ヌスビトハギの過去投稿を一つにまとめました。
2024年9月14日
ヌスビトハギの花が咲いていました。特徴的な形をした豆果も,既にいくつか付いています。
外来種のアレチヌスビトハギは日の当たる開けた場所に,あたりを覆いつくすように繁茂していますが,在来種のヌスビトハギは樹林地のやや日陰に,細々と生えているように感じます。
ヌスビトハギを植物図鑑で調べると,いつの間にか分類が随分ややこしいことになっていました。
『日本の野生植物』(2016年)によると
世界のヌスビトハギ属の中でヌスビトハギ類は単体雄蕊,有柄節果などの形態的差異が特徴である。1994年に梶田忠と大橋広好によってヌスビトハギ類DNAが解析されて,他のヌスビトハギ属と初期に分岐したことが明らかになった。2000年にヌスビトハギは別属と見なされ,「森に住むヌスビトハギ類」 の意味でHylodesmumと命名された。残るDesmodium は多くが草原や林縁などの陽地を好むことに対する命名であった。ヌスビトハギ属という和名はHylodesmumに移され,Desmodiumはシバハギ属とよばれている。
さらに従来のヌスビトハギはマルバヌスビトハギの亜種とされています。
さらに亜種ヌスビトハギは,狭義のヌスビトハギと変種ヤブハギに分けられています。
亜種ヌスビトハギ subsp. oxyphyllum (DC.) H. Ohashiet R. R. Mill; Desmodium oxyphyllum DC.; D.race-mosum DC. (PL.213) は,頂小葉が菱状卵形から卵形,鋭頭から鋭先頭,長さ (2.5-) 3-10(-12)cm,幅(1.5-)2-5(-7) cm。学名のoxyphyllum は1825年にネパールで採集された標本に命名されたが,マルバヌスビトハギに比べて小葉の先がとがることに基づいた命名であったと思われる。日本では2形が認められる。
狭義の (変種) ヌスビトハギvar. japonicum (Miq.) H.Ohashi; Desmodium podocarpum subsp. oxyphyllumvar. japonicum (Miq.) H. Ohashi は,平地から山地の草地,林縁,道ばたなどあまり人手の入らない日当りのよい場所に生えるふつうの多年草。染色体数 2n=22。北海道~九州・琉球(稀,南限は沖縄本島名護),朝鮮半島・台湾・中国・ヒマラヤ・ミャンマー・インドに分布する。白花品をシロバナヌスビトハギ f. albiflorum (Iwa-
ta) H. Ohashiという。
変種ヤブハギvar. mandshuri-cum (Maxim.) H. Ohashi et R. R. Mill; Desmodiumpodocarpum var. mandshuricum Maxim.; D. fallax var.mandshuricum (Maxim.) Nakai; D. racemosum var.mandshuricum (Maxim.) Ohwi; D. oxyphyllum var.mandshuricum (Maxim) H. Ohashi はヌスビトハギの一型で,より陰地を好み、平地から山地の林下に見られ,分布もより北方的である。染色体数2n=22。北海道~九州,朝鮮半島・中国(北部・東北部) 極東ロシア(ウスリー)に分布する。白花品もある。
ヌスビトハギとヤブハギの違いは,検索表では次のようになっていました。
c. 小葉は厚質,裏面は緑色で多毛,網状脈が目立つ。葉は茎全体に散生する。花はふつう紅紫色……(変種)ヌスビトハギ
c. 小葉は薄質,裏面は帯白色でほとんど無毛,網状脈はあまり目立たない。葉は4-6枚が茎の中央付近に集まってつく。花は白色で,先端に帯紅紫色……(変種) ヤブハギ
この個体の葉は「茎全体に散生」しているので,ヤブハギではなく(狭義の)ヌスビトハギだと思います。
小葉については,どちらの特徴を表しているのか判然としません。少なくとも裏面は多毛とはいいがたいと思いますが。(ならばヤブハギ?)
・小葉は3枚。小葉の側脈は縁に合流する
・頂小葉は中部よりも下方でもっとも幅が広い。
・托葉は早落性,基部の幅1mm以下
ヌスビトハギ属の花の特徴
萼は上部で5裂し,向軸側の2裂片は基部で合着し萼裂片は4個に見える。旗弁は倒卵形から広倒卵形,翼弁と竜骨弁はふつう一部で付着しており、 基部にはともに爪がある。竜骨弁は雄蕊と雌蕊とを包み,舷部の下部(背軸側)の縁で一部分が合着する。雄蕊は10個,全部の花糸が合着して単体雄蕊となる。花内蜜腺を欠く。雌蕊は1個で離生し,花柱は内曲し,先端に小型の柱頭をつける。
ヌスビトハギ属の豆果
豆果は扁平な節果で,有柄,かぎ毛があり,小節果をつなぐ節はいちじるしく細く節果の幅の1/3-1/4,熟しても裂開せず,小節果ごとに分離する。
マルバヌスビトハギの豆果
子房に短柄があり,のちに節果の柄となって長さ2-5mm。節果はふつう2-3個,ときに1個の小節果よりなる。
2022年9月7日
●ヌスビトハギに果実ができていました。牧野富太郎いわく「泥棒が室内に侵入する時,足音のしないように,足の裏の外側を使って歩くその足跡に,豆果の形が似ているというのでこの名がついた」。表面には細かなカギ状の毛が密生していて,服や動物の毛にくっつきます。
2022年8月8日
ヌスビトハギに花が咲いていました。外来種のアレチヌスビトハギが日向に咲くのと異なり日陰に咲き,花序の花も小さくまばらなので見栄えがしません。葉は3出複葉。すぐ近くの日のあたる場所にはアレチヌスビトハギが群生しています。
2011年1月11日
[写真1]左:ヌスビトハギの種子
右:アレチヌスビトハギの種子
[写真2]左:ヌスビトハギの種子
右:アレチヌスビトハギの種子
[写真3]種子を横から見たところ
[写真4]アレチヌスビトハギ
[写真5]果実表面の突起
[写真6]上:アレチヌスビトハギの果実
下:ヌスビトハギの果実
さすがに今の時期になると,ヌスビトハギの果実もまばらに残っているだけです。
メガネのように中央でくびれた果実は二つに切れて,片方だけになっています。
服についていた果実の果皮をむいて,中の種子をとりだしてみました。
マメ科なので豆の形をしているのだと思っていましたが,以外にも平べったい勾玉のような形をしています。
種皮が薄く,黄色い子葉が透けて見えます。
何かおいしそうです。
隣に生えていたアレチヌスビトハギ(外来種)の種子と比べてみました。
[写真1]の左側がヌスビトハギの種子,右側がアレチヌスビトハギの種子。
アレチヌスビトハギの方は豆らしい形をしています。
よく似た両者ですが,種子はこんなに形が違うのですね。
[写真2]は,鞘のなかの様子。
ヌスビトハギの種子が鞘と同じ形をして鞘いっぱいにきっちり納まっているのに対して,アレチヌスビトハギの種子は鞘に比べて随分小さめです。
[写真3]は種子を横から見たところ。
どちらも平べったい形をしています。
ヌスビトハギもアレチヌスビトハギも種子散布には,果実を動物に付着させて遠くまで運んでもらうという方法(付着散布)をとっています。
果実の表面にJ字形の突起が密生していて,この突起で動物の毛に付着するのです。[写真5]
果実が平べったいのは,表面積を増やしてより付着しやすくするための戦略です。
そういう意味ではアレチヌスビトハギの方が,種子よりも大きな鞘で覆われいる分,表面積を増加させることにより積極的だといえます。
さらにアレチヌスビトハギは種子を小さくすることにより,自重を軽くし付着力をアップさせています。
果実表面の付着力もアレチヌスビトハギの方が強力です。
アレチヌスビトハギの果実は,人の皮膚などにも容易にくっつきます。[写真4]
(ヌスビトハギも押しつければくっつきますが,すぐにとれてしまいました。)
アレチヌスビトハギは北米原産の外来植物で,1940年に大阪で初めて確認され以来,急速に分布域を広げています。
このあたりで見るのもアレチヌスビトハギばかりで,ヌスビトハギは限られた場所にしか生えていません。
アレチヌスビトハギの勢力拡大の一因には,こうした付着力の強さがあるのかもしれません。
ヌスビトハギについて→2010年9月30日
アレチヌスビトハギについて→2010年10月4日
2010年9月30日
[写真1]ヌスビトハギ
[写真2]ヌスビトハギの花
[写真3]ヌスビトハギの葉(表面)
[写真4]ヌスビトハギの葉(裏面)
[写真5]ヌスビトハギの托葉
[写真6]上:アレチヌスビトハギの実
下:ヌスビトハギの実
ヌスビトハギの花が咲いています。[写真1][写真2]
実には表面にかぎ形をした細かな毛がたくさんあり,いわゆる引っ付き虫の一種として昔からなじみのある植物です。
しかし最近では,在来種のヌスビトハギよりは,外来種のアレチヌスビトハギの方をよく見かけます。
散歩コースには,毎年ヌスビトハギの花が咲く一角がありますが,見かけるのはその箇所だけで,他で見かけるのはアレチヌスビトハギばかりです。
もっとも,どちらの花がきれいかというと,外来種のアレチヌスビトハギの方ですね。
アレチヌスビトハギの花の方が,在来種のヌスビトハギの花より大きくて華やかです。
特にこの場所は日陰の藪で,花も葉も傷んでいて,日向に生き生きと咲いているアレチヌスビトハギの花と比べると見劣りします。
『牧野新日本植物図鑑』(1970年)には,ヌスビトハギについて次のように書いてありました。
各地の山野の林下に多くはえる多年生草本,根はかたく木質である。茎は直立または斜上して高さ60~90cmぐらいになる。上部で分枝して,稜が走り,紫黒色となる。葉は互生して長い葉柄があり, 3出複葉,小葉は卵形,長卵形あるいは卵状のひし形,先端は鋭尖形,基部は円形または鈍形で短柄があり,長さ4~8cm,幅2.5~4cm,頂小葉が最大である。裏面の脈上には毛がある。秋に葉脇から長い花軸を出し,総状花序をつけ,淡紅色,あるいは白色の小形蝶形花をまばらにつける。時には多少複総状花序になる。花序は柄とともに長さ30cmぐらい。花は長さ3~4mmぐらい,長さ5~10mmぐらいの花柄をもつ。がくの先は低い歯状に裂ける。豆果は長さ2~8mmぐらい,2節があり,節は半月形で中に1個の種子を生ずる。表面に短かいかぎ形の毛があり,衣服等につきやすく,種子を広く散布するのに好都合である。
「根はかたく木質である」とあります。
根までは確認していませんが,太くなった茎はかなり木質です。
折ると,ぽきりという感じで,木の枝のようです。
アレチヌスビトハギの茎が折ろうとするとクニっとつぶれてしまうのと対照的です。
葉は「互生して長い葉柄があり, 3出複葉」
[写真3]は葉の表面,[写真4]は裏面です。
葉柄は長く,基部には針状披針形の托葉があります。[写真4]
実は「2節があり,節は半月形で中に1個の種子を生ずる。表面に短かいかぎ形の毛があり,衣服等につきやすく,種子を広く散布するのに好都合である。」
[写真6]は,ヌスビトハギとアレチヌスビトハギの実。
上の4節連なっているのがアレチヌスビトハギ。
下の2節のものがヌスビトハギ。
この形が,盗人の足跡に似ていることから盗人萩の名がついたそうです。
次のように書いてありました。
〔日本名〕盗人萩。泥棒が室内に侵入する時,足音のしないように,足の裏の外側を使って歩くその足跡に,豆果の形が似ているというのでこの名がついた。
実の形は,つま先だった時の形だと思っていましたが,よく読むと「足の裏側の外側を使って歩くその足跡」とあります。
泥棒がぬき足さし足で歩くときには,つま先だって歩くというのが一般人の想像なのですが,「足の裏側の外側を使って歩く」というのはプロの技なのでしょうか。
牧野富太郎の盗人足跡説について,『朝日百科 植物の世界』(1997年)には次のように書いてありました。
牧野富太郎は大正6 (1917)年,『植物研究雑誌』第1巻6号に, 「ぬすびとはぎ卜ハ何故(なぜ)ニ云(い)フ乎(か)」と題する盗人足跡説を発表し,ヌスピト八ギの名の由来を,果実の形が盗人の足跡に似ているためと推定した。同じような果実をもつ同属のフジカンゾウに,ヌスピトノアシの別名があることからの類推である。
この説に対して、 「ヌスビト~」は,気づかない間にその果実が体に取りつく種類をさす形容語であるから,ヌスピト八ギの名前もこの性質に由来するという説もある。
2006年9月21日
ヌスビトハギの実。 牧野新日本植物図鑑には『盗人萩。泥棒が室内に侵入する時,足音のしないように,足の裏の外側を使って歩くその足跡に,豆果の形が似ているというのでこの名がついた』とあります。
盗人の足跡というのは,つま先立った足跡だと思っていましたが,これによると「足の裏の外側」の足跡だということです。
2005年9月19日
左が帰化種のアレチヌスビトハギの実。右が在来種のヌスビトハギの実。
2004年8月27日
ヌスビトハギに実がつき始めていました。