托は成長増大し,長卵形の偽果となり,内部に1~4個の深紫褐色,長楕円形のそう果がある。種子は無胚乳,子葉は葉状で巻いている。この種の中で花弁が広く,花の姿の美しいものをダンコウバイ(var. grandiflora Rehd. et Wils.)漢名,檀香梅といい,花弁が普通品(var. typica Makino)よりやや広くダンコウバイよりせまいのをカカバイ(var. intermedia Makino)漢名,荷花梅といい,花全体が黄色のものをソシンロウバイ(var. lutea Makino)漢名,素心蠟梅という。〔日本名〕漢名の蠟梅(臘梅は不可)の音よみで,古名の唐梅は支那から来た梅の意味である。

この解説に出てくる「ダンコウバイ」は現在は「トウロウバイ」と言われています。現在「ダンコウバイ」と言われているものはクスノキ科の別種のものをさします。
花の名前には「〇〇バイ」とウメの花にたとえるものが多くあります。どこがウメの花に似ているのか分からないものも多いなかで,ロウバイは花自体はウメの花に似ていないものの,細い枝に花柄のない花が下向きに咲いている姿はどことなくウメの花に似た風情を感じさせます。

蕾を切ってみると,雄しべが雌しべの周りを取り囲んでいます。

ソシンロウバイ(蕾)
ソシンロウバイ(蕾)[ in南禅寺福地町 on2023/1/12 ]
ソシンロウバイ(蕾断面)
ソシンロウバイ(蕾断面)[ in南禅寺福地町 on2023/1/12 ]

開花するにつれ雄しべは水平に倒れ,中心の雌しべが露出します。雄しべの葯は外向きに付いているので,水平になると下向きになっています。

ソシンロウバイ(花雌性期)
ソシンロウバイ(花雌性期)[ in南禅寺福地町 on2023/1/12 ]
ソシンロウバイ(花雌性期)
ソシンロウバイ(花雌性期)[ in南禅寺福地町 on2023/1/12 ]

雌しべが受粉すると,今度は雄しべが立ち上がり雌しべを取り囲んで受粉を阻止します。それから葯が裂開して花粉を散布します。葯は外向きに付いているので,内側の雌しべに花粉はつきません。

ソシンロウバイ(花雄性期)
ソシンロウバイ(花雄性期)[ in南禅寺福地町 on2023/1/12 ]
ソシンロウバイ(葯)
ソシンロウバイ(葯)[ in南禅寺福地町 on2023/1/12 ]

これが雌性先熟といわれる仕組みで,自家受粉を防ぐためといわれています。しかし同じ木の別の枝に成熟度が異なる花が咲いていたら,結局同じことではないかと思うのですが。その辺は,一斉に開花せずにポツポツと咲くことで調整しているのかもしれません。