オオスズメバチの過去投稿を一つにまとめました。
2024年10月4日
オオスズメバチが虫の死骸をかじっていました。
獲物はカマキリのようです。少し離れたところに翅が散らばっていました。
オオスズメバチにしては体が少し小さく感じます。
♂でしょうか。
今の時期に♂がもう発生しているのでしょうか。
オオスズメバチの♂♀の相違点は,
・♂の触角には13,♀の触角には12の節がある。
・♂の腹部は7節,♀の腹部は6節からできている
・♂の腹端は円くなっていて毒針はない。♀の腹部の先端は尖っていて毒針がある。
触覚の数は,写真からは判読できませんでした。
腹節の数は,写真で数えると7節あります。やはり♂のようです。
腹端は円くなっているのか尖っているのか,写真を見ると微妙です。実はこの時,盛んに腹端を突き出して刺すような行動をしていました。でも写真を見ると,毒針は出ていません。
2022年9月3日
●仰向けになったアブラゼミが翅をばたつかせていました。何か黄色いものがくっついています。顔を近づけて見るとオオスズメバチでした。オオスズメバチが強力な大あごで喉元(!?)に食らいついていたのです。アブラゼミは悲鳴を上げながら翅をばたつかせていますが,翅を抑え込まれては逃れようがありません。先ずは翅の動きを止めるためでしょうか翅のつけねを噛んでいます。動きが止まると胸と腹の間を切り裂いてゆき,頭を胸部に突っ込みます。頭を上げると大きな肉団子をくわえていました。こちらと目が合ったので,少しびびります。肉団子をくわえたままクルクルと回りだしたので,ひょっとしたら威嚇行動かなと怖くなってその場を離れました。
2017年12月2日
道に大きなハチが死んでいました。[写真1]
オオスズメバチです。
踏まれたのか,少し傷んでいます。
腹部に何か白いものがついていますね。[写真2]
宿主が死んでしまって,寄生していた虫が出てきたのでしょうか。
調べようと思い持ち帰ったのですが,1日置いていたらべたべたに溶けてしまって,正体がよく分かりませんでした。
単に,体液が漏れ出てきただけだったのかもしれません。
よく見ると,腹端は尖っておらず,針もありません。[写真6]
新女王バチかなと思ったのですが,♂のようです。
♀の腹端は尖っていて,針があります。
♂の腹節は7節[写真7](♀は6節),触覚も13節[写真8](♀は12節)あります。
3年前にも今の時期にオオスズメバチの♂が死んでいて,記事にしています。(→2014/12/3)
2014年12月13日
オオスズメバチ(もちろん死んでいる)の前翅を前後に動かしてみると,後翅も連動して動きます。
後翅の前縁に小さなフックが並んでいて,前翅後縁にひっかかっているのです。
これで前後の翅を連結して一枚の大きな翅として働かせています。
[写真3]は,後翅の前縁に並んだフック(翅鉤(しこう))。
[写真4]は,前翅の後縁部分を切断した断面です。
フックが引っかかりやすいようにカールしています。
[写真5]は,フックが後縁にひっかている状態です。
大阪市立自然史博物館『ハチまるごと!図鑑』(2012年)には,ハチの翅について次のように書いてありました。
翅は4枚あり,透明で膜状です。やや長い前翅とそれより小さい後翅をもちます。後翅の前縁には翅鈎(hamuli)と呼ばれる一連の小さなフックが並んでおり,これを前翅の後縁にひっかけることにより,前後の翅を一枚の大きな翅として働かせています。ハチの仲間の専門的な呼び方である膜翅目(Hymenoptera)は古代ギリシア語で膜を意味する”hymen”と,翅を意味する”pteron”が結びついたもので,膜の翅というハチの特徴をよく表した名前です。同時にHymenというのはギリシャ神話の婚姻の神で,ハチの前翅と後翅が結びついている様子を意味しているとも言われています。翅には「翅脈」が,植物の葉脈のように走っています。この翅脈は翅の支えとなって,高速での翅ばたきを可能にしています。翅脈は一般的に祖先的なハチであるハバチやキバチでは複雑で,徐々に単純なものとなる傾向が見られます。またコバチ類などの小型のハチでは非常に単純化が進み,翅の前縁のみに見られる場合もあります。
[写真1]は,前翅と後翅が連結して一枚になっている状態。
いかにも速く飛んで,かつ小回りがききそうな,戦闘機の翼のような形をしています。
[写真2]は,分離させた前翅と後翅。
前翅は後翅の倍以上の大きさがあります。
翅脈は割と単純です。
虫は進化するにつれて,翅脈は単純化し,後翅は小さくなっていく傾向にあるようです。
不完全変態のトンボやバッタの翅と,完全変態であるチョウやハチ,ハエの翅を比べると,完全変態であるものの方が翅脈は単純で,後翅も小さくなっています。
ハエに至っては,後翅が退化して平均棍といわれる器官に変化してしまっています。
上書によると,ハチの仲間のなかでも,より進化した種の方が翅脈はより単純化する傾向にあるようです。
そもそも虫の翅は,何が変化したものなのでしょうか。
平凡社『世界大百科事典』(2007年)には,昆虫の翅について次のように書いてありました。
多くの昆虫の成虫には翅が4枚(中・後胸部に各1対)ある。体壁の背側部が左右に伸長してできたものであるが,一般に薄い膜質で,その中には筋肉がなく,気管から変化した脈が走っている。古生代に生息した原始昆虫のなかには前胸も伸長しているものがあるが,翅は広げたままで,滑空できる程度であった。その後,しだいに前翅・後翅に分化が起こり,たたみこめるようになり,飛翔能力を獲得することによって生活圏や分布を広げ,昆虫類の現在の繁栄をもたらした。現存の無翅昆虫のなかでも,個体発生のある時期(ノミではさなぎ期)には小さい翅状突起がみられる。甲虫目(鞘翅目)では前翅が硬化して翅鞘,直翅目(バッタ類)ではやや硬化して覆翅,半翅目(カメムシ類)では基半部だけが硬化して半翅鞘となる。双翅目(ハエ類)では後翅が平均棍となり,飛行中の平衡を保つのに役だつ。トンボやバッタは前翅・後翅を別々に,チョウやハチは同時にはばたく。
世界大百科事典には昆虫の翅は「体壁の背側部が左右に伸長してできたもの」と書いてありますが,これは古い定説のようです。
朝倉書店『昆虫学大事典』(2003年)には,昆虫の翅の起源について次のように書いてありました。
ムカシアミバネムシ目の化石には,前胸の背板両側に翅のような張り出しと翅脈様の構造があることから,翅は胸部側背板起源であると説明され(paranotaltheory),コウモリの翼やムササビの飛膜同様に昆虫でも翅が発達したとされた(例えばSnodgrass,1958)。しかし,筋肉のない側背板に複雑な構造と発達した筋肉系をもつ翅が生じたとは考えにくいことや化石に中間段階の昆虫が発見されないことなどから,1960年代まで定説とされた側背板説は単なるお話しにすぎないと考えられている。
Birket-Smith (1984)は,現生昆虫の比較形態からカンブリア紀やオルドビス紀に節足動物の有節鰓から脚が発達した際,最基部の鰓が機能的に変化して翅になったと推定し,Kukalova-Peck (1978,1987,1991)は石炭紀化石昆虫の研究から,翅は上基節(epicoxa,Sharov,1966のprecoxale)にある肢外葉起源であるとし,翅の原器は幼虫の腹部を含む全節にあって,若い幼虫では側背板の下の部分と関節接合をして可動であるが,老熟するにつれて胸部では側背板と癒着するようになるとした。このように翅は付属肢最基部起源で,先駆構造物が機能転化して生じたと最近では考えられている。
平凡社『日本動物大百科 第8巻』(1996年)には,昆虫の翅について次のように書いてありました。
昆虫の翅はまさに昆虫独自のものである。昆虫の翅の起源についてはいろいろな説があるが,とにかくそれは生物界には珍しい,まったく新しい出現物であった。
両生類は魚のひれをあしに改良した。そして鳥はその前肢を翼に改良した。しかし,昆虫の翅はあしを改良したものではない。体の背と腹のあいだからまったく新しく側方へ張りだしたでっぱりを,関節で体にとりつけた新製品であった。
翅で空中を飛べるということが,昆虫にどれほど大きな利益をもたらしたことか。翅のおかげで彼らの移動能力は格段に高まり,空間距離はいちじるしく短縮された。大げさにいえば,翅の出現によって,昆虫においては空間が変容したのである。これが昆虫の”成功”のきわめて大きな原因の1つであったことはまちがいない。
その翅を昆虫はじつにさまざまに改良し,それに従って多くのグループが生まれた。今われわれが昆虫類を,鱗翅(りんし)類,双翅(そうし)類,半翅(はんし)類などと”翅”の特徴によって分類しているのも,そのような理由からなのである。
生物の進化というのは不思議ですね。
もし人に羽が生えていたとしたら,どんな文明を作っていたでしょうか。
2014年12月3日
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[写真1]2014/11/17
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[写真2]♂腹節
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[写真3]♂触角
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[写真4]♂頭部
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[写真5]♂単眼
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[写真6]♂腹端
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[写真7]♂側面
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[写真8]左側:♂ 右側:♀
道に大きなスズメバチがとまっていました。[写真1]
夏の獰猛さは見るかげもありません。
傾いた体に,かすかに動く肢,瀕死の状態といった感じです。
今の時期にいるのは新女王バチでしょうか。
持ち帰って調べてみました。
女王バチなら触角の節数は12節のはずです。
確認のためにを数えてみると,何度数えても一つ多い13節あります。[写真2]
ひょっとしたらオスかもしれません。
腹を押さえてみても,腹端から毒針は出てきません。
腹部の節数を数えてみると,7節ありました。[写真3]
やはりこれはオオスズメバチのオスです。
山内博美著『都市のスズメバチ』(2009年)には,スズメバチのオスとメスの違いについて,次のように書いてありました。
頭部には2本の触角があり,ここで匂いを感じている他,6角形の育房を作る際に形や大きさを測るための定規の役割も果たしている。触角には,オスには13,メスには12の節があり,形も違っているのでオス・メスを見分けるのに役立つ。
頭部の左右には,多数の小さな個眼が束状に集まった複眼,複眼のまん中に3つの単眼がある。物の形や動きを見るのは複眼の役目で,単眼は明暗を区別して複眼の働きを助けている。
胸部には4枚の羽と6本の足がついている。ハチの羽は,前翅と後翅がかぎでつながっていて,一緒に動くので2枚のように見える。腹部はオスが7節,メスが6節からできている。メスの腹部の先端は尖っており,産卵管が変化した毒針がついていて,これで人を刺すことがある。オスには毒針がないので,腹部の先端はメスのように尖っていない。
まとめると次のようになります。
・オスの触角には13,メスの触角には12の節がある。
・オスの腹部は7節,メスの腹部は6節からできている
・オスの腹端は円くなっていて毒針はない。メスの腹部の先端は尖っていて毒針がある。
[写真8]はオオスズメバチのオスとメス(女王バチ)を比べたもの。
左側のオスは今回の個体。
右側のメスは2年前に自宅前で死んでいたもの。(→2012年6月21日)
見比べてみると,触角はオスの方が明らかに長いです。
腹長は,この写真で見る限りでは,オスの方が長いという感じはしません。
腹端は,メスは尖り,オスは円くなっています。
スズメバチ科の雌雄は同じような違いがあります。
・セグロアシナガバチ雌雄の違い→2008年11月18日
・キアシナガバチの雄→2012年12月8日
働きバチは全てメスで,オスは新女王バチと交尾する目的だけのために秋に誕生し,晩秋には全て死んでしまいます。
顔面の写真をよく見ると,頭盾と呼ばれる部分が,何かで突かれたように割れています。[写真4]
動けないのはこの傷が原因かどうかはわかりませんが,どちらにして冬を越すことはできません。
2012年6月21日
自宅前の草むらに,オオスズメバチが不自然な形で引っ掛かっていました。
ぴくりとも動かず死んでいるようなのですが,もし生きていたらと思うと,素手でつかむ勇気はありません。
恐るおそるピンセットでつまみ上げると,やはり死んでいるようです。
それでも,突然動き出すのではと,きが気でありません。
体長は40mmほどで,体の大きさからすると女王バチです。
外傷などもなく,なぜ死んでいたのか不明です。
北隆館『日本昆虫図鑑』(昭和31年・1956年)には,オオスズメバチについて次のように書いてありました。(原文は旧漢字)
雌 頭部は黄赤褐色,単眼の付近・上腮の先端の大部分は黒褐色。触角は黒褐色,柄節の前面に赤褐色斑がある。胸部は黒褐色で前胸背板の稜縁の不判明な細線・肩板の1端・中胸小楯板及び後胸背板の1対の点斑は暗赤褐色。腹部は背板腹板共に各節の後縁に黄褐色帯斑を有し,尾節にはほとんど全部に及び,第1,2背板では中央に同色の横帯を有する。翅は褐色,前縁濃く翅脈は黒褐色乃至暗赤褐色。頭部はほとんど平滑。体に褐色または黄褐色の細毛を密生し,表面褐色を帯びる。後頭及び胸部には褐色,腹部では黄褐色の長毛を粗生する。体長40mm内外。職蜂は小形で25mm以上である。色彩は個体により変化する。
随分細かく,体の特徴が書いてありますね。
最近の図鑑はカラー写真が載っているためか,これほど細かくは書いてありません。
雌は「体長40mm内外。職蜂は小形で25mm以上である。」
「職蜂」とは,「働きバチ」のことです。
[写真6]は,腹端から出たままになっていた毒針です。
拡大して見ると,鋭利な金属製のナイフのようです。
女王バチの毒針について,以前から疑問に思っていたことがあります。
ハチの毒針は,産卵管が変形したものです。(そのため,雄のハチには毒針がなく,刺すこともありません。)
それなら,女王バチは産卵するために産卵管を本来の役割に使うので,毒針は持たないのではないかということです。
しかし女王バチも刺すことがあるという記述もあるので,巣作りしているどこかの時点で,毒針が産卵管として機能するように変化するのかなと思っていました。
スズメバチの女王が産卵管で産卵すると思いこんでいたのは,キバチが産卵管を木に差し込んで産卵している写真などを見ていたからです。
しかし,これは大きな勘違いでした。
すべての種類のハチが,産卵管を用いて産卵するのではなかったのです。
キバチが属する広腰亜目のなかまは,産卵管は毒針に変化しておらず,産卵管を植物に突き刺して産卵します。
一方スズメバチが属する細腰亜目・有剣類のなかまは,産卵管は毒針に変化してしまっており,卵は毒針のしたにある別の孔から産み落とされるのでした。
スズメバチの産卵シーンを見ると,女王バチは巣の区画に腹端を差し込んでいます。
こうした産卵ならば,産卵管は必要ありません。
小学館の図鑑NEO「昆虫」(2002年)にも,「産卵管と針」として,ちゃんと書いてありました。
ハチの産卵管は,腹部の後ろのほうにあったあしが変化してできたものです。多くのハチでは,その産卵管がさらに変化して,さすための針になり,卵は,針のつけ根のあなから産み出されます。
11月26日
・オオスズメバチが死んでいた。腹端が丸く,触覚が13節,腹節も7節なので♂。(九条山)
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[写真22]オオスズメバチ
2007年11月10日
道にスズメバチがとまっていました。
オオスズメバチ(働きバチ)だと思います。
どうしたのか,体の左半分が動かないようです。
それでも右側の脚を必死に動かして,お尻をこちらに向け威嚇しています。
顔をじっくり見ると,ものすごく頑丈そうな口をしていますね。
ハチの仲間の口器は,下唇(かしん)の先端が長くのびて吸収型の口になっているものと,大顎が発達してかむのに適している口になっているものとがあります。
ミツバチやハナバチなど花の蜜を吸うハチは吸収型の口をしていますが,スズメバチなど肉食のハチは大顎が発達しています。
翅は左右1枚ずつに見えます。これは前翅と後翅が重なっているためです。
ハチやアリなど膜翅目の昆虫は,後翅の前縁にかぎがあって,飛ぶときには前翅の後縁にひっかけて,1枚の翅のようになります。
(ちなみにアブ,カ,ハエなど双翅(そうし)類の昆虫は,実際に翅は2枚しかありません。後翅は退化してしまい,平均棍となっています。)
スズメバチの1年はおよそ次のようなものです。
・春に冬眠から覚めた女王バチは,1匹で巣作りをし産卵します。
・夏,卵からかえったハチはすべて雌で,働きバチとなって巣作り,子育てを手伝います。
・秋,たくさんの働きバチが生まれ,9月,10月に集団の個体数が最大となります。
・秋の終わり,新しく生まれた女王だけが交尾して生き残ります。
今の時期の女王バチは,春からせまい巣盤の間を歩き続けているため翅が擦り切れ,体のつやもなくなり,みすぼらしい姿になっているそうです。それでも空の部屋をみつけては卵を産みつづけ,卵を産む機械と化しているそうです。
「女王バチ」「働きバチ」という名前から想像してしまう,優越した地位,従属した地位というものはなく,どの個体も等しく種を維持してゆくための役割を果たしているだけなのですね。