ヌスビトハギの花が咲いていました。特徴的な形をした豆果も,既にいくつか付いています。
外来種のアレチヌスビトハギは日の当たる開けた場所に,あたりを覆いつくすように繁茂していますが,在来種のヌスビトハギは樹林地のやや日陰に,細々と生えているように感じます。

ヌスビトハギ
ヌスビトハギ[ in南禅寺福地町 on2014/9/6 ]
ヌスビトハギ(花)
ヌスビトハギ(花)[ in南禅寺福地町 on2014/9/6 ]
ヌスビトハギ(豆果)
ヌスビトハギ(豆果)[ in南禅寺福地町 on2014/9/6 ]

ヌスビトハギを植物図鑑で調べると,いつの間にか分類が随分ややこしいことになっていました。
『日本の野生植物』(2016年)によると

 世界のヌスビトハギ属の中でヌスビトハギ類は単体雄蕊,有柄節果などの形態的差異が特徴である。1994年に梶田忠と大橋広好によってヌスビトハギ類DNAが解析されて,他のヌスビトハギ属と初期に分岐したことが明らかになった。2000年にヌスビトハギは別属と見なされ,「森に住むヌスビトハギ類」 の意味でHylodesmumと命名された。残るDesmodium は多くが草原や林縁などの陽地を好むことに対する命名であった。ヌスビトハギ属という和名はHylodesmumに移され,Desmodiumはシバハギ属とよばれている。

さらに従来のヌスビトハギはマルバヌスビトハギの亜種とされています。
さらに亜種ヌスビトハギは,狭義のヌスビトハギと変種ヤブハギに分けられています。

 亜種ヌスビトハギ subsp. oxyphyllum (DC.) H. Ohashiet R. R. Mill; Desmodium oxyphyllum DC.; D.race-mosum DC. (PL.213) は,頂小葉が菱状卵形から卵形,鋭頭から鋭先頭,長さ (2.5-) 3-10(-12)cm,幅(1.5-)2-5(-7) cm。学名のoxyphyllum は1825年にネパールで採集された標本に命名されたが,マルバヌスビトハギに比べて小葉の先がとがることに基づいた命名であったと思われる。日本では2形が認められる。

狭義の (変種) ヌスビトハギvar. japonicum (Miq.) H.Ohashi; Desmodium podocarpum subsp. oxyphyllumvar. japonicum (Miq.) H. Ohashi は,平地から山地の草地,林縁,道ばたなどあまり人手の入らない日当りのよい場所に生えるふつうの多年草。染色体数 2n=22。北海道~九州・琉球(稀,南限は沖縄本島名護),朝鮮半島・台湾・中国・ヒマラヤ・ミャンマー・インドに分布する。白花品をシロバナヌスビトハギ f. albiflorum (Iwa-
ta) H. Ohashiという。

変種ヤブハギvar. mandshuri-cum (Maxim.) H. Ohashi et R. R. Mill; Desmodiumpodocarpum var. mandshuricum Maxim.; D. fallax var.mandshuricum (Maxim.) Nakai; D. racemosum var.mandshuricum (Maxim.) Ohwi; D. oxyphyllum var.mandshuricum (Maxim) H. Ohashi はヌスビトハギの一型で,より陰地を好み、平地から山地の林下に見られ,分布もより北方的である。染色体数2n=22。北海道~九州,朝鮮半島・中国(北部・東北部) 極東ロシア(ウスリー)に分布する。白花品もある。

ヌスビトハギとヤブハギの違いは,検索表では次のようになっていました。

c. 小葉は厚質,裏面は緑色で多毛,網状脈が目立つ。葉は茎全体に散生する。花はふつう紅紫色……(変種)ヌスビトハギ
c. 小葉は薄質,裏面は帯白色でほとんど無毛,網状脈はあまり目立たない。葉は4-6枚が茎の中央付近に集まってつく。花は白色で,先端に帯紅紫色……(変種) ヤブハギ

この個体の葉は「茎全体に散生」しているので,ヤブハギではなく(狭義の)ヌスビトハギだと思います。

ヌスビトハギ(全姿)
ヌスビトハギ(全姿)[ in南禅寺福地町 on2014/9/6 ]

小葉については,どちらの特徴を表しているのか判然としません。少なくとも裏面は多毛とはいいがたいと思いますが。(ならばヤブハギ?)

ヌスビトハギ(小葉:表面)
ヌスビトハギ(小葉:表面)
ヌスビトハギ(小葉:裏面)
ヌスビトハギ(小葉:裏面)

・小葉は3枚。小葉の側脈は縁に合流する

ヌスビトハギ(3出複葉)
ヌスビトハギ(3出複葉)

・頂小葉は中部よりも下方でもっとも幅が広い。

ヌスビトハギ(頂小葉)
ヌスビトハギ(頂小葉)

・托葉は早落性,基部の幅1mm以下

ヌスビトハギ(托葉)
ヌスビトハギ(托葉)

ヌスビトハギ属の花の特徴

萼は上部で5裂し,向軸側の2裂片は基部で合着し萼裂片は4個に見える。旗弁は倒卵形から広倒卵形,翼弁と竜骨弁はふつう一部で付着しており、 基部にはともに爪がある。竜骨弁は雄蕊と雌蕊とを包み,舷部の下部(背軸側)の縁で一部分が合着する。雄蕊は10個,全部の花糸が合着して単体雄蕊となる。花内蜜腺を欠く。雌蕊は1個で離生し,花柱は内曲し,先端に小型の柱頭をつける。

ヌスビトハギ(花:側面)
ヌスビトハギ(花:側面)
ヌスビトハギ(花:下面)
ヌスビトハギ(花:下面)
ヌスビトハギ(子房の膨らんだ花)
ヌスビトハギ(子房の膨らんだ花)

ヌスビトハギ属の豆果

豆果は扁平な節果で,有柄,かぎ毛があり,小節果をつなぐ節はいちじるしく細く節果の幅の1/3-1/4,熟しても裂開せず,小節果ごとに分離する。

マルバヌスビトハギの豆果

子房に短柄があり,のちに節果の柄となって長さ2-5mm。節果はふつう2-3個,ときに1個の小節果よりなる。

ヌスビトハギ(豆果)
ヌスビトハギ(豆果)
ヌスビトハギ(豆果)
ヌスビトハギ(豆果)